春を待つ雪 〜男子高校生ふたりが、秘密のSNSアカウントを作る話〜

 仕事を終えた後の楽しみは、フォローしているSNSアカウントの巡回だ。

 最後尾の車両は座席が全て埋まり、吊り革が半分ほど空いていた。
 天井の照明で、暗い窓に車内をそのまま映している。

 会話をする者はなく、首を傾けて眠る背広の男や学生たちと、手元のスマートフォンに目を落とす乗客たちの頭の列が、線路の継ぎ目のたびに同じ角度で揺れた。

 車掌室と客室を隔てる壁にもたれて、女は左肩に掛けた革のビジネストートを前に抱えながら、スマートフォンをなぞっている。

「……あれ」
 真新しいネイルが、一つのアイコンの上で止まった。

 アカウント名は、2ki_days。
 丸く切り抜かれたプロフィールアイコンが、新しくなっていた。
 少し前まで、派手な色の傘を広げたキノコだったはずだ。

 それが、スニーカーに変わっている。
 デザインの違う男物のつま先が、二つ、隣り合っている。

 女は指を止めたまま、その小さなアイコンを数秒見つめた。
 それから、アカウントを開く。
 最新投稿のサムネイルをタップすると、写真が、画面いっぱいに表示された。

 写っているのは、二本の腕。
 片方は日焼けして血管が浮き出ている。手も大きい。
 もう片方は色が白く、指が細く長い。

 二つの手が、指を絡めて繋がっていた。

 背景は焦点が合っておらず、青とも緑ともつかない色の中で光が点になって散っている。海か、それとも木の下か。

 キャプションは、

 ――よろしく

「……これって、ついに……!? っ、ごほん」
 漏れ出した独り言を、女は咳払いで誤魔化す。

 投稿は、その日の昼だ。
 夜のこの時点で、コメントの数はもう五十件に届きそうだ。
 日本語の他、韓国語、中国語、英語と、多言語だ。
 なんだか、色めき立ったコメントが目立つ。

「……」
 女は、自分がにやついていることに気づいた。
 スマートフォンを寄せて口元を隠し、再びわざとらしく咳をひとつ。

 挙動不審なその様子を気にする乗客は、いなかった。