そう思っていた俺が馬鹿だった。
綿貫真尋、ただいま大ピンチです。
授業が終わってからすぐのこと。九頭終人が、俺に壁ドンをしてきた。
片手で、壁に手を置いて俺の顔を覗き込んでいる状態。
(顔、ちか。うわ、ちかいちかいちかい)
「…………どうしたの、終人」
「あの男、誰。一年の頃はあんな男いなかった」
「幼なじみだけど」
「ふーん。幼なじみ、ね。彼氏じゃないんだ?」
「彼氏とか全然そんなんじゃなくて……それより、手どけてくれたりしないかなって」
「なんで」
「ここ教室だし」
「俺は気にしない」
俺が気にするんだよ!!
教室で急に壁ドンなんかしたら、みんな驚くんだよ。少女漫画なら、「きゅん」ってなるとこだよ。でもここ男子校だから!!
「なにしてんの、お前。俺の真尋から離れてくれない?」
「は? 俺の真尋って何? ただの幼なじみって聞いたけど」
頼むから教室で喧嘩しないでくれ、みんな見てるだろ。なんで気にしないんだよ、二人とも。人目!! 大事!!
「わ、私のために争わないで? なーんて………冗談―――」
「なんだこいつ、可愛すぎるだろ」
なんでそうなるんだよ。おかしいだろ。
真顔で可愛いと言ってくる終人には、もはや恐怖を感じてきた。
それに、恋人はどうしたんだろう。終人の恋人についてはあまり詳しくない。俺から聞くことでもないし、終人も自分から恋人のことを何も話さなかった。
「一応、場所うつしたりしない……? ほら、教室だとみんないるし」
俺の提案に優一はすぐに賛同してくれた。「真尋が言うならいいよ」と。終人は最初、「ここでいいだろ」なんて言っていたけど、優一が強引に教室から引っ張り出した。
それに対して終人が半ギレになってて、優一もなんかいつもと違くて………二人とも、なんだかピリピリしてる?
この状況についていけていないのは俺だけだろうか。
優一は終人の首根っこを掴んだまま、廊下を歩いていた。迷いのない足取り。向かう先は、駅近のカフェ。
学校の空き教室とかでもいいかなって思ったんだけど、こういうのは人目のつく場所の方がいいらしい。さすが優一。やっぱりモテる男は違う。別れ話とかも、人目のある場所でやるのがいいって言うし。
そうして俺たちは駅前のカフェで話の続きをすることにした。
店内にはおしゃれなジャズが流れていて、見た目もアンティークっぽい。全体的に大人の雰囲気だ。飲み物もティーカップを使う紅茶が多い。
席は、俺が一人。優一と終人が向かい側に座っている。
最初は終人が俺の隣に座りたがっていたのを、優一が、「お前が、真尋の隣に座る権利あるのか?」と言って揉めたのだ。
席なんてどうでもいいのに。カフェで騒ぎを起こすわけにもいかなかったから、俺が一人でソファー席に座ることになった。
それにしても、なんでこうなった。ただでさえ、写真の件が解決していないっていうのに。
俺は二人の顔を見れずに、メニューに視線を落とした。カフェなので、やっぱりスイーツが豊富みたいだ。
こういうときは―――
推しと同じイメージカラーのものにする!!
うーーーん、クリームソーダにしようかな。クリームソーダなら、たくさんの色があるし推しの色も見つかるはず。
飲み物は決まったから、次は食べ物を―――
メニューの次のページをめくろうとする俺の手を、終人が止めた。
「食事をしにきたわけじゃない」
「お店では、一人一品頼むべきだろう」
「そんなルールない」
「マナーの話」
「あ?」
帰りたい。切実に。なんでこんなに仲悪いんだよ、この二人。
仲良くしろとは言わないけど、せめてもう少し穏やかに過ごせないものか。
結局、俺はクリームソーダを一つ頼んだ。優一はブラックコーヒー。終人は何も頼まなかった。不機嫌そうに、腕を組んでこっちを睨んできている。
(俺がなにしたって言うんだよ………)
ずっと黙ってるわけにもいかないけど、だからって、「恋人は?」なんて直接聞けな―――
「お前、恋人いるんだろう。真尋に近づいた理由は?」
聞いた、優一が。なんてことない表情を浮かべて。
優一は涼しげな顔で、コーヒーを一口飲んだ。そんな優一を横目に、俺はクリームソーダの上に乗っているバニラアイスをスプーンでちょいちょいとつついた。
クリームソーダにして正解だったな。こんな空気の中では、肉は食べられなかっただろう。
「飽きた」
俺は溶けだしたバニラアイスを口に含んだまま固まった。こいつは一体何を言っているのか。脳が思考を停止していた。
飽きた? 今こいつ、飽きたって言ったのか?
優一もカップを持つ手に力を込めたのがわかる。指先がほんのり白くなっていたから。
「顔が好みだったから付き合ってみたら、束縛が激しかったんだよ。で、めんどくさくなったから別れた。よく見たら真尋の方が、顔整ってるし。だから、俺と付き合おう?」
恋人………いや、元恋人か。相手に対して、飽きたとか言う人と付き合いたいわけない。
…………待って。よく考えたら、俺はこんなクズを好きになったのか?
黒歴史が一つ増えたな。まさか自分がこんなにも男を見る目がないとは。こんなん百年の恋も冷める。むしろ早めに気づけてよかったくらいだ。
「あの、さ。写真のこと、知ってるよな………?」
綿貫真尋、ただいま大ピンチです。
授業が終わってからすぐのこと。九頭終人が、俺に壁ドンをしてきた。
片手で、壁に手を置いて俺の顔を覗き込んでいる状態。
(顔、ちか。うわ、ちかいちかいちかい)
「…………どうしたの、終人」
「あの男、誰。一年の頃はあんな男いなかった」
「幼なじみだけど」
「ふーん。幼なじみ、ね。彼氏じゃないんだ?」
「彼氏とか全然そんなんじゃなくて……それより、手どけてくれたりしないかなって」
「なんで」
「ここ教室だし」
「俺は気にしない」
俺が気にするんだよ!!
教室で急に壁ドンなんかしたら、みんな驚くんだよ。少女漫画なら、「きゅん」ってなるとこだよ。でもここ男子校だから!!
「なにしてんの、お前。俺の真尋から離れてくれない?」
「は? 俺の真尋って何? ただの幼なじみって聞いたけど」
頼むから教室で喧嘩しないでくれ、みんな見てるだろ。なんで気にしないんだよ、二人とも。人目!! 大事!!
「わ、私のために争わないで? なーんて………冗談―――」
「なんだこいつ、可愛すぎるだろ」
なんでそうなるんだよ。おかしいだろ。
真顔で可愛いと言ってくる終人には、もはや恐怖を感じてきた。
それに、恋人はどうしたんだろう。終人の恋人についてはあまり詳しくない。俺から聞くことでもないし、終人も自分から恋人のことを何も話さなかった。
「一応、場所うつしたりしない……? ほら、教室だとみんないるし」
俺の提案に優一はすぐに賛同してくれた。「真尋が言うならいいよ」と。終人は最初、「ここでいいだろ」なんて言っていたけど、優一が強引に教室から引っ張り出した。
それに対して終人が半ギレになってて、優一もなんかいつもと違くて………二人とも、なんだかピリピリしてる?
この状況についていけていないのは俺だけだろうか。
優一は終人の首根っこを掴んだまま、廊下を歩いていた。迷いのない足取り。向かう先は、駅近のカフェ。
学校の空き教室とかでもいいかなって思ったんだけど、こういうのは人目のつく場所の方がいいらしい。さすが優一。やっぱりモテる男は違う。別れ話とかも、人目のある場所でやるのがいいって言うし。
そうして俺たちは駅前のカフェで話の続きをすることにした。
店内にはおしゃれなジャズが流れていて、見た目もアンティークっぽい。全体的に大人の雰囲気だ。飲み物もティーカップを使う紅茶が多い。
席は、俺が一人。優一と終人が向かい側に座っている。
最初は終人が俺の隣に座りたがっていたのを、優一が、「お前が、真尋の隣に座る権利あるのか?」と言って揉めたのだ。
席なんてどうでもいいのに。カフェで騒ぎを起こすわけにもいかなかったから、俺が一人でソファー席に座ることになった。
それにしても、なんでこうなった。ただでさえ、写真の件が解決していないっていうのに。
俺は二人の顔を見れずに、メニューに視線を落とした。カフェなので、やっぱりスイーツが豊富みたいだ。
こういうときは―――
推しと同じイメージカラーのものにする!!
うーーーん、クリームソーダにしようかな。クリームソーダなら、たくさんの色があるし推しの色も見つかるはず。
飲み物は決まったから、次は食べ物を―――
メニューの次のページをめくろうとする俺の手を、終人が止めた。
「食事をしにきたわけじゃない」
「お店では、一人一品頼むべきだろう」
「そんなルールない」
「マナーの話」
「あ?」
帰りたい。切実に。なんでこんなに仲悪いんだよ、この二人。
仲良くしろとは言わないけど、せめてもう少し穏やかに過ごせないものか。
結局、俺はクリームソーダを一つ頼んだ。優一はブラックコーヒー。終人は何も頼まなかった。不機嫌そうに、腕を組んでこっちを睨んできている。
(俺がなにしたって言うんだよ………)
ずっと黙ってるわけにもいかないけど、だからって、「恋人は?」なんて直接聞けな―――
「お前、恋人いるんだろう。真尋に近づいた理由は?」
聞いた、優一が。なんてことない表情を浮かべて。
優一は涼しげな顔で、コーヒーを一口飲んだ。そんな優一を横目に、俺はクリームソーダの上に乗っているバニラアイスをスプーンでちょいちょいとつついた。
クリームソーダにして正解だったな。こんな空気の中では、肉は食べられなかっただろう。
「飽きた」
俺は溶けだしたバニラアイスを口に含んだまま固まった。こいつは一体何を言っているのか。脳が思考を停止していた。
飽きた? 今こいつ、飽きたって言ったのか?
優一もカップを持つ手に力を込めたのがわかる。指先がほんのり白くなっていたから。
「顔が好みだったから付き合ってみたら、束縛が激しかったんだよ。で、めんどくさくなったから別れた。よく見たら真尋の方が、顔整ってるし。だから、俺と付き合おう?」
恋人………いや、元恋人か。相手に対して、飽きたとか言う人と付き合いたいわけない。
…………待って。よく考えたら、俺はこんなクズを好きになったのか?
黒歴史が一つ増えたな。まさか自分がこんなにも男を見る目がないとは。こんなん百年の恋も冷める。むしろ早めに気づけてよかったくらいだ。
「あの、さ。写真のこと、知ってるよな………?」
