魔王城で家政婦ライフしていたけど、私が勇者だったようです。

「このお料理とっても美味しいわ」
「魔物のお肉、シチューに合いますね。良かったです」

 街で買ってきたビーツとワイン、それと魔物の肉でシチューを作った。
 見た目は普通のビーフシチューだけど、それよりもさらにコクがある。
 魔物の肉が案外どんな料理にも合ってありがたい。

 ミレアスさんは終始ニコニコしながら食べてくれている。

「ユリのおかげで毎日の食事が楽しみになったわ。ねえ、ジル」
「ん? ああ、そうだな」
「そうならもっと美味しそうに食べなさいよね」

 魔王様は返事もほどほどに、黙々と食べている。
 そしてシチューを食べ終えると、お皿を差し出してきた。

「おかわりですね。ただいま」

 私はお皿を受け取り、鍋からシチューをよそう。
 そして魔王様に渡すとまた黙々と食べ始めた。

「もう、亭主関白みたいなことやめなさいよ」

 ミレアスさんは呆れたように言う。
 こんなやり取りも当たり前になってきた。
 私はこんな風に魔王様に突っ込みを入れるなんてできないけど、この三人の関係が居心地良く感じる。

「あ、そうだ。お土産を渡そうと思っていたんです」

 やり取りを見ていたら、二人のために買っていたものを思い出した。
 ポケットに入れてあった小袋を取り出し、ミレアスさんに渡す。

「実は楽しみにしてたの。開けていい?」
「もちろんです。気に入っていただけるといいのですが」

 渡したのは雑貨店で買った紫色のサテン地の上品なリボン。
 一目見て、ミレアスさんの髪に似合うと思ったんだよね。
 
「まあ、嬉しい! ありがとう」

 そのまま髪に結んでくれたので、気に入ってくれたのだろう。

「お部屋はどれも可愛いもので溢れていますが、ミレアスさん自身はあまり装飾品はつけないようなので可愛くなり過ぎないデザインにしてみました」
「そうなのよ。本当はフリフリの可愛い物が好きなんだけど、私には似合わないでしょ? このリボンは綺麗も可愛いも兼ね備えてる感じでとってもいいわ」

 自分には似合わないと思って身に付けていなかったんだ。
 でも、好きなものを我慢するなんてもったいない。

「たしかにミレアスさんは大人っぽい魅惑的な雰囲気ですが、似合わないなんてことはないですよ。ここれからいろいろ試していきましょう」
「ユリ、ありがとう! そんなこと言ってくれるのあなただけよ」

 椅子に座ったまま抱きついてくるミレアスさん。
 本当に嬉しそうにしてくれるので、私も思わず笑顔になった。

 すると、魔王様がじっとこちらを見ていることに気付く。
 目が合うと、魔王様は口を開いた。

「……俺には、ないのか」
「ジル、リボンが欲しかったの? あなたも髪長いものね」
「違うっ、リボンでなくて、その……土産だ」

 ミレアスさんだけに買ってきたと思ったんだ。
 そういうわけじゃないんだけど、申し訳ない。

「魔王様にもお土産あります! でも、用意するのに少し時間がかかって。すみませんが少し待っていてください」
「わかった……」

 お土産がないことに拗ねている魔王様可愛い。
 先に何を渡すか言っても良かったけど、驚かせたいから完成まで待ってもらおう。

 ご飯を食べたあと、部屋に戻って買ってきた布を広げる。
 少し厚めで、光沢のある黒い布。これで魔王様の新しいマントを作ろうと思っている。
 先日洗濯して汚れは落ちたし、破けたところは縫って渡したけれど、どうしても継ぎ接ぎ部分が気になった。だから新しく作ろうと思ったのだ。
 黒色以外の布にしようかとも思ったけど、やっぱり魔王様は黒が似合う気がした。
 さすがにちゃんとした服は作れけど、マントなら作れる。
 
 布を魔王様の身長ほどの台形に裁断する。
 それから屋根裏部屋から持ってきたミシンに糸を通し、レバーを回し、ペダル部分を前後に踏む。

「おお、動いた」

 現代の電動ミシンと比べると劣るけれど、ちゃんと規則正しく縫えている。
 慣れてくると足踏みも案外楽しいし。

 それにしても魔王様って、お城の中にいる時でもずっとマント羽織ってるよな。
 中に何も着ていないわけでもないし、暑くないのかな。
 洗濯する時は脱いで特訓していたし、絶対に離さないってわけでもなさそう。
 随分と着古しているし、そんなに重要なものなのだろうか。
 もしかして、特殊な機能とかついてたりする?
 保温保冷効果があるとか、攻撃をかわす防御機能付きとか。
 九十八回戦っても保ってるんだから耐久性は絶対にあるよね。
 そんな大層なものだったら私には作れないな。
 もしそうならこれは洗い替えくらいに使ってもらおう。

 そんなことを考えながら一気に縫い上げる。
 最後に魔王様の髪と同じシルバーのボタンを付けて完成。

「うん、見た目は良い感じ!」

 機能性はまあ、ないけど。
 魔王様、このマント喜んでくれるかな。

 翌日、庭で特訓している魔王様のところへ行きマントを渡した。

「昨日言っていたお土産です。布を買って、私が作りました」
「こんな物まで作れるのか」
「普通のマントなので、魔王様のみたいに保温効果とか防御機能とかは備えてないんですけど……」
「そんな機能はない。これもただの布だ」
「あ、そうなんですね……」

 だったら物持ち良すぎない?
 ボロボロすぎでしょ! と思っていたけど、妥当な状態だったのかも。
 
 驚きながらも受け取ってくれ、着ていたマントを外し木に掛けた。
 そして新しいマントを羽織ると、魔王様はハッと目を見開き私を見る。

「魔法を付与しているのか?」
「そんなことしてませんけど? というか魔法の付与の仕方なんて知りませんし」
「いや、これはたしかに付与されている。しかも数種類……」

 私、いつの間にそんなこと?
 普通にミシンで縫っただけなんだけど。

「どんな魔法がかかってるんですか?」
「恒温魔法、回避魔法、あとは状態維持の保護魔法もだな」

 それって、元々魔王様のマントにあるのかな、と思っていた機能だ。
 考えながら縫ったから付与されたってこと?
 そもそも付与ってなに?
 私、そんな魔法も使えるの?

「自分の力がまだいまいちわかりません」
「魔法を使う上で大事なのは魔力の質とイメージだ。身体の魔力の巡りとイメージの共鳴の精度が高ければ高度な魔法も使えるようになる」

 転移魔法を教えてもらったときもイメージが大事っていってたな。

「でも、それならみんな簡単にできそうですけどね」
「これは予想だが、異世界から来たということも関係しているはずだ。頭の中にあるものも、身体を巡る魔力もこの世界のものとは違うんだろう」

 言われてみれば湯殿を掃除した時も高圧洗浄機をイメージしていたし、髪を乾かす時もドライヤーをイメージした。
 この世界にはそんなものないからイメージの仕方が違うのかも。身体の違いはよくわからないけど。
 
「イメージしたら魔法が使えるって、私最強すぎません? 勇者が攻めて来ても返り討ちにできそう」
「相手も同じ異世界人だろう。それに勇者は教会管理の下、訓練を積んでやって来るはずだ。ユリは、人を殺めたことはあるか?」
「ない、ですけど……」
「なら戦闘には向いていない。いくら相手を倒すイメージをしたとしても、魔力に綻びが出る」

 本気でやらなければ勝てないということだろうか。
 たしかに相手も人間だ。殺す気で立ち向かえるかと聞かれたら、自信はない。
 けど、せめて足手まといにならないように自分の身は自分で守らなければ。
 
「私、この力をもっと上手く扱えるようになりたいです。無意識に使っているとかじゃなくて」
「ユリならすぐ上達するだろう」

 それに、私の目標は魔王様に早く完全に復活してもらって、強くなってもらうこと。
 自分の力を把握して、しっかりサポートしないと。