キミの1番にはなれないと思ってたけど、



放課後、体育祭練習で抜けてるやつが多く、

人数が足りないとかで頼まれて、体育館でバスケ部の練習試合に参加していた。

なんで今のタイミングで練習試合なんかするんだ?(笑)

まあ、それは置いといて。

てか、俺らのクラスは明日から体育祭練習が始まるけど、みんな元気だわ……。



休憩に入って、弦は体操服の上に着ていた借り物のゼッケンを外した。

ふと、隣のコートを見る。

そこではバレー部が練習していた。


うちのバレー部は、そこそこ強い。

大会でいい結果を残して、朝会で表彰されているのを、この2年間だけでも何度見たことか。


「キャーーー!」

『っ、びっくりした……』

女子たちの黄色い声の先を反射的に見ると、

……あ。

あの人。

見覚えがある。

確か、よく俺たちの教室に来ている人だ。

深町に会いに来ているところを、何度か見たことがある。


背も高いし、黒髪短髪で、爽やか。

いかにも運動部!って感じだ。

女子からモテるのも分かる。

前に女子たちが、1年からレギュラーを取っているって話していた。

だから、多分かなり上手いんだろう。


親元を離れて、寮で暮らしているという話も聞いたことがある。

普通に考えたら、かなりすごい人だ。

でも、名前は思い出せない…、

なにクンだっけな、、

……こんなすごい人なのに、

なんで俺、名前思い出せないんだ……?




ーーキーンコーンカーンコーン…ーー

そして、次の日。

無事平和に過ごし、今日はまっすぐ家に帰ろうと、

教室を出てまっすぐ下駄箱へ向かおうとすると、廊下の向こうから声をかけられた。


「あ」

『え?』

 声の主を辿ると…

『あ、』

 昨日の人だ、深町と仲良い…


「いきなりごめん! A組の子だよね?」

『あ、はい』


改めて見ると、背も高い。

深町と並んでいるところを何度か見たことがあるけど、2人ともデカいから、なかなか迫力があった。

そろそろ暑くなってきたのにまだ長袖を指定されていることに抵抗してなのか、

袖を半袖丈まで雑に捲っていて、第1ボタンだけ開けている。

ネクタイは……してない。

生活指導の先生に見つかったら怒られそうだな(笑)


なんて思いながら、顔を見る。

昨日はユニフォーム姿だったけど、

こっちも良いな…なんて柄にもないことを考えるぐらいには、魅力がある。


……確かに、めっちゃ爽やかだわ。

これはモテるな。


「あのさ、環…いやっ、深町!は帰った?」

『深町?…は、まだ教室にいるはず?』

と答えた瞬間に、深町も教室から出てきて、


「長谷部」

とその男子に呼びかけた。


ああ、ハセべくんか!

そうだったそうだった。

長谷部(ハセべ) ()さんだ!

女子からは《ハセガク》と親しみを込めて呼ばれていたことを思い出した。

あと【ベ】だけなんだから呼べば良いのに、と心の中でツッコんだのを思い出して少し笑ってしまった。

それを隠すためにも手を押さえて咳払いで掻き消した。

2人の会話を抜けようとも思ったが、変にここで抜けるわけにもいかずただ黙って聞くしかなかった。


「どしたん?なんか用?」

「相変わらずクールだな〜…ま、そういうところも好きだけど♡」

「……」

「黙んないでよ!反応して!(笑)」

「いやー…反応するまでもなかった」

「ま、良いけど(笑)

あ、で、まさかの!部活!なくなったんだよね!」

「え、なんでなん?」

「監督が奥さんの出産に立ち会うから、って」

「へえ!おめでたいやん!」

「そうそう〜!良いことづくし!あれ、深町は?生徒会」

「あ、今日ないねん」


いつもの二人。

自然な会話。

もうそろそろ抜けようか、

と話にも入ってなかったが、

何故か位置的に俺を介して話していたので、そっ〜と抜けようとすると、


「瀬良」

呼ばれて深町を見ると、目が合った。

「一緒に帰る?」

『……え、』

長谷部もこっちを見る。


どうしよう、

『…えーっと、、いいの?』

と長谷部くんに許可をとろうと彼を見ながら言った。

「もちろん!えっーと、セラくん?」

『うん』

「環と仲良いの?」


それは誰が言ってるセリフなんだ、

1番仲良いんじゃないのか?と思いつつ、グッと言葉を堪えて、


『最近よく喋るかな、席近くなって』

「体育祭も二人三脚ペアになったりしてな?」

と深町に呼びかけられて、

2人の目線が一気に俺に集まった気がしたため、少し緊張して、

『う、うん。そう…』

視線をわざと逸らしながら、かろうじて返事をした。


「へぇ〜…あ、じゃあ3人で帰ろっか」

3人で歩き始める。



長谷部はよく喋る。

深町はそれを聞いて、たまに笑う。

俺も話に入る。

それはそれで楽しかった。


でも。

2人の間には、俺には分からない時間がある。


「環、覚えてる?」

「何を?」

「中学の体育祭」

「……ああ」

「お前、あのときさーー…」

長谷部が笑う。

深町も思い出したように笑った。


「そんなことあったっけ?」

「めっちゃ面白かったじゃん!」

「…忘れたわ」

「絶対覚えてるって」

2人で笑っている。


俺はその横で笑いながらも、

少しだけ思った。



――俺には知らない深町が、まだいっぱいある。

当たり前だ。

ちゃんと話すようになって、まだ1ヶ月も経っていない。

長谷部はずっと前から深町のことを知っている。

それに比べたら。

俺なんて、まだ何も知らない。

「瀬良?」

『ん?』

「何ぼーっとしてるん?」

『いや、別に』

「そう?」

『うん』


深町が俺の顔を覗き込む。

「……眠い?」

『違うって』


思わず驚いて後退りをして距離をとってしまった。

「ならええけど」

それだけ言って、また前を向く。


反射的に避けてしまったみたいになったが、なんとも思われてなさそうで安心した。

…でも逆にも思ってしまった。

なにも思ってくれないんだな、そりゃそうだよな。


俺に避けられようがそりゃ何にも影響ないわけだから。

2人でまた話し始めたその横顔を見ながら。

俺はふと思った。

隣で笑ってるのは俺じゃないんだな。



――この感情はなんだ?

でも確実に言えるのは、

ただ、

知らないままなのが、少し嫌だった、

ということだけだ。