出張。私はそれをご馳走旅と読む。

「やっぱ、味噌カツじゃないっすか?」
「味噌カツ? それって、名古屋の名物よね?」
 得意げに出された答えは、私でも知っている名古屋名物だった。
「もしかして、名古屋と一宮では、味噌カツに違いがあるの?」
 前のめりに聞く私をよそに、佐伯は「さぁ」と軽く首を傾げた。
「俺は、味噌カツってあまり食わないんで、よくわからないっす。でも、店によって味は違うんじゃないっすか」
 それは、そうでしょうとも。
 思わず、そうツッコミたくなるのを我慢する。
「へ、へぇ……他には?」
「他にっすか? 天むすとか? あ、これも俺はあまり食べないんすけど」
 天むす。確かエビの天ぷらをおにぎりの中に入れたものだったはず。
 でも、それも名古屋名物だよね、佐伯くん? そうじゃなくて……。
 私のモヤモヤとした気持ちに気づかず、佐伯は佐伯なりに答えを導き出そうとしてくれている。
「あとは手羽先。『世界の山ちゃん』が東京にあるって知った時は、めっちゃ嬉しかったっす」
「そのお店なら知ってる。そっか。あの店って名古屋発祥なんだっけ」
 私は、思わずポンと手を打った。
 何度か食べたことがある。かなりスパイシーで味の濃い手羽先だが、確かに美味しくて癖になる。
 味噌カツに、天むすに、手羽先に……。
 佐伯の口から出てくるのは、名古屋メシの中でもスタンダードなものばかり。
 確かに、名物を聞いたけれども。
 さすがに、一度は口にしたことのある物ばかり。目新しい情報は今のところない。
「あ、そうだ。俺は食べたことないんっすけど、気になっている店が一つあります」
「ねぇ。佐伯くんって、もしかして食事に興味ない?」
 とっておきの情報を思い出したとばかりにドヤ顔を向けてきた後輩の言葉を、手を挙げて遮ってしまった。
 佐伯は、私の問いにキョトンとした顔を見せる。
 私は慌てて頭を下げた。
「あ、立ち入ったことを聞いてごめんなさい。でも、さっきから地元の名物に対して、その……あまり興味が無さそうと言うか……」
 私のたどたどしい言葉に、佐伯はプッと吹き出した。
「え? 地元民がわざわざ地元料理を店に食べに行くと思います? わざわざ食べに行くのは、観光客くらいっすよね?」
 それは、確かにそうかもしれないけど……。
 でも、美味しいものなら、地元民も観光客も関係なく食べると思う。
 きっと、佐伯は食にあまり関心がないのだ。
 そんな人に聞いても、これ以上有益な情報は得られないだろう。
 そんな落胆が態度に出てしまっていたようだ。