魔王城で家政婦ライフしていたけど、私が勇者だったようです。

 アンドレア王子の相談は、やはりというか想像の範囲内のことではあった。
 横暴な権力を振るう教会が失脚したことを国民は喜びはしたが、新たな不安を生んだ。

 魔王はどうするのかということ。

 教会が力を失い勇者がいないとなると、魔王が野放しにされ人里に下りて危害を加えるのではないかという懸念。
 いくら口で魔王は人を襲わないと言っても、人々の不安は拭えないだろう。

「それで、これはあくまでこちら側の都合による提案なのだが――」

 アンドレア王子は言いにくそうにするするが、魔王様はいつものように「好きすればいい」と了承した。

 ◇ ◇ ◇


 北の森に進軍してくる王宮騎士団の隊。
 先頭にはアンドレア王子がいて、指揮を執っている。

 私と魔王様、ミレアスさん、マルブさんは少し遠くから眺めていた。
 魔物がいるけれど、ミレアスさんが結界を張ってくれているので安全だ。

「私たちはいつ参戦すればいいの?」
「別に参戦しなくてもいいだろう」
「僕、自分がどれくらいできるのか試したい!」

 どこか楽しそうなミレアスさんと、乗り気でない魔王様。それに気合いの入ったマルブさん。
 アンドレア王子からは、参戦するかしないかは任せると言われている。

「私も、本気で戦ったことはないのでやってみたいです」

 とりあえず、騎士団の様子を伺い折を見て参戦しよう。

 どんどん森の奥へと入ってきた騎士たちは、それぞれ戦闘態勢に入る。
 そして、攻撃を始めた。

 大きな咆哮を上げ、迫りくる魔物たち。
 いつもとは違う森の様子に魔物たちは興奮状態にあるようだ。

 それでも屈強な騎士たちは連携を取りながら、次から次へと魔物を倒していく。

「早く参戦しないと魔物が全員倒されない? 僕の出番がなくなるよ」
「そうですね。そろそろいいかもしれません」

 ミレアスさんに結界を解いてもらい、私たちも魔物へ向かっていく。

 アンドレア王子の提案とは、魔王討伐を偽装することだった。
 このまま魔王に対しなにもしなければ王家としても国民に示しがつかない。
 神官長を捕まえただけで、魔王は放っておくのかと。
 だからといって魔王様と争うつもりもない。
 そこで、表向きには勇者の代わりに王宮騎士団が魔王を討伐したことにするというものだった。

 騎士団が北の森に向けて王都を出発し、国民に激励を受けてここに来た。
 けれど、実際は魔物の討伐をして帰るというもの。
 出発してそのまま帰ることもできたが、身綺麗なまま帰れば不自然なため、北の森の魔物と戦うことにしたのだ。
 
 先日の話は魔物討伐と、魔王を倒したと公言してもいいかという提案とお願いだった。

 魔王様はそれを了承し、私たちも一緒に魔物討伐に参加しているというわけだ。

「マルブさん、左前方から魔物来てます!」
「わかった! あ! ユリも前!」
「結界張っておくから好きなだけ攻撃して!」
「ありがとうございます!」

 私は前方から突進してきた大きなサイのような魔物に火炎放射を放つ。
 一度使っただけだったからもう一度ちゃんと使いこなせるかやってみたかったんだよね。

 魔物はあっという間に燃え尽きて灰になった。

「ユリ、灰になったら肉が食べられないぞ」
「あ、そうでした……」

 今日の晩ごはんの獲物も確保するつもりでいたのに、灰にしたら意味がない。
 火炎放射はやめておこう。
 私は風と水の魔法に切り替えることにした。
 魔王様もあれこれ言いながらたくさん倒している。

 その後も次々に魔物を倒し、辺りには生きている魔物はいなくなった。

 騎士たちも返り血を浴び、良い感じに戦った勲章を纏っている。
 
「そろそろ撤退しよう」

 アンドレア王子が騎士たちに声をかけ、撤退準備をはじめる。
 そして王子は私たちのところへ駆け寄ってきた。

「我々の提案を受け入れてくれてありがとう。魔王は封印ではなく、死んだことになる。これで、長きにわたる人間と魔王の怨恨関係は終わった」
「別に俺は人間を恨んでなどいない」
「ああ、そうだな。魔王、お前と知り合えてよかった」

 魔王様は何も言わないけれど、きっとアンドレア王子のことを気に入っている。

「気を付けて帰ってくださいね」
「大丈夫。この森ほど危険なところはないからな」
「たしかにそうですね」

 自然と笑いがこぼれたとき、アンドレア王子が私の頬に手を触れた。

「魔物の血がついていた」
「ありがとう、ございます」

 急に触られたからびっくりした。

「ユリ、また王宮に遊びに来てくれるか」
「王宮はちょっと気が張ってしまうので……街に遊びに行きます。お買い物には行きたいですし」
「わかった。ユリが、暮らしやすい国にできるように尽力する」
「ちょっと王子様~ユリだけ? 私たちは?」
「もちろん、あなたたちが不自由なくこの国にいられるようにしたいと思っている。本当に世話になった」

 アンドレア王子は深々と頭を下げた。
 そして、騎士団の隊を引き連れて、王都へと戻っていった。

「私たちも戻りましょう」
「そうですね。今日のおかずの魔物を持ってかえらなければ」

 持ってかえらなければと言いながら、魔物の処理はいつも魔王様にしてもらっているので自分ではできない。
 そっと魔王様を見上げると、目が合った。

 すると魔王様の手が伸びてきて、私の頬に触れた。
 そして袖で頬をごしごし擦る。

「え? なんですか?」
「汚れていた」
「でもさっき魔物の血はアンドレア王子が拭ってくれたんですけど」

 それ以上魔王様は何も言わず、手頃な魔物を抱えてさっさと行ってしまった。
 
 ミレアスさんとマルブさんはなぜかニヤニヤしていた。