出張。私はそれをご馳走旅と読む。

 東京へ戻った翌日から、仕事はいつも通りだった。
 会議があり、資料作成があり、問い合わせ対応に追われる。
 出張の余韻に浸る暇もない。
 それでも、「家には最後の名古屋メシが待っている」と思うと、パソコンのキーボードを叩く手は軽やかだった。
 仕事を終えると、一目散に会社を飛び出し家路につく。
 家で私を待っているのは、お土産に買った味噌煮込みうどん。
 もちろん現地で食べるのとは雲泥の差だろうけど、それはそれ。
 お土産を食べるまでが出張である。
 それに、私にはもう一つ楽しみがある。
 出来上がった味噌煮込みうどんをパシャリと写真に収めると、早速SNSへ投稿した。
 そう、出張のもう一つの楽しみは、こうして旅の記録をSNSに投稿することだ。
 出張のたびに、私はその土地で食べたものや感じたこと、出会った人のことを記録に残している。
 初めは誰かに見せるためのものではなかった。ただの自己満足。
 それでも、「地元です!」とか「ようこそ〜」なんてコメントをもらえると、またその土地に触れたような気がして嬉しくなった。
 投稿を重ねていたら、「私の地元メシはコレです! 是非食べに来てください」なんてコメントをくれる人もいた。
 私が投稿した写真を見て、「美味しそうだったので、現地へ足を運んだ」とコメントをもらったこともあった。
 遠く離れた地と、私を含めたたくさんの人たちが繋がっていることがなんだか嬉しくて、出張した際には、必ずSNSを投稿するようになった。
 熱々のうどんを頬張りながら、今回の出張記録を見返していると、早速コメントが流れてきた。
『俺の地元じゃん。でも、あんま食べたことないものばかり。今度帰ったら、全部食べてこよう』
 あ、また繋がった。
 私は、箸を置いて小さく微笑んだ。
『現地の人が何を食べて、どんな話をして、どんな朝を過ごしてるのか。是非、土地の空気ごと味わってきてください』
 そうコメントに返事を書いた。
 しばらくすると、またコメントが届く。
『わかりました! めっちゃ深呼吸してきます!』
 ちょっとズレた返しが、なんだかあの後輩を思わせて、思わず笑ってしまった。
 でも、旅の味わい方は人それぞれ。それで十分な気がした。
 ご馳走とは豪華な料理に限ったことではない。
 その土地の日常を少しだけ分けてもらうこと。
 私にとっては、それがご馳走。
 出張。
 私はそれをご馳走旅と読む。