◇◇◇
「真尋、ポップコーン何味がいい? ―――真尋?」
「あ、ごめん。チョコのやつ」
「りょーかい。塩とバターと、あとキャラメルも追加しようか」
今、俺は優一の家にきている。昨夜、アニメのリアタイが出来なかったため「今日こそは!」と意気込んだのである。
それに、少しでもいいから優一とゆったり過ごしたかったのも本音だ。終人のこととか、優一の好きな人のこと。
考えたら止まらなくて、不安になって。
頭を空っぽにしたかった。
それなら優一とアニメ鑑賞しようってことになって、部活の後にお菓子を買いまくった。王道のポップコーンに、一口で食べられるシュークリーム。しょっぱいスナック菓子などを調達した。
隣では優一が、チョコ味のポップコーンをお皿に出していた。
他にも塩とバターで簡単に味付けしたやつ。市販のキャラメル味のポップコーンも大量にお皿に盛られている。
やっぱり、普通だ。
優一は怖いくらいに普通だった。メンタルが安定しているとでもいうのか。
両親が仕事で家を空けるなんて、寂しくはないのか。こんなにも広い家で一人きりで、終人のことも全部自分で背負い込んで、それが当然のような顔をしている。
「真尋、準備できたよ。真尋とアニメ見れるなんて楽しみだよ」
「うん、俺も。飲み物、用意しておいたから」
「ありがとう」
―――
「お前がなにを思ってるか、なんで言ってくれないんだよ! こんなに好きなのに。好きで好きで、大好きで、それなのにどうしてこんなに苦しいんだよ」
「―――だから。だから、くるしい。だから」
(…………あれ、画面が急に真っ暗になった)
アニメ鑑賞から、一時間ほど経った頃。
シーンがクライマックスに入った瞬間、テレビがぶつりと切れた。大きなガラス窓にうつる豪華なリビングが、電灯の激しい明滅と共にブレる。そしてチカチカと何度か点滅したあとに、部屋の明かりが完全に消えた。
「停電……?」
俺のつぶやく声が、小さく辺りに反響した。暗闇の中では、優一がどこにいるのかすらわからない。スマホも近くに置いていないから、連絡も出来ない。俺は、「優一! 優一!」と、声を張り上げるしかなかった。
「………俺が確認してくる。危ないから真尋はそこで待ってて」
優一の静かな声がした。こんなときでも、優一は普通だった。
取り乱さない。大きい声を出さない。これは、メンタルが安定してるっていうより―――
「優一!」
俺が名前を呼んでも、返事は返ってこなかった。バタンッと、扉の閉まる音が辺りに響く。
ここで、一人待ってろっていうのかよ。ふざけんな。
俺はゆっくりと立ち上がる。暗くて、なにも見えないから壁に手をついて歩いた。向かう場所は優一のところ。
お前はいつもそうだ。そうやって、一人でなんでも抱えこもうとする。誰にも頼ろうとせずに。
「優一」
扉の前までたどりついた俺は、声のトーンを落として優一の名前を呼んだ。扉一枚を隔てて、その場に座る。優一と目線を合わせるように。
「お前は誰かに頼る方法を教えてもらえなかったんだな。一人で生きてきたから」
「こなくていいって言った」
いつもは大人っぽい優一が、今は駄々をこねているように聞こえる。
「俺が行きたかったんだよ、優一のそばに。嫌なら、このままでも―――」
扉がゆっくり開いたかと思うと、勢いよく優一が胸に飛び込んできた。
「やっぱり真尋は俺の王子様だ」
「おも」
「そんなこと言わないで」
「俺さ、思うんだよ。優一を、一人で抱え込ませるようにしたやつを今すぐここに呼ぶべきだって」
「…………え?」
「今すぐ呼んでやる、優一の両親。そんで俺が説教してやるから」
「真尋!?」
やっと変わった、優一の顔が。部屋は暗いままなのに、優一の顔が不思議とよく見える。目が暗闇に慣れたからだろう。
今の優一は、いつものように、にこにこしていなかった。
少し困惑したような、驚いたような。でもどこか、期待した表情。瞳の中がきらきらしてて、年相応な顔立ちだ。
「スマホ出して」
「真尋、落ち着いて。待って」
「優一、スマホ」
「待って、待って」
俺はゆっくりと、優一の前まで歩いた。そして、両手で優一の服のポケットを探しはじめた。暴れる優一を無視して、優一の上にまたがる。
「真尋! 真尋、待った!」
「やだ」
「真尋ーーーー!」
―――
「はぁ、はぁ。真尋…………」
「はぁ………はぁ。勝った」
俺の手には優一のスマホがあった。画面は通話終了のまま。
いつのまにか、部屋は明るくなっていた。
俺は、優一の両親に電話することに成功。最初は何回かけても出なかった。仕事が忙しいのだろう。だから俺は、「優一を人質にした。こなければ優一を襲う」と、留守番電話に記録を残しておいた。俺だとバレないように声もかえて。
そうしたら、一分も経たないうちに折り返しの電話がきた。
てことは、電話が鳴っていることに気づいていて無視したわけだ。少し腹立たしいが、まぁ折り返しの電話がきただけ良しとしよう。
優一は不安そうに、ソファーに座っていた。メガネのレンズを何度も触っている。
いくらなんでも強引すぎただろうか。優一には申し訳ないことをしたと思っている。でもこのまま一人で抱え込んで、両親にも誰にも頼らない優一は見てられなかった。
「優一、俺がいるから。ずっとそばにいる。お前の怖いって気持ち、半分こしよ。一人で背負わなくていい」
「なにそれ、かっこいい。本当に、真尋は俺の王子様だね」
前から気になっていたけど、その"王子様"ってのはなんだろう。聞いたら教えてくれるだろうか。
「王子様って、なに?」
「覚えてない?」
その言い方だと、昔なにかあったのか。
記憶を辿ってみるも、はっきりとしたことは思い出せない。
だから、知りたかった。どうして優一は俺を王子様って呼ぶのか。俺は優一の瞳を見つめながら、「教えてほしい」とお願いした。そんな俺の顔を見つめ返して、優一は懐かしそうに目を細めながら話してくれた。
「真尋、ポップコーン何味がいい? ―――真尋?」
「あ、ごめん。チョコのやつ」
「りょーかい。塩とバターと、あとキャラメルも追加しようか」
今、俺は優一の家にきている。昨夜、アニメのリアタイが出来なかったため「今日こそは!」と意気込んだのである。
それに、少しでもいいから優一とゆったり過ごしたかったのも本音だ。終人のこととか、優一の好きな人のこと。
考えたら止まらなくて、不安になって。
頭を空っぽにしたかった。
それなら優一とアニメ鑑賞しようってことになって、部活の後にお菓子を買いまくった。王道のポップコーンに、一口で食べられるシュークリーム。しょっぱいスナック菓子などを調達した。
隣では優一が、チョコ味のポップコーンをお皿に出していた。
他にも塩とバターで簡単に味付けしたやつ。市販のキャラメル味のポップコーンも大量にお皿に盛られている。
やっぱり、普通だ。
優一は怖いくらいに普通だった。メンタルが安定しているとでもいうのか。
両親が仕事で家を空けるなんて、寂しくはないのか。こんなにも広い家で一人きりで、終人のことも全部自分で背負い込んで、それが当然のような顔をしている。
「真尋、準備できたよ。真尋とアニメ見れるなんて楽しみだよ」
「うん、俺も。飲み物、用意しておいたから」
「ありがとう」
―――
「お前がなにを思ってるか、なんで言ってくれないんだよ! こんなに好きなのに。好きで好きで、大好きで、それなのにどうしてこんなに苦しいんだよ」
「―――だから。だから、くるしい。だから」
(…………あれ、画面が急に真っ暗になった)
アニメ鑑賞から、一時間ほど経った頃。
シーンがクライマックスに入った瞬間、テレビがぶつりと切れた。大きなガラス窓にうつる豪華なリビングが、電灯の激しい明滅と共にブレる。そしてチカチカと何度か点滅したあとに、部屋の明かりが完全に消えた。
「停電……?」
俺のつぶやく声が、小さく辺りに反響した。暗闇の中では、優一がどこにいるのかすらわからない。スマホも近くに置いていないから、連絡も出来ない。俺は、「優一! 優一!」と、声を張り上げるしかなかった。
「………俺が確認してくる。危ないから真尋はそこで待ってて」
優一の静かな声がした。こんなときでも、優一は普通だった。
取り乱さない。大きい声を出さない。これは、メンタルが安定してるっていうより―――
「優一!」
俺が名前を呼んでも、返事は返ってこなかった。バタンッと、扉の閉まる音が辺りに響く。
ここで、一人待ってろっていうのかよ。ふざけんな。
俺はゆっくりと立ち上がる。暗くて、なにも見えないから壁に手をついて歩いた。向かう場所は優一のところ。
お前はいつもそうだ。そうやって、一人でなんでも抱えこもうとする。誰にも頼ろうとせずに。
「優一」
扉の前までたどりついた俺は、声のトーンを落として優一の名前を呼んだ。扉一枚を隔てて、その場に座る。優一と目線を合わせるように。
「お前は誰かに頼る方法を教えてもらえなかったんだな。一人で生きてきたから」
「こなくていいって言った」
いつもは大人っぽい優一が、今は駄々をこねているように聞こえる。
「俺が行きたかったんだよ、優一のそばに。嫌なら、このままでも―――」
扉がゆっくり開いたかと思うと、勢いよく優一が胸に飛び込んできた。
「やっぱり真尋は俺の王子様だ」
「おも」
「そんなこと言わないで」
「俺さ、思うんだよ。優一を、一人で抱え込ませるようにしたやつを今すぐここに呼ぶべきだって」
「…………え?」
「今すぐ呼んでやる、優一の両親。そんで俺が説教してやるから」
「真尋!?」
やっと変わった、優一の顔が。部屋は暗いままなのに、優一の顔が不思議とよく見える。目が暗闇に慣れたからだろう。
今の優一は、いつものように、にこにこしていなかった。
少し困惑したような、驚いたような。でもどこか、期待した表情。瞳の中がきらきらしてて、年相応な顔立ちだ。
「スマホ出して」
「真尋、落ち着いて。待って」
「優一、スマホ」
「待って、待って」
俺はゆっくりと、優一の前まで歩いた。そして、両手で優一の服のポケットを探しはじめた。暴れる優一を無視して、優一の上にまたがる。
「真尋! 真尋、待った!」
「やだ」
「真尋ーーーー!」
―――
「はぁ、はぁ。真尋…………」
「はぁ………はぁ。勝った」
俺の手には優一のスマホがあった。画面は通話終了のまま。
いつのまにか、部屋は明るくなっていた。
俺は、優一の両親に電話することに成功。最初は何回かけても出なかった。仕事が忙しいのだろう。だから俺は、「優一を人質にした。こなければ優一を襲う」と、留守番電話に記録を残しておいた。俺だとバレないように声もかえて。
そうしたら、一分も経たないうちに折り返しの電話がきた。
てことは、電話が鳴っていることに気づいていて無視したわけだ。少し腹立たしいが、まぁ折り返しの電話がきただけ良しとしよう。
優一は不安そうに、ソファーに座っていた。メガネのレンズを何度も触っている。
いくらなんでも強引すぎただろうか。優一には申し訳ないことをしたと思っている。でもこのまま一人で抱え込んで、両親にも誰にも頼らない優一は見てられなかった。
「優一、俺がいるから。ずっとそばにいる。お前の怖いって気持ち、半分こしよ。一人で背負わなくていい」
「なにそれ、かっこいい。本当に、真尋は俺の王子様だね」
前から気になっていたけど、その"王子様"ってのはなんだろう。聞いたら教えてくれるだろうか。
「王子様って、なに?」
「覚えてない?」
その言い方だと、昔なにかあったのか。
記憶を辿ってみるも、はっきりとしたことは思い出せない。
だから、知りたかった。どうして優一は俺を王子様って呼ぶのか。俺は優一の瞳を見つめながら、「教えてほしい」とお願いした。そんな俺の顔を見つめ返して、優一は懐かしそうに目を細めながら話してくれた。
