出張。私はそれをご馳走旅と読む。

 私はホットコーヒーを注文した。
 すると店員は慣れた口調で尋ねる。
「モーニング、お付けしますか?」
 私も慣れたふうを装って、すまし顔で答える。
「お願いします」
 しかし、運ばれてきたモーニングセットを見て、私は目を丸くした。
「わぁ……」
 事前情報で知っていたはずなのに、予想以上のボリュームに思わず声が漏れる。
 目を引くのは、小倉あんとバター。そして、湯気を立てる茶碗蒸し。
 やはり不思議な組み合わせだ。
 けれど、私はその違和感を楽しみに来ているのだ。
 早速、茶碗蒸しへスプーンを入れる。
 朝の胃にじんわり染み込んでいく。
「美味しい……」
 思わず呟く。
 続いてトーストに小倉あんを乗せて頬張る。
 昨日は尻込みをして普通のトーストを選んでしまっていたことを、一口で後悔した。
 バターのコクと、トーストの塩気、そして、あんこの甘みがバランスよく口の中で合わさって、思わず、もう一口と齧り付きたくなる感じ。
 あんぱんともあんまんとも違う、その食感を楽しみながら、コーヒーを飲む。
 そしてまた茶碗蒸し。合間に、サラダやゆで卵やスープ。
 なんだか忙しい。でも楽しい。
 洋食と和食の境界線が曖昧なところが面白かった。
 ふと周囲の会話が耳に入る。
「今日は孫が帰ってくるんだわ」
「そうなの? じゃあ夕飯の準備が大変だがね」
 隣席の女性たちが楽しそうに笑っていた。
 別のテーブルからは、「最近暑くて畑が大変だわ」なんて話も聞こえてくる。
 ガイドブックには載っていない、ただ、その土地で暮らしている人たちの日常。
 それを少しだけ隣から覗かせてもらって、こっそり共有するような感覚。
 私はこういう時間が好きだった。
 出張先で私がひとりメシを好きな理由。それは、ひとりなら同行者との会話に気を取られることもなく、地元の空気を感じながら、一人静かに食事に向き合えるから。
 もしかすると、私は料理そのものよりも、その土地の時間と空気を味わいたいのかもしれない。
 モーニングを食べ終えたころには、すっかり店内も賑やかになっていた。
 待ち客もいるようなので、速やかに会計を済ませる。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
 私は店を出る前に振り返った。
 きっと明日もこの店では同じようにコーヒーが淹れられ、同じように笑い声が響くのだろう。
 東京とは少し違う一宮の朝。
 どちらが良いということではないけれど、こんな朗らかで賑やかな朝が、この街には当たり前にあるのだ。
 それが少しだけ眩しく見えた。