負けヒーローの俺でも勝ちヒーローになれますか

「――ひろ。真尋」
「ん、んん………優一? あれ、俺いつのまに……」
「お風呂の後って眠たくなるよね。もう八時だよ。夕食にするから起きて」
「おきてるよ」
「まだ寝ぼけてる」
「ちがう、起きてる」
ぼんやりとした頭が、だんだんと冴えてきた。俺は、手探りで"ゆう"を探す。
ない、ない。どっかに落ちたかな。
「真尋が探してるのってこれ?」
「あ! 俺の"ゆう"!」
優一が何故か"ゆう"を右手に持っていた。さっきまで俺が抱っこしてたのに。
「へぇ、"ゆう"って言うのか、この子」
「"ゆう"、かえして」
「だめ」
「なんで! 俺の"ゆう"返せよ!」
「本物の"ゆう"なら、ここにいるだろ」
優一が、"ゆう"を机の上に置いた。俺の手の届かない場所。
そして、優一は何故か俺をソファーに押し倒した。
優一の顔が近づく。いつもかけている眼鏡を外して。
(…………え。なんで眼鏡外した? アニメでは、押し倒したときに眼鏡を外すのって、キスする合図だけど………もしかして)
俺は慌ててぬいを優一の唇に押し当てた。
「………邪魔、なにこれ」
「………"ゆう"二号」
「必要ない。真尋………口、開けて。―――ん。ん………?」
俺はもう一度、ぬいを優一の顔の前にかざす。優一の唇と"ゆう三号"の唇があわさった。
「……………真尋」
「な、なに」
「こいつ、だれ」
「"ゆう"三号」
「なんでそんなに持ってるんだ」
「観賞用、布教用、抱っこする用、写真撮る用、着せ替え用…………まだあるけど、グッズを複数買いするのはオタクの常識でしょ?」
俺がそう言うと、優一は黙ってしまった。そばには、"ゆう"が三人、ちょこんと座っていた。
「俺が何したいか、わかってる?」
「キス?」
「そう、キス。なんでとめたの? 俺のこと嫌い?」
優一が眉を寄せ、少し寂しそうな顔をした。眼鏡はかけていない。優一の素の表情。普段とは違う優一の顔に、思わずドキリと胸が鳴る。
気のせいだ、きっと。今のは違う、はず。
「真尋が嫌ならしたくない。だから正直に言ってほしい」
「嫌いとかじゃないけど………」
「それなら、どうしてとめたの」
「……………だって、キスはお付き合いしてからじゃなきゃ。両親への挨拶とか、お互いの意思の再確認。それと―――」
「待って、そういうこと?」
優一が、「ふっ」と、息を吐くように優しく笑った。
なに笑ってるんだ、こいつは。こっちは真剣に話してるっていうのに。
「そっか、嫌われてるわけじゃなかったんだ。………よかった。真尋に嫌われたら生きていけない」
「大袈裟な…………」
「本当だよ。真尋は俺の王子様だから」
(俺が優一の王子様? いきなりどうしたんだろう。恋愛アニメにでもハマったのか?)