出張。私はそれをご馳走旅と読む。

 名古屋駅に降り立つ。
 ちょっぴり湿気のある空気が肌を掠める。東京とはどこか違う名古屋の空気。
 その空気を思いっきり吸い込んだ。途端に私の鼻腔には、美味しそうなかつお出汁の香りが広がる。
 時刻は午前8時前。今回の旅の目的に定めたきしめん屋は、もう開店しているようだ。
 だけど、まだ行かない。きしめんは帰る前のお楽しみだ。
 まずは、一宮へ。
 電車に揺られること15分。出張の目的地である一宮市へ到着した。
 佐伯がベッドタウンと言っていたとおり、駅はかなり大きめで、多くの人が行き交っている。
 その人混みをかき分けて、タクシー乗り場へ向かう。
 ちょうどロータリーへ入って来たタクシーを捕まえると、運転手に目的地である喫茶店の名前を告げる。
「あぁ、あそこね。車がいつもいっぱいで停められないって有名な店だ」
 運転手はそう言って、笑った。
「そうなんですか? モーニングが食べたいんですけど、お店に入れるでしょうか?」
「どうだろうね。でもまぁ、店を選ばなきゃ、食べられるよ。この辺りは、喫茶店が多いから」
 どうやら運転手はこの辺りの喫茶店に詳しいようで、喫茶店の前を通り過ぎるたびに、その店のモーニングのメニューを教えてくれた。
 少々おしゃべりな運転手の喫茶店案内を聞きながら車窓の外を眺めているうちに、あっという間に目的の店に到着した。
 運転手が言ったように、広めの駐車場は、既に多くの車で埋まっていた。
「あちゃぁ。やっぱり、車がいっぱいだ。でも、いつもよりは少ないか。いつもは、駐車待ちの車もいるから。どうする? この店でいいかい?」
 私は、運転手のその情報を信じて、喫茶店の前でタクシーを降りた。
 そこは、一見すると民家のような佇まいの喫茶店だった。
 カランコロン……
 ドアを開けると、ベルの乾いた音が店内に響く。それからすぐにコーヒーの香りが漂ってくる。
 コーヒーの香りを堪能しながら、店内にさっと視線を走らせる。
 開店してそれほど時間は経っていないのに、ほとんどのテーブル席が埋まっている。
 入口付近に設置された記名表には数組の名前が書かれていた。
 どうしたものかと思い悩んでいると、通りかかった店員に声をかけられた。
「何名様ですか?」
「あ、ひとりなんですけど……」
「ちょうど、一人席が空いていますから。奥のカウンターへどうぞ」
 促されるまま、私は店員の後をついていく。テーブル席の間を抜けて、案内されたカウンター席は、5席のうち4席が埋まっていた。