「マルブ、身体の具合はどうだ」
「問題ありません! それに今回はいつもより早く目覚めることができました。またミレアスには負けてしまいましたけど……」
「比べる必要などない。お前はお前だ」
「はい! ありがとうございます」
マルブさん、すごくニコニコしてる。
魔王様のこと、好きなんだろうな。
なんかお父さんと子供みたい。
「まあマルブ、とりあえず座りなさいよ」
ミレアスさんは立ち上がると、隣の椅子を引き座るように促す。
そして新しいお皿にスープを注いだ。
スープのお皿をテーブルに置くと、マルブさんは目の前に座る私を睨みつけ席に着く。
魔王様に向けていた顔と別人なんだけど。そんなに私のこと気に入らないのかな。
けれど、すぐにスープを食べ始めた。
目覚めたばかりだし、お腹はすいているんだろう。
「なんだこれ。いつものスープと違う。美味しい」
「でしょ? ユリが作ったのよ」
「人間が?! 早く言えよこんなの食べたくない」
「こら!」
ミレアスさんがげんこつを落とした。
けっこう強かったな。
「いってぇ。なにするんだよ!」
「せっかく作ってくれたのになんてこと言うのよ。さっき美味しいって言ったじゃない」
「だからって人間の作ったものなんか食べたくない」
スプーンを置くと、あからさまにプイッと顔を背ける。
すると食べ終わった魔王様がスッと立ち上がり、マルブさんを見下ろす。
「マルブ、お前は何も食べなくていい」
「え、ジル様……」
魔王様は特訓するために庭へと出て行った。
マルブさんはドアをじっと見つめ、ミレアスさんはため息をついている。
険悪な雰囲気だ。
「あの、お二人とも食べませんか?」
「僕は食べない。ジル様にも食べるなって言われたし」
そう言うと、広間を出て行ってしまった。
ミレアスさんは残りのスープを口にしながら申し訳なさそうに私を見る。
「ユリ、ごめんなさいね」
「いえ、人間の私が気に入らないのは仕方ないです……」
仕方ないとは言ってもこのままじゃいけないよね。
どうすれば、私のことを受け入れてもらえるだろうか。
◇ ◇ ◇
食事を終えたあとは湯殿の掃除をした。
毎日ではないけれど、魔王様は定期的にお風呂に入るようになった。
ミレアスさんは一日に何度も入っているし、綺麗にし甲斐がある。
私はいつものように手から水を出して床や壁も磨いていく。
そして給湯口の魔法陣に魔力を流し、お湯を張る。
この作業も、もう慣れたものだ。
次は廊下の掃除。
だいぶ綺麗になってきたけど、広いお城の廊下全てを掃除するのには時間がかかる。
かといって湯殿のようにびしょびしょにして洗うわけにもいかないので、屋根裏部屋から持ってきた箒と雑巾で丁寧に掃除していく。
バケツに水を入れ、雑巾で窓を拭く。
単純な作業に見えるけど、適当にしてしまうとけっこう拭き跡が残ったりするから難しい。
でも、ピカピカで透き通るような窓になると気持ちいいんだよね。
なんて考えながら掃除していると、後ろでバケツがバシャンと倒れた。
え? なんで?
振り返るけれど、誰もいない。私が蹴ったわけでもないし。
その時、廊下の角で緑の髪がちらりと見えた。
マルブさんが魔法かなにか使ってバケツを倒したのだろうか。
これはもしや嫌がらせ?
私、相当嫌われてるんだな。
とりあえず拭かないと。
バケツいっぱいの水が全てこぼれているのでかなり広範囲だ。
固く絞った雑巾を手に取り、四つん這いになって廊下を駆ける。
こんな長い廊下の雑巾がけなんて中学生以来かも。
なんか、水溜りの水を塗り広げてるみたいで案外楽しい。
でも誰かが通る前に拭かないと。
と思っていたのにちょうど魔王様が現れた。
「えらく豪快な掃除の仕方だな」
魔王様は私を見下ろしている。
また変なことをしていると思っているのだろうか。
はじめはめっちゃ丁寧にしてたんですけどね!
バケツは私が倒したわけじゃないし。
まあ言わないけど。
「バーッと濡らしてバーッと拭いて? 的な感じです。雑巾がけってけっこういい運動になるんですよ」
得意気に言ってみたりしたけど、魔王様は真顔で見下ろしてくるだけだ。
それより、早く通ってくれないかな。
けれど通り過ぎるどころかなぜかしゃがみ込み、置いてあった雑巾を手に取った。
そしてあろうことか四つん這いになって雑巾がけをし始めたのだ。
噓でしょ。
なんてシュールな光景。
「あの魔王様、掃除は私がするので大丈夫ですよ」
「これはたしかに良い運動になるな。初めての動きだ。普段使わないところが鍛えられる」
話がかみ合ってないけど、魔王様がいいならいいか。
「じゃあ、どっちが早いか競争です!」
私も四つん這いになって追いかける。
すると魔王様はさっきよりもスピードを出して駆けていく。
返事はなかったけど、けっこう本気だ。
追いついた私に横目でフッと笑い、またスピードを上げる。
遊ばれてる?!
私も負けんとばかりにスピードを上げた。
「――はあ、はあ……絶対に明日筋肉痛だ」
廊下の雑巾がけを終え、しゃがんだまま壁にもたれる。
魔王様はというと、呼吸ひとつ乱れず立っていた。
「良い運動になった。またやろう」
またやるの?!
私はもう普通に掃除したいんですけど。
けれど魔王様はやる気満々の様子で廊下を眺めると部屋へと戻っていった。
疲れたけど、綺麗になったし楽しかったからいいか。
◇ ◇ ◇
次の日、朝早くに街へ買い物に行った。
今度は必要なものをさっと買ってすぐに戻ってきた。
急いで朝食を作り、広間のテーブルに用意する。
マルブさんの食事も準備していたけれど、朝食の席に来ることはなかった。
朝食の後はお部屋の掃除をすることにした。
使っている部屋はいつもしているけれど、使ってない部屋も少しずつ整えていっている。
全ての部屋を綺麗にするにはまだまだかかりそうだけど、いつまでも放置してるわけにもいかないからね。
私は雑巾とバケツを持って廊下を歩いていた。
その時ガシャン、と大きな音が聞こえた。
音は厨房の中からのようだった。
魔王様は今庭にいるし、ミレアスさんはお部屋で休んでいるはず。
ということは……。
少しだけ厨房のドアを開け中を覗く。
そこにはひっくり返ったお鍋の前に立ち尽くす、マルブさんがいた。
「問題ありません! それに今回はいつもより早く目覚めることができました。またミレアスには負けてしまいましたけど……」
「比べる必要などない。お前はお前だ」
「はい! ありがとうございます」
マルブさん、すごくニコニコしてる。
魔王様のこと、好きなんだろうな。
なんかお父さんと子供みたい。
「まあマルブ、とりあえず座りなさいよ」
ミレアスさんは立ち上がると、隣の椅子を引き座るように促す。
そして新しいお皿にスープを注いだ。
スープのお皿をテーブルに置くと、マルブさんは目の前に座る私を睨みつけ席に着く。
魔王様に向けていた顔と別人なんだけど。そんなに私のこと気に入らないのかな。
けれど、すぐにスープを食べ始めた。
目覚めたばかりだし、お腹はすいているんだろう。
「なんだこれ。いつものスープと違う。美味しい」
「でしょ? ユリが作ったのよ」
「人間が?! 早く言えよこんなの食べたくない」
「こら!」
ミレアスさんがげんこつを落とした。
けっこう強かったな。
「いってぇ。なにするんだよ!」
「せっかく作ってくれたのになんてこと言うのよ。さっき美味しいって言ったじゃない」
「だからって人間の作ったものなんか食べたくない」
スプーンを置くと、あからさまにプイッと顔を背ける。
すると食べ終わった魔王様がスッと立ち上がり、マルブさんを見下ろす。
「マルブ、お前は何も食べなくていい」
「え、ジル様……」
魔王様は特訓するために庭へと出て行った。
マルブさんはドアをじっと見つめ、ミレアスさんはため息をついている。
険悪な雰囲気だ。
「あの、お二人とも食べませんか?」
「僕は食べない。ジル様にも食べるなって言われたし」
そう言うと、広間を出て行ってしまった。
ミレアスさんは残りのスープを口にしながら申し訳なさそうに私を見る。
「ユリ、ごめんなさいね」
「いえ、人間の私が気に入らないのは仕方ないです……」
仕方ないとは言ってもこのままじゃいけないよね。
どうすれば、私のことを受け入れてもらえるだろうか。
◇ ◇ ◇
食事を終えたあとは湯殿の掃除をした。
毎日ではないけれど、魔王様は定期的にお風呂に入るようになった。
ミレアスさんは一日に何度も入っているし、綺麗にし甲斐がある。
私はいつものように手から水を出して床や壁も磨いていく。
そして給湯口の魔法陣に魔力を流し、お湯を張る。
この作業も、もう慣れたものだ。
次は廊下の掃除。
だいぶ綺麗になってきたけど、広いお城の廊下全てを掃除するのには時間がかかる。
かといって湯殿のようにびしょびしょにして洗うわけにもいかないので、屋根裏部屋から持ってきた箒と雑巾で丁寧に掃除していく。
バケツに水を入れ、雑巾で窓を拭く。
単純な作業に見えるけど、適当にしてしまうとけっこう拭き跡が残ったりするから難しい。
でも、ピカピカで透き通るような窓になると気持ちいいんだよね。
なんて考えながら掃除していると、後ろでバケツがバシャンと倒れた。
え? なんで?
振り返るけれど、誰もいない。私が蹴ったわけでもないし。
その時、廊下の角で緑の髪がちらりと見えた。
マルブさんが魔法かなにか使ってバケツを倒したのだろうか。
これはもしや嫌がらせ?
私、相当嫌われてるんだな。
とりあえず拭かないと。
バケツいっぱいの水が全てこぼれているのでかなり広範囲だ。
固く絞った雑巾を手に取り、四つん這いになって廊下を駆ける。
こんな長い廊下の雑巾がけなんて中学生以来かも。
なんか、水溜りの水を塗り広げてるみたいで案外楽しい。
でも誰かが通る前に拭かないと。
と思っていたのにちょうど魔王様が現れた。
「えらく豪快な掃除の仕方だな」
魔王様は私を見下ろしている。
また変なことをしていると思っているのだろうか。
はじめはめっちゃ丁寧にしてたんですけどね!
バケツは私が倒したわけじゃないし。
まあ言わないけど。
「バーッと濡らしてバーッと拭いて? 的な感じです。雑巾がけってけっこういい運動になるんですよ」
得意気に言ってみたりしたけど、魔王様は真顔で見下ろしてくるだけだ。
それより、早く通ってくれないかな。
けれど通り過ぎるどころかなぜかしゃがみ込み、置いてあった雑巾を手に取った。
そしてあろうことか四つん這いになって雑巾がけをし始めたのだ。
噓でしょ。
なんてシュールな光景。
「あの魔王様、掃除は私がするので大丈夫ですよ」
「これはたしかに良い運動になるな。初めての動きだ。普段使わないところが鍛えられる」
話がかみ合ってないけど、魔王様がいいならいいか。
「じゃあ、どっちが早いか競争です!」
私も四つん這いになって追いかける。
すると魔王様はさっきよりもスピードを出して駆けていく。
返事はなかったけど、けっこう本気だ。
追いついた私に横目でフッと笑い、またスピードを上げる。
遊ばれてる?!
私も負けんとばかりにスピードを上げた。
「――はあ、はあ……絶対に明日筋肉痛だ」
廊下の雑巾がけを終え、しゃがんだまま壁にもたれる。
魔王様はというと、呼吸ひとつ乱れず立っていた。
「良い運動になった。またやろう」
またやるの?!
私はもう普通に掃除したいんですけど。
けれど魔王様はやる気満々の様子で廊下を眺めると部屋へと戻っていった。
疲れたけど、綺麗になったし楽しかったからいいか。
◇ ◇ ◇
次の日、朝早くに街へ買い物に行った。
今度は必要なものをさっと買ってすぐに戻ってきた。
急いで朝食を作り、広間のテーブルに用意する。
マルブさんの食事も準備していたけれど、朝食の席に来ることはなかった。
朝食の後はお部屋の掃除をすることにした。
使っている部屋はいつもしているけれど、使ってない部屋も少しずつ整えていっている。
全ての部屋を綺麗にするにはまだまだかかりそうだけど、いつまでも放置してるわけにもいかないからね。
私は雑巾とバケツを持って廊下を歩いていた。
その時ガシャン、と大きな音が聞こえた。
音は厨房の中からのようだった。
魔王様は今庭にいるし、ミレアスさんはお部屋で休んでいるはず。
ということは……。
少しだけ厨房のドアを開け中を覗く。
そこにはひっくり返ったお鍋の前に立ち尽くす、マルブさんがいた。
