魔王城で家政婦ライフしていたけど、私が勇者だったようです。

 食事は気が向いた時に食べるという魔王様をたしなめ、一日三食摂るように決めた。
 もちろん作るのは私だ。
 明日からはちゃんと早起きしないと。

 とりあえず、特訓はいったん休憩にしてご飯を食べることにした。

 お城の中へ戻ろうと歩き出したときふと、木の根元にキノコが生えているのを見つけた。
 見たことのないものばかりだけど、いろいろな種類がある。

「魔王様、あのキノコって食べられるんですか?」
「食べたことはないが、毒になるようなものではないだろう」
 
 毒キノコじゃないのに食べたことないんだ。もったいない。
 私はいくつか持っていくことにした。

 魔王様には広間で待っていてもらい、私は厨房へと行く。
 
 採ってきたキノコと元々あった根菜類の野菜を並べる。
 何を作ろうかな。

 道具はある。でも、調味料が塩しかない。
 炒める? それだけじゃ味気ないよね……。

 結局、昨日と同じスープにキノコが増えただけのものになってしまった。
 ご飯とかパンもないし、何か考えないとな。

 大したものを作れず納得できないままお鍋を広間へ持っていく。
 そしてスープよそったお皿を、待っていた魔王様に差し出した。

「昨日と同じもので申し訳ありませんが……」

 魔王様は気にすることもなく食べ始める。
 用意しておいてなんだが、食に興味のない人でよかった。
 でも、毎日同じものを出すなんてできないよな。

 そんな私の思いとは裏腹に、魔王様はあっという間にお皿を空にする。

「今日も美味い」
「飽きたりしませんか?」
「食べられたらいいと言っただろう。今までずっと同じものを食べてきた」

 そうだった。魔王様の言うずっとを想像するとなぜか私が恐ろしくなる。
 あんな不味いスープを何千年も食べ続けてるなんて。

「あの……もう少し調味料とか、食材とか欲しいんですけど……」
「どうしてだ。ここにあるもので十分だが」
「もっと美味しいもの、食べたくありません?」
「それは気になるな。だが今あるのもの以外は街に行って買ってくるしかない」
「お買い物とかするんですか?!」
「俺はしたことない。仲間たちは姿を偽ってよく行っていた」

 バレたりしなかったのかな?
 どんなふうに買い物していたんだろう。
 
「私も、お買い物行きたいです」
「好きにすればいいが、俺は行かないぞ」

 それって、一人で森を抜けて街まで行かないといけないということ?
 魔物がうじゃうじゃいる森を行って帰ってなんて無理じゃん。
 諦めるしかないか……。

 スープを見つめながら項垂れる。

「しょうがないな」
「連れて行ってくれるんですか?!」
 
 パッと顔を上げ魔王様を見ると、面倒くさそうにしながらも頷いてくれた。
 意外と優しいんだな。

 お鍋にあったスープを全て食べ終えると、魔王様は自室へと行った。
 そして戻ってくると私に小さな麻袋を渡してくる。

「なんですか? これ」
「金だ。買い物をするなら必要だろう」

 忘れていた。買い物をするならお金は必須だ。
 私はこの世界のお金なんて持っていないのに。

「使っていいんですか?」
「ああ。俺が持っていても使わないからな」
「では、ありがたく使わせていただきます」

 麻袋を受け取り、ワンピースのポケットに入れた。
 それからお城を出て、なぜか魔王様は私の手を握った。

「え? 手を繋いで歩くんですか」
「何をおかしなことを言っているんだ」

 魔王様は呆れたように言うと、握った手を引っ張り私の腰を抱き寄せた。

「え?!」

 一瞬目の前が真っ暗になり、明るくなるとそこは小さな丘の上だった。

 今のって、瞬間移動ってやつ?
 そういえば、魔物の肉を持ってきた時も瞬間移動してたな。
 魔王様こんなことできるなんてすごい。
 私も使えるようになりたいな。
 
「ここを下ると王都の街だ」

 見下ろす先では、たくさんの人やお店で賑わっているのがわかる。
 遠くには宮殿のような建物もある。
 少し離れたところには十字架の掛けられた教会も。
 私がいたのってあそこなのかな。近づかないようにしないと。
 てか、宮殿より教会の方が大きいんですけど。

 後ろを振り返ると緑豊かな草原が広がり、魔王城がある森とは全然違っていた。
 この世界に来て、教会と魔王城しか知らなかったから新鮮だ。
 こう見ると案外いい場所なんだな。

「魔王様は本当に行かないんですか?」
「行かん。俺は城に戻るから帰るとき呼んでくれ」
「呼ぶ? ってどうやって――」

 魔王様はあっという間に消えてしまった。
 いや、呼ぶって。魔王城にいるのにどうやって呼ぶの。

「魔王様~」
「なんだ」
「うわっ」

 スッと目の前に現れた魔王様。
 本当に呼んだら来るんだ。

「えっと……なんでもありません?」
「むやみに呼ぶなよ」
「すみません。次は買い物が終わったら呼びます」
「そうしてくれ。美味しいもの、楽しみにしている」

 魔王様は不敵に笑うとまた姿を消した。
 本当、すごいな。
 帰ったら私も瞬間移動教えてもらおう。

 そんなことを思いながら、丘を下りて街の中へと入っていく。
 大通りに沿って並ぶたくさんのお店。人々が行き交い、活気に溢れている。
 
「いろんなものがあるなぁ」

 食べ物が売られている辺りに来たけれど、芋や根菜類、葉物野菜もたくさんあるし見たことないものもいっぱいある。
 どれを買おう。無難に味の予想がつくものにしようかな。
 魔王様に美味しいご飯を作るって言ったから変なもの買えないし。
 でも、せっかくだからいろんなものに挑戦してみたい。

「嬢ちゃん、ここに並んでるのは今朝採れたばかりの野菜ばっかりで買いだぜ!」

 お店のおじさんが元気よく声をかけてくる。
 たしかにどれもみずみずしくて美味しそう。

 私は適当に何種類かの食材を購入した。

 それから調味料を求めて街を進んでいく。

 すると少し先の通りが騒がしいことに気付いた。
 人だかりができていて、何が起こっているのかはわからない。
 
「なにがあるんだろう」

 様子を伺っていると、近くにいたエプロンを付けた恰幅の良い女性が声をかけてきた。

「また神官たちとアンドレア王子が揉めてるんだよ」
「神官と王子が揉めてる?」
 
 神官って私をこの世界に召喚した人たちだよね。
 王子と揉めるって本当ヤバい奴らなだな。

「知らないのかい? ところであんた、ここらじゃ見ない顔だね」
「えっと……最近、ここに来たばかりで」

 当たり障りなく返事をすると、女性は険しい顔で話し始める。

「この国はね、王政国家だけど実際は教会が権力を握ってるんだよ――」

 ――もういつからかわからない、何千年も前から続いている儀式。
 ここヴァローレ王国の北の森の奥深くに棲む魔王を封印するため、百年に一度教会の神官たちによって異世界より勇者が召喚される。
 魔王を封印できるのは勇者だけ。そしてその勇者を召喚できるのは神官だけ。
 故に、王家も教会には強く出ることが出来ず、教会が権力を振りかざしていた。

「教会のせいで税もどんどん重くなってるんだよ。アンドレア王子が国民のために働きかけてくれてなんとかやっていけてるんだけどねぇ」

 聞けば聞くほど神官たちがどれほど悪い人たちかわかってくる。
 国を守るための勇者を召喚できたって、国民が苦しんでいたら元も子もないじゃない。
 しかも失敗して私を召喚してるしね。

「ところで、魔王ってどんな悪いことをしてるんですか?」
「さあ? あたしたち国民は見たこともないからね。復活しても森から出ることなくまた勇者に封印されるらしいから」

 まだ出会って間もないけれど、あの魔王様はわざわざ人里で何か悪さをするような人ではない気がする。
 実際に何かをしたという話もないらしいし。勇者が倒しに来るから対抗しているだけ。
 
 てことは魔王様は何も悪くないよね?
 封印されなければいけない理由もない。

 やっぱり魔王様には強くなってもらわないと。

 勇者が負ければ教会も威張れなくなる。
 魔王様にとっても国民にとってもいいこと尽くしじゃない?

 そのためにもさっさと買い物を終わらせてご飯作って食べてもらおう。
 神官たちに見つかっても厄介だしね。

 私はお店がある方へ戻り、ハーブや砂糖などの調味料を購入した。あと小麦粉と油も。ついでに石鹼も。
 砂糖は他のものに比べると値段が高かったけれど、魔王様に貰った麻袋にはけっこうなお金が入っていたようで十分足りた。
 
「けっこう時間かかっちゃたな」

 街を出て、魔王様と別れた丘へと向かっていく。
 野菜や小麦粉がかさばるし、大きな紙袋がパンパンだ。油もけっこう重い。
 これ持って丘を登るの大変だな。
 少しだけ休憩しよう。

 丘の手前にある大きなイチョウの木の木陰に腰を下ろした。

「ふう」

 一息つきながらボーっとしていると、足音が聞こえてくる。
 パカッパカッという動物の足音。馬かな?
 そう思っていると、丘の上から物凄い勢いで本当に馬が駆け下りてきた。

 跨っているのは大きな剣を腰に携え白い制服を着た、金髪の綺麗な男性。
 座りこんでいる私に……気づいていない?!

 避けないと轢かれる!
 立ち上がろうとした時には遅かった――

「止まってくださいー!!」

「はっ!」

 男性は私に気付き、手綱を引いて馬を止める。けれど、その反動でバランスを崩し転倒してしまった。

「すみません! 大丈夫ですか――」