出張。私はそれをご馳走旅と読む。

 私の言葉に佐伯は思いっきり眉を寄せた。
「マジっすか。チラッと聞こえましたけど、日帰りできるところを、わざわざ一泊するんすよね?」
 佐伯は、特に悪意があるわけではなく、思ったことを素直に口にしてしまうタイプだ。
「なんでそんな予定組むんすか? 俺だったら、さっさと帰りたいっす」
 裏表がなくサッパリしている性格なので、一緒に仕事をするのに苦はないのだが、この遠慮のない物言いと無頓着さにはたまにドキリとさせられる。
 私は内心を気取られないように、笑顔を作る。
「今回応援に行く新店舗の一宮店って、名古屋を経由するみたいなの。だから、ついでに、名古屋店の視察もしておこうと思っただけよ。何度も出張するより、私はそのほうが楽なの」
 本当はそれ以外の理由もあるのだが、佐伯に全てを話すこともない。
 それらしい回答をすまし顔で返すと、佐伯は納得の表情で大きく頷いていた。
「なるほどねぇ。そういう考えもあるのかぁ。参考になります。ってか、出張先、一宮なんすね? 俺、めっちゃ地元っすよ」
 佐伯がさらりと言ったその一言に、私は飛びつかんばかりに反応した。
「えっ!? そうなの?」
 思わず大きな声が出てしまい、慌てて口を手で塞ぐ。
 佐伯は、そんな私を見て目をパチクリとさせた。
「あれ? 俺、言いませんでした?」
 言われてみれば、以前に愛知県出身だと言っていたような気がする。だが、同僚の地元を事細かには覚えていない。
 まさかこんなところに情報源がいたとは。
 私は浮かれる心を抑えて、できる限り平静を装った。
「そうなんだ。一宮ってどんなところ?」
「どんな? 比較的大きい街だとは思いますけど、これと言って特には。名古屋のベッドタウンって感じっす」
 佐伯は、特に何も意識していない様子でサラリと答える。
「ご飯とかは? 何かあるかな?」
 私は有力情報を期待して、さり気なく会話を広げてみる。
「飯っすか? まぁ、東京ほどじゃないっすけど、大体どこにでもコンビニはありますよ。『吉野家』とかのチェーン店もありますし。飯の心配をするほど田舎じゃないっすよ」
 佐伯は「心外だなぁ」と冗談めかして笑った。
「いや、そうじゃなくて」
 私は慌てて口を挟む。遠回しな言い方では、佐伯には伝わらなかったようだ。今度は直球で聞いてみる。
「名物とかはないの?」
 佐伯は、ようやく私の意図を汲んだのか、少し考えるような素振りでしばらく沈黙した。
 やがて答えが出たのか、顔を上げた佐伯は得意げに言った。