出張。私はそれをご馳走旅と読む。

「……あ」
 優しい。
 見た目は豚骨なのに、どこか和風出汁を感じる不思議な味。
 濃厚さで押してくるわけではない。
 けれど、次の一口を自然と求めてしまう。
 気づけば夢中で食べていた。
 あっという間に食べ終わってしまい、どこか物足りなさを感じていると、小さな男の子がソフトクリームを頬張っている姿が目に入った。
「そうか。あれも込みでスガキヤなのかも」
 私は、レジカウンターにあったメニュー表を思い出す。
 ラーメン屋なのに、ソフトクリームを大々的に押し出していることが引っかかっていた。
 これまた格安のソフトクリームを追加で購入し、席に戻る。
 早速ひと舐め。
 濃すぎないサッパリした味が無性に美味しく感じた。
 ラーメンの塩味とミルクの甘味。この二つを味わってこそ、スガキヤは完成する。
 始めて食べたくせに、妙に確信めいた考えが頭を過ぎった。
「美味しい、というより……」
 どこか懐かしい。
 小さな男の子も、サラリーマンも、年配の女性も、誰も特別な顔はしていない。
 だけど、どこか満足げ。
 きっと私も同じ顔をしていることだろう。
 1,000円未満の昼食で、お腹だけでなく、心まで満たされた気がした。
 昼休憩を終えて店舗へ戻ると、午後はさらに慌ただしかった。
 開店を記念した地元作家のサイン会。問い合わせ対応。レジ応援。
 息をつく暇もない。
 そんな忙しさの中でも、私は地元スタッフたちと言葉を交わす。
「みなさんにおすすめしていただいた店に行ってきました」
「どうでした?」
「なんだかまた食べたくなる。そんな感じでした。パンチがあるわけではないのに、不思議」
 そう言うと、スタッフたちは笑った。
「ほんと、そうなんですよ」
「ラーメンなのに、太らなさそうな味なのが罪ですよねぇ。つい食べちゃう」
「わかる~。手頃な値段だし。学生時代は週に何回も行ってましたもん」
「あれはもう生活の一部ですよ」
「フードコートにあると安心するんですよね」
 安心する。
 なるほど。まさに地元メシだと思わせる言葉だった。
 土地の日常に根差しているもの。安心感を与えてくれるもの。
 そんな食べ物があることは、とても贅沢なことに思えた。
 一日の仕事を終えてホテルへ向かう頃には、すっかり日が傾いていた。
 ビジネスホテルの小さな一室。
 窓から見えるのは、私の知らない街並み。
 けれど、一日中ここの空気に触れていたせいか、私も少しだけこの土地に馴染めたような気がしている。
 街を見下ろしながら、今日食べたものを思い返す。