出張。私はそれをご馳走旅と読む。

 佐伯は悪気なく、むしろ純粋に興味を持った顔で言ってくる。
 そんなわけあるかーい!
 思わず口から飛び出しそうになった言葉を呑み込む。
「ち、違うから」
 なんとかトーンを落として佐伯の勘違いを正した。
 しかし、佐伯はあっけらかんと笑い、私の言葉を軽く受け流す。
「いや、隠さなくても大丈夫っす。別に引いたりしないっすから」
 まさかそんな方向に誤解されるとは思わなかった。
 私はただ、ひとりで食べる時間が好きなだけなのに。
 心の中で、そっとため息をついた。
 佐伯は、そんな私の様子を気にすることもなく、さらに続ける。
 どうやら彼は“爆食系女子”というパワーワードが気に入ったようだ。
 私の反応を面白がるように身を乗り出してくる。
「あれっすよね、動画とかでよく見るやつ。なんか、信じられない量を一人でガーッと食べるみたいな。朝倉さんも、実はそういうタイプだったり?」
「違うってば」
 私は即座に否定した。
 けれど佐伯は、私の言葉をまるで聞いていない。
「いやぁ、でもなんか分かる気がするんすよね。朝倉さんって、仕事はきっちりしてるけど、食べ物の話になるとちょっとテンション上がるじゃないっすか」
 それは……否定できない。
 けれど、そういうことじゃない。
「別に、爆食なんてしないから」
 できるだけ冷静に返したが、佐伯は「はいはい」とやはり軽く流しながら続ける。
「いや、いいと思いますよ? 俺、そういうギャップ好きっす。普段落ち着いてる人が、実はめっちゃ食べるとか、なんか可愛いじゃないっすか」
 可愛いじゃないっすか、って。
 どこまでズレた解釈を広げるつもりなのだろう、この後輩は。
 心の中で深くため息をつく。
 私は爆食なんかしない。
 ただ静かに“土地の味”を受け取りたいだけ。
 けれど佐伯は、そんな私の内心など露ほども知らず、満足げに頷いていた。
「いやぁ、朝倉さんの新しい一面を知れて良かったっす」
 その新しい一面とやらは、完全にあなたの勘違いですよ。
 でも、「実は」と訂正するほどの大した理由でもない。
 だって、出張にかこつけて、地元メシを一人で静かに堪能したいだけだもの。
 私は手元の書類をそっと手繰り寄せ、視線を落とした。
 さすがの後輩も、私の醸し出す空気が変わったことに気がついたようだ。
「ま、楽しみがあるのは良いことっす。出張、気をつけて行ってきてください」
「うん。ありがとう」
 会話を締めて程なくすると、私たちの間にはパラパラと書類をめくる小さな音だけが残った。