出張。私はそれをご馳走旅と読む。

 その後、私は新店舗へ顔を出し、少し作業を手伝ったのちに一宮を後にした。
 移動中の電車の窓から景色を眺める。
 街並みが少しずつ遠ざかっていく。
 たった一泊だったのに、不思議と知り合いの街を離れるような気分だった。
 午後には名古屋店の視察が控えている。
 その前に昼食を取ろうとやってきたのは、名古屋駅構内にある「名古屋うまいもん通り」という飲食店が並ぶ一角。
 ファストフードや名古屋メシを提供する店に交じってその店はあった。
『味仙』
 店の近くにいるだけなのに、強烈な刺激に襲われ、思わず咳き込む。
 大量の唐辛子とニンニクの香り。いや、香りというか、もうこれは刺激だ。
 辛いものが得意な人なら食欲をそそられるのかもしれないが、私の場合は少々恐怖心の方が勝っていた。
 佐伯から送られてきたメールにも、『激辛注意』と書かれていた。メールを見た時は「大袈裟だな」と思ったけれど、今は謝りたい。
 店に入る前からもう辛い。
 まだ何も食べていないのに……。
 尻込みしつつ店内を覗くと、多くの客が汗を拭きながら麺を啜っていた。
 顔を真っ赤にしている人もいる。なのに誰も箸を止めない。
 食べ終えて店から出てくる人は、みんな満足気。
 どうする? いく? 行ってみる?
 店の前で自問自答をしていると、店の中から声をかけられた。
「一名様ですか?」
 思わず頷いてしまい、あっさりと一人席へ案内された。
 私は腹を括って台湾ラーメンを注文する。
 待つこと数分。
 運ばれてきたものを見て、私は首を傾げた。
「あれ? そんなに赤くないじゃん。これならいけるかも」
 匂いから想像してた見た目とは少し違った。もっとこう、器いっぱいに唐辛子が浮かんでいるものを想像していたのだが、ラー油のような色をしたスープの上には、ひき肉やニラがたっぷりと乗っていて、なんだか美味しそうだ。
 私は少し安心しながらレンゲでスープを掬った。
 そして口へ運ぶ。
「っ……!」
 思わず目を見開く。
 辛い。……というか、痛い!
 口に入れた瞬間は平気だったのに、一拍遅れて熱が追いかけてきた。
 慌ててお冷を口に含む。
「これ、本当にみんな平気なの……?」
 思わず呟く。
 味なんて全然わからなかった。ただただ、口の中も喉も痛い。
 こんなの食べられないと店内を見渡すと、周囲の客は何事もない顔で台湾ラーメンを啜っていた。
 でも、よく見ると多くの人が生卵をトッピングしているようだった。
 なるほど。どうやらあれが正解の食べ方らしい。
 私は店員を呼び止める。