負けヒーローの俺でも勝ちヒーローになれますか

「―――真尋!」
「終人!? なんでここに………」
「あの写真、どこやったの」
今は負けヒーロー部の部活動中。顧問の先生がくるならわかるけど、終人がこの時間になにしにきたんだろう。
それに、あの写真ってもしかして。
「真尋、俺の話聞いて―――」
「真尋の写真なら俺が持ってるよ」
「………は? なんでお前が真尋の写真持ってるわけ?」
ズカズカと遠慮なく部室に入ってくる終人に、先輩たちも俺も一瞬呆気にとられる。
それでもさすが先輩たち。大きく戸惑うこともなく、すぐに状況を見極めはじめた。「なにあの男。優一よりもよっぽど典型的な負けヒーローだね」「由紀、一旦黙れ。非常識な人を煽ったら、なにされるかわからないんだからな。部室で暴れられても困る」なんて会話も聞こえてくるくらいだ。
いくらなんでも冷静すぎるだろ。
でもこれはチャンスかもしれない。終人がどうして俺の写真をクラス中に広めようとしたのか。あのカフェでの出来事から、ずっと気になっていた。遅かれ早かれ聞くべきことだから、今聞いても―――
俺は口を開こうとするが、途中で止めた。勇気が出なかったわけではない。聞く覚悟はある。もう終人に未練はないし、今更なにを言われても受け止める。だけど、先輩たちの前では聞くべき内容ではないかもしれない。
長谷川先輩も姫宮先輩も無関係なのだから、巻き込むのは違う。
「終人、ここじゃなくて別の場所で話そう」
「なんで。俺はここでいい」
またこれだ。話が通じないというか、なんというか………
俺が途方に暮れていると、優一が終人の首根っこを掴んで部室から引っ張り出した。
そして、扉を閉める前に俺の方をちらりと振り返った。
優一の顔に浮かんでいるのは、柔らかな笑み。この状況がわかっているのか。わかっているからこその微笑みなのか。
俺が声をかけるひまもなく、扉は静かに閉ざされた。
「あ、優一……………」
「また、甘やかしてるよ」
姫宮先輩がやれやれと首を横にふって、椅子にドカッと座る。
「あの、覗いても…………いいですか?」
「覗き見するのに、許可とろうとするのか? 真面目なのか不真面目なのか」
長谷川先輩の言う通り、覗き見してもいいかと聞くのは変だったかも。普段なら覗き見なんてしない。それだけ、今の俺の心に余裕がないのだろう。
俺は、軽く深呼吸をして心を落ち着かせる。
「少し気になってしまって…………それに、優一に甘えてばかりいるのもよくないですし」
「あれは甘やかしってより、過保護な気もするが………好きな子には安全なところにいてほしいんだろ」
「え、優一、好きな人がいるんですか?」
『え?』
二人が一斉に俺の方を見る。
考えてみれば、ここは負けヒーロー部なんだから失恋した人たちが集まる部活なんだよな。
それなら優一にも当然好きな人がいて、恋が叶わなかったからこの部活に入ったわけで…………
そんな当たり前のことを、俺は今まで気づきもしなかった。
もしかしたら、気づかないふりをしていたのかもしれない。
そっか、優一にも好きな人がいるんだ。誰なんだろう。
きっと、綺麗で優しい人なんだろうな。
俺よりも綺麗で、俺よりも優しくて………俺よりも。
…………なんでこんなに苦しいんだろう。優一のこと嫌いじゃないのに。大切な幼なじみなのに。
優一の好きな人が誰なのか気になるのに、聞けないなんて………俺は一体、どこに答えを探せばいいんだろう。