出張。私はそれをご馳走旅と読む。

 案外すんなりと席につけたことに胸を撫で下ろしていると、店員がすぐさまお冷を持ってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
 私は、メニューにさっと目を走らせる。
 モーニングセットはAがトースト。Bは小倉トースト。Cがワッフルで、Dはホットケーキ。
 これら全てにサラダとゆで卵。それからミニスープが付いている。
 それなりの量がありそうなのに、値段はなんとドリンク代だけらしい。
 そのドリンク代は、最安値のホットコーヒーが500円。つまり、モーニングセットは500円からということになる。
 東京では考えられない値段設定に内心で驚きつつ、注文を終えた私は、そっと店内を見渡す。
 客層としては、年配の女性が多そうだ。連れがいないのは私だけのようで、どの席も朝から会話に花を咲かせている。
 隣の席から聞こえてくる何気ない世間話に耳を傾けながら、一宮モーニングをゆっくり味わう。
 東京の朝は、忙しなく空気がざわざわとしている。それなのに、誰かのおしゃべりなんて聞こえないし、いつもどこか重怠い。
 でも、ここは同じ朝なのに、軽やかで楽し気だ。
 聞こえてくるのは、なんてことはない世間話。特段面白い話ということもない。もちろん私が会話に混ざるわけでもない。
 それでも、この街の日常へ少しだけ溶け込んだみたいに、私の心は弾んだ。
 満足感と共に店を出ると、その足で今回の目的地である新店舗へ向かう。
 ギリギリまでモーニングを楽しめるように、店舗の前の喫茶店をチョイスしたので、新店舗へは迷わずに行けた。
 開店したばかりの店内は慌ただしい。
 商品陳列に時間がかかる新人スタッフのフォローや、お客様導線の整理。販促物の配布。
 やることはいくらでもあった。
 あっという間に時計の針は正午を回っていた。
「朝倉さん、昼休憩行ってきてください」
 売場責任者の女性スタッフにそう声を掛けられ、私はようやく仕事から顔を上げた。
「ありがとうございます。でも皆さんもまだですよね?」
「私たちも交代で取りますから大丈夫です」
 そう言って彼女は笑う。
「せっかく東京から来てもらってるんですし、一宮を楽しんでください」
 その言葉に少しだけ頬が緩んだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 そう返して、店舗用のエプロンを外し、休憩モードへ。
「この辺りで、何か地元メシみたいなものはありますか?」
 さりげなく情報収集をしてみると女性スタッフは少し顔を曇らせた。
「そういうのは、この辺りでは。何もないところですから」