魔王城で家政婦ライフしていたけど、私が勇者だったようです。

「一般礼拝者はこちらからお入りください」

 教会の入り口で愛想の良い若い神官に案内されて礼拝堂へと入る。
 あの神官は私が召喚されたときには見なかった人だな。すごく丁寧だし。
 召喚の儀は高位神官だけで行うって言っていたし、下っ端の神官は横暴な人ばかりではないのかもしれない。

 ただ、国民からあまりよく思われていないからか、礼拝者はほとんどいない。
 この時間帯は礼拝堂は自由に出入りでき、不自然ではないけれど、人が少ない分目立っている。
 
「ミレアスさん、この後は打ち合わせ通りに」
「ええ、気を付けてね」

 私たちは礼拝を済ませると、二手に分かれた。
 礼拝堂の入り口にいる神官は一人。
 ミレアスさんがその神官に声をかける。
 私はその隙に礼拝堂から出て、裏側へと回る。ここから先は一般市民は入れない場所になっている。
 目的の場所は、渡り廊下で繋がる奥の建物。

 門衛などはいないけど、神官たちが行き来していて簡単には入れそうにない。
 そのまましばらく茂みに隠れて様子を伺う。

 すると急に神官たちが騒がしくなり、バタバタとそこにいた全員が中へと入っていった。
 何があったのかはわからないけど、今のうちに忍び込もう。
 
 辺りを確認しながら、中に入る。
 廊下の曲がり角でいったん止まり、人がいないことを確かめながら進んでいく。
 
「何をしている」
「ここは神官以外立ち入り禁止だ」

 声がして振り返ると、神官が二人いた。
 やっぱり見つかりますよね。

「すみません、迷ってしまって」
「いいから早くでていけ」
「はぁい、出口ってこっちですかね?」

 素直にきくふりをして、奥へ向かって廊下を駆ける。

「おい! そっちじゃない」

 神官たちは追いかけてくる。
 私は走りながら、両手に魔力を漲らせる。
 そして、一度振り返り、思いっきり水を噴射した。
 二人は奥の壁まで吹き飛んでいく。
 ついでに廊下は水浸しだ。

 これでもう、後戻りはできない。

 案の定、神官たちが集まってくる。
 私は使える魔法を駆使しながらとにかく奥へと進んで行く。

 話に聞いていた通り、戦えるような神官はここにはいないようだ。
 騒ぎになっているけれど、それなりに戦えるようになった私にとってはまだ安全なところ。
 こっちに注意を集めて、東側の鐘塔が手薄になればいい。
 ハルさんがいるであろう秘拝室は鐘塔の地下にある。ミレアスさんが先に向かい、状況をみて私も合流する。

 アンドレア王子は上手くラカス神官長を連れ出してくれているだろうか。
 わからないけど、信じるしかない。

 私は集まってくる神官たちに捕まらないように、奥へと進んだ。
 入り口とは反対側にも外に出る扉がある。タイミングを見てこの建物から見つからないように出て、うまくいけば鐘塔に向かう予定だ。
 けれど、角を曲がったところで見覚えのある扉を見つけた。

 ここは、私が召喚されたときにいた部屋だ。
 鎖に南京錠がかけられ厳重に施錠されている。
 召喚するとき以外は誰も入れないようにしてるんだな。
 
 勇者を召喚するための魔法陣がある部屋。
 全てはここから始まった。

 こんな場所がなければ、私ここに連れてこられることもなかった。
 今までの勇者だってそう。
 魔王様が封印されることだってなかった。

 私は魔力をぶつけ、鍵を壊した。そして扉を開ける。
 追いかけてきていた神官たちはさらに増えていて、開いた扉を見て取り乱している。

「その部屋に入るな!」

 一人の神官が剣を構え駆け寄ってきた。
 あの人は召喚された時に見た気がする。たぶん、私に魔力を込めろと水晶を持ってきた人。
 ということは高位神官で魔力を持っている。油断しないようにしないと。

 入るなという言葉は無視し、中へと進む。
 奥には祭壇があり、部屋の中央には大きな魔法陣があった。
 やっぱりそうだ。

「こんなもの、なくなってしまえ!」

 私は祭壇に駆け上がり、飛び降りながら魔法陣を覆うように力を込めて魔力を放つ。

 すると魔法陣はメキメキと音を立てて床と共に崩れていく。そして崩れた床はどんどん落ちていく。
 ヒビを入れて使えなくしようと思っていただけなのにやり過ぎかも。
 でも、やってしまったものはしょうがない。

 崩れる床の下は空間があった。地下室があるんだ。
 着地できなかった私も、一緒に地下へと落ちていく。
 
 その時、追いかけてきた神官が剣を振りかざしてくる。
 落ちながら切り付けてくるなんて卑怯じゃない。
 なんてことは言ってられないので、必死にかわしながら、地下の部屋に瓦礫と共に着地した。

 同じく着地した神官と向かい合う。
 構えた剣には魔力が纏っている。

「お前は何者だ。王子の手下か。それとも魔王の仲間か」
「どっちも正解なようで違いますね」

 あの剣で切り付けられたら痛いだろうな。
 私は距離を取り、もう一度突風を吹かせた。ついでに水も。

 神官は避ける場もなく壁に打ち付けられ、そのまま壁が崩れ、隣の部屋まで吹き飛んだ。

 ちょっとやり過ぎた?
 神官は瓦礫に埋もれてしまった。

 とりあえず、私のすることはここまでかな?
 あとはミレアスさんと合流しよう。

 けれど、よく見るとここは私が召喚のあと連れて来られた地下牢だった。
 足元には割れた床と、転移魔法を使うための魔法陣があった。

 召喚の魔法陣と転移の魔法陣を一気に壊したんだ。
 私、やるじゃん。

「ユリ!」

 声がして振り返ると、そこにはミレアスさんがいた。
 どうしてここにいるのだろう。
 鐘塔の秘拝室に向かったはずなのに。
 
「ハルさんはどうなりましたか?」
「間に合わなかった」
「え、じゃあ……」
「今この魔法陣を使って魔王城に行ったのよ」

 私がここを崩す直前に転移魔法を使ったんだ。
 ハルさんは、復活した。そして魔王様を封印しに行った。

「私がもう少し早くここに来ていれば……」
「ユリのせいじゃないわ。とにかく、城に戻りましょう」

 私はミレアスさんの手をとり、転移魔法で魔王城へ帰ろうとした。
 けれどその時、瓦礫のカケラが勢いよく飛んできた。

 私の頭をかすめ、赤いリボンが吹き飛ぶ。
 髪はあっという間に赤髪から黒髪へと戻った。

「お前は、あの時の女! 生きていたのか」

 瓦礫の中からでてきた神官は私を覚えていた。
 やっぱり、死んだと思っていたんだ。
 でもここまで大事にしている以上隠す必要もない。

「生きていて悪いですか」
「その力、お前が本物の勇者だったということか」
「私が勇者だろうとなんだろうと、あなたたちの思い通りにはさせません」

 とにかく、魔王城へ戻らなければ。
 魔王様にもしものことがあれば教会の思うつぼだ。

 私はもう一度ミレアスさんの手を握り、転移魔法を試みる。
 けれど、どんどん神官たちが集まってきて攻撃が四方から飛んでくる。

 これじゃ転移に集中できない。
 
「私がここに残るからユリは行って」

 ミレアスさんが手を離し、保護魔法で結界を張ってくれた。
 でも、魔王様と、ハルさんにはミレアスさんが必要だ。

「だめです。一緒に行きましょう」
「保護魔法をかけながらでは転移魔法の魔力を纏えないわ」

 私は結界の中にいるだけだから大丈夫だけれど、魔法を使っているミレアスさんは、私の魔力をはね返してしまい、一緒にいけない。
 どうしたらいいの。

 その時、崩れた天井から見慣れた人物が私たちの目の前に飛び降りてきた。
 
「アンドレア王子!」
「遅くなった! ここは僕たちに任せて君たちは行って!」

 すると続々騎士団員たちが飛び降りてきて、私たちを守るように囲った。

「ありがとうございます」

 ミレアスさんは頷くと保護魔法を解除し、私は転移魔法を使うために魔力漲らせる。
 目を瞑り、頭の中に魔王城を浮かべた――