◇◇◇
(なにか俺にできることってないかな)
俺は放課後の部室で、優一のことを考えていた。
朝からずっとこうだ。授業中も先生の言葉はどこか上の空で、優一のことばかり頭に浮かんでくる。
どうにかしたいなって思うけど、なにをどうしたらいいのか。
ただの学生の俺に一体なにができるというのだろう。
「やっぱりこのままじゃよくない!」
突然姫宮先輩が大きな声を上げた。長谷川先輩は、スマホから視線を離さずに、「なに、びっくりした」と、全く驚いていない声で返事を返す。
優一はいつも通りだ。俺が気にしすぎなのかなって思うくらいには。
「僕たち、全然部活動してない!!」
「今更かよ」
「優一もそう思うよね!」
「そうだねー、このままでもいいんじゃない? オタ活楽しんでれば」
「よーくーなーいー! 優一は負けヒーローのままでいいの?」
「………そうは言ってないけど」
負けヒーロー部としての活動。たしかに、今まではただの雑談で終わっていた。先輩たち、優一。そして俺もそれでいいと思っていた。だけど、負けヒーロー部って、勝ちヒーローになるための部活なんだよな。雑談してるだけじゃ、勝ちヒーローにはなれない。
「じゃあ、ひめっち先輩の意見聞かせてよ。負けヒーローが勝ちヒーローになるためにはどうしたらいいか」
「んーーー、恋愛で大事なのって、自分を知ることじゃない? ………てことで! みんなをそれぞれの負けヒーロータイプにわけてみる! まずは駿から!」
「はぁ、拒否権ない感じね」
長谷川先輩が、「はぁ」と、何度目かのため息をついた。仕方なくといった感じで、スマホから視線を上げる。
「駿は、ミステリアス×お兄さんタイプ!」
「はぁ?」
「余裕があって、主人公を優しくリードする年上お兄さん! 一見勝ちヒーローに見えるけど、余裕がありすぎて主人公から、"なにを考えているかわからない"と言われる。愛情表現をしないで、心の中で爆発させるタイプだから主人公に一生気づかれない。こういうタイプは、同級生に主人公を取られちゃうんだよねー。後悔したときにはもう遅い、主人公の隣には―――」
「長い。オタクの早口やめろ」
「でもあってるでしょ?」
「………どうだろうな」
たしかに姫宮先輩の言っていることは当たっているかもしれない。俺の長谷川先輩に対しての第一印象はミステリアスな人だったから。
思ってることが言葉や態度に出る姫宮先輩と、いつも静かにスマホで乙女ゲームをしている長谷川先輩。こう見ると二人って真逆の先輩なんだなぁ。
そんなことを考えていると、姫宮先輩は俺の方を見た。
次は俺の番らしい。
「真尋はねー、勝ちヒーローの素質はあるんだけど……一歩間違えたら負けヒーローになっちゃう」
「なるほど?」
これは俺にとって、大事な話だ。勝ちヒーローになるために、しっかりと勉強しておかないと。
「真尋は、無個性美人×草食系男子!」
「たしかに」
優一が、納得したように小さく頷く。
無個性美人って、特徴のない美人ってこと………だよな。俺って特徴ないの? あーでも、目立つタイプってわけじゃないし。そう言われればそうなのかな?
「美人で流されやすくて受け身な真尋は、王道な愛され勝ちヒーローになりやすいんだけど、受け身だからこそ! 勝ちヒーローの都合のいい相談相手になりやすい」
「やばい、心当たりが…………」
「あ、やっぱり?」
草食系か肉食系かでいえば、俺は草食系男子なんだろうな。自分からガツガツいくことってあまりない。
だからこそ、終人とも曖昧な関係を続けてしまっていた。心のどこかではこのままじゃダメだってわかっていたけど、行動にうつしたら、今の関係もなくなってしまうんじゃないかって思ったら怖くなって……結局なにもできなかった。
「"お前は優しくてなんでも話せる最高の友達だよ。お前に相談できてよかった"なんて言われて失恋しちゃうタイプだね」
…………どこかで聞いたことのあるセリフだ。いや、もう何百回も聞いたことある。典型的な負けヒーローがよく言われるセリフじゃん!!
思い返してみれば、終人からの相談を何度も聞いてたんだよな。「またなにかあったら相談してほしい」なんて言っちゃったりもして、完全に都合のいい負けヒーローだ。
「スペックはいいんだよねー、美人で流されやい草食系男子は勝ちヒーローになれるポテンシャルはある」
「そもそも、絶対的な勝ちヒーローなんて存在するのかよ」
長谷川先輩がスマホに視線を落としたまま静かに問う。
言われてみれば………絶対的勝ちヒーローってなんだろう。
それがわかってれば、苦労しないんだけどね。
「え、強気美人」
『あーーーーーーー』
三人同時に同じ声が漏れた。長谷川先輩も優一も、そして俺も。
「強気美人が負けヒーローになってるところって、見たことないんだよねー」
「たしかに、たしかに……」
「さっきからたしかにしか言ってないよ、真尋。気持ちはわかる」
「健気な美人って、負けヒーローになったら読者が"可哀想で可愛い、幸せになってほしい"って感情移入できるんだけど……強気な美人が負けヒーローになったら、ただのプライド高い嫌なやつになるから。それなら負けヒーローより、性格の悪い悪役にした方がいいよね」
スラスラと言葉を紡ぐ姫宮先輩。
普段からしっかりと考えているからこそ、出てくる言葉なのだろう。
負けヒーロー部としての活動は、ただの雑談だけだと思っていたけど、先輩なりに部活動に向き合っていたんだなとわかった。
「ひめっち先輩。俺は?」
優一が身を乗り出して聞く。長谷川先輩、俺ときたら次は自分の番だろとでも言うかのように。
俺個人としては、優一は勝ちヒーローだと思う。王子様系。
一番王道な勝ちヒーロー。そんなイメージがある。
でも姫宮先輩は違った。
「優一はね、典型的な負けヒーロー!」
「そこまではっきり言う?」
優一が、がっくりと肩を落とした。
長谷川先輩が、理由を問う。
「優一は………スパダリ王子様×一途なモテ男!」
属性だけ聞けば強そうだな。アニメやゲームでいう、ラスボスみたいなステータスだ。
「一途なモテ男は、負けヒーローでしかないんだよー残念ながら。男女共にモテるのに、なぜか本命には好きになってもらえない。スパダリでなんでもできる王子様系なのに、報われない。それは、優一が好きな子に優しすぎるから!」
「優しいっていいことじゃないのか?」
すかさず、長谷川先輩がフォローに入る。フォロー半分、本音半分ってところだろうか。
俺も長谷川先輩の意見と同じだ。好きな相手に優しくするのはダメなことなのだろうか。
「人としてはそれでいいんだけど、勝ちヒーローってなると優しいだけじゃダメ。むしろ、優しいことが仇になることもある」
「どういうことですか?」
「恋愛には、ドキドキと刺激が大事! 優しいことはいいことだけど、最初から最後まで優しいだけの男はダメ! 勝ちヒーローになりたいなら、ときには意地悪とか、積極性が大切。特に、優しい×幼なじみは、報われないことが多いから優一は頑張らないとね」
「勘弁してよ、先輩。好きな子に優しくしたいのは、自然なことでしょ。意地悪は俺には向いてない」
優一がふいっとそっぽを向く。そんな優一に姫宮先輩は「そんなんだから、いつまで経っても本命に気づかれないんだよ」と、言った。
「……わかってるよ、見てるだけじゃダメだって」
「優一? どうしたの?」
ぼそっと小さくつぶやく優一に気づいたが、「なんでもないよ」とはぐらかされてしまう。
(モヤモヤするなぁ………)
もう一回隙を見て優一に話しかけようとしたそのとき。
部室の扉が、大きな音を立てて開いた。
(なにか俺にできることってないかな)
俺は放課後の部室で、優一のことを考えていた。
朝からずっとこうだ。授業中も先生の言葉はどこか上の空で、優一のことばかり頭に浮かんでくる。
どうにかしたいなって思うけど、なにをどうしたらいいのか。
ただの学生の俺に一体なにができるというのだろう。
「やっぱりこのままじゃよくない!」
突然姫宮先輩が大きな声を上げた。長谷川先輩は、スマホから視線を離さずに、「なに、びっくりした」と、全く驚いていない声で返事を返す。
優一はいつも通りだ。俺が気にしすぎなのかなって思うくらいには。
「僕たち、全然部活動してない!!」
「今更かよ」
「優一もそう思うよね!」
「そうだねー、このままでもいいんじゃない? オタ活楽しんでれば」
「よーくーなーいー! 優一は負けヒーローのままでいいの?」
「………そうは言ってないけど」
負けヒーロー部としての活動。たしかに、今まではただの雑談で終わっていた。先輩たち、優一。そして俺もそれでいいと思っていた。だけど、負けヒーロー部って、勝ちヒーローになるための部活なんだよな。雑談してるだけじゃ、勝ちヒーローにはなれない。
「じゃあ、ひめっち先輩の意見聞かせてよ。負けヒーローが勝ちヒーローになるためにはどうしたらいいか」
「んーーー、恋愛で大事なのって、自分を知ることじゃない? ………てことで! みんなをそれぞれの負けヒーロータイプにわけてみる! まずは駿から!」
「はぁ、拒否権ない感じね」
長谷川先輩が、「はぁ」と、何度目かのため息をついた。仕方なくといった感じで、スマホから視線を上げる。
「駿は、ミステリアス×お兄さんタイプ!」
「はぁ?」
「余裕があって、主人公を優しくリードする年上お兄さん! 一見勝ちヒーローに見えるけど、余裕がありすぎて主人公から、"なにを考えているかわからない"と言われる。愛情表現をしないで、心の中で爆発させるタイプだから主人公に一生気づかれない。こういうタイプは、同級生に主人公を取られちゃうんだよねー。後悔したときにはもう遅い、主人公の隣には―――」
「長い。オタクの早口やめろ」
「でもあってるでしょ?」
「………どうだろうな」
たしかに姫宮先輩の言っていることは当たっているかもしれない。俺の長谷川先輩に対しての第一印象はミステリアスな人だったから。
思ってることが言葉や態度に出る姫宮先輩と、いつも静かにスマホで乙女ゲームをしている長谷川先輩。こう見ると二人って真逆の先輩なんだなぁ。
そんなことを考えていると、姫宮先輩は俺の方を見た。
次は俺の番らしい。
「真尋はねー、勝ちヒーローの素質はあるんだけど……一歩間違えたら負けヒーローになっちゃう」
「なるほど?」
これは俺にとって、大事な話だ。勝ちヒーローになるために、しっかりと勉強しておかないと。
「真尋は、無個性美人×草食系男子!」
「たしかに」
優一が、納得したように小さく頷く。
無個性美人って、特徴のない美人ってこと………だよな。俺って特徴ないの? あーでも、目立つタイプってわけじゃないし。そう言われればそうなのかな?
「美人で流されやすくて受け身な真尋は、王道な愛され勝ちヒーローになりやすいんだけど、受け身だからこそ! 勝ちヒーローの都合のいい相談相手になりやすい」
「やばい、心当たりが…………」
「あ、やっぱり?」
草食系か肉食系かでいえば、俺は草食系男子なんだろうな。自分からガツガツいくことってあまりない。
だからこそ、終人とも曖昧な関係を続けてしまっていた。心のどこかではこのままじゃダメだってわかっていたけど、行動にうつしたら、今の関係もなくなってしまうんじゃないかって思ったら怖くなって……結局なにもできなかった。
「"お前は優しくてなんでも話せる最高の友達だよ。お前に相談できてよかった"なんて言われて失恋しちゃうタイプだね」
…………どこかで聞いたことのあるセリフだ。いや、もう何百回も聞いたことある。典型的な負けヒーローがよく言われるセリフじゃん!!
思い返してみれば、終人からの相談を何度も聞いてたんだよな。「またなにかあったら相談してほしい」なんて言っちゃったりもして、完全に都合のいい負けヒーローだ。
「スペックはいいんだよねー、美人で流されやい草食系男子は勝ちヒーローになれるポテンシャルはある」
「そもそも、絶対的な勝ちヒーローなんて存在するのかよ」
長谷川先輩がスマホに視線を落としたまま静かに問う。
言われてみれば………絶対的勝ちヒーローってなんだろう。
それがわかってれば、苦労しないんだけどね。
「え、強気美人」
『あーーーーーーー』
三人同時に同じ声が漏れた。長谷川先輩も優一も、そして俺も。
「強気美人が負けヒーローになってるところって、見たことないんだよねー」
「たしかに、たしかに……」
「さっきからたしかにしか言ってないよ、真尋。気持ちはわかる」
「健気な美人って、負けヒーローになったら読者が"可哀想で可愛い、幸せになってほしい"って感情移入できるんだけど……強気な美人が負けヒーローになったら、ただのプライド高い嫌なやつになるから。それなら負けヒーローより、性格の悪い悪役にした方がいいよね」
スラスラと言葉を紡ぐ姫宮先輩。
普段からしっかりと考えているからこそ、出てくる言葉なのだろう。
負けヒーロー部としての活動は、ただの雑談だけだと思っていたけど、先輩なりに部活動に向き合っていたんだなとわかった。
「ひめっち先輩。俺は?」
優一が身を乗り出して聞く。長谷川先輩、俺ときたら次は自分の番だろとでも言うかのように。
俺個人としては、優一は勝ちヒーローだと思う。王子様系。
一番王道な勝ちヒーロー。そんなイメージがある。
でも姫宮先輩は違った。
「優一はね、典型的な負けヒーロー!」
「そこまではっきり言う?」
優一が、がっくりと肩を落とした。
長谷川先輩が、理由を問う。
「優一は………スパダリ王子様×一途なモテ男!」
属性だけ聞けば強そうだな。アニメやゲームでいう、ラスボスみたいなステータスだ。
「一途なモテ男は、負けヒーローでしかないんだよー残念ながら。男女共にモテるのに、なぜか本命には好きになってもらえない。スパダリでなんでもできる王子様系なのに、報われない。それは、優一が好きな子に優しすぎるから!」
「優しいっていいことじゃないのか?」
すかさず、長谷川先輩がフォローに入る。フォロー半分、本音半分ってところだろうか。
俺も長谷川先輩の意見と同じだ。好きな相手に優しくするのはダメなことなのだろうか。
「人としてはそれでいいんだけど、勝ちヒーローってなると優しいだけじゃダメ。むしろ、優しいことが仇になることもある」
「どういうことですか?」
「恋愛には、ドキドキと刺激が大事! 優しいことはいいことだけど、最初から最後まで優しいだけの男はダメ! 勝ちヒーローになりたいなら、ときには意地悪とか、積極性が大切。特に、優しい×幼なじみは、報われないことが多いから優一は頑張らないとね」
「勘弁してよ、先輩。好きな子に優しくしたいのは、自然なことでしょ。意地悪は俺には向いてない」
優一がふいっとそっぽを向く。そんな優一に姫宮先輩は「そんなんだから、いつまで経っても本命に気づかれないんだよ」と、言った。
「……わかってるよ、見てるだけじゃダメだって」
「優一? どうしたの?」
ぼそっと小さくつぶやく優一に気づいたが、「なんでもないよ」とはぐらかされてしまう。
(モヤモヤするなぁ………)
もう一回隙を見て優一に話しかけようとしたそのとき。
部室の扉が、大きな音を立てて開いた。
