*
次の休み時間。
「なあなあ」
答案をファイルにしまっていると、
深町が後ろの机に肘をついて振り向いて声をかけてきた。
深町の後ろの田中さんは幸いにも他の女子に話しかけに行ってて、居らず、周りには俺たちだけだった。
だから意図的に話しかけてくれて嬉しさを感じつつ、平然と返事した。
『…ん?』
「他の教科はもうちょい高いから」
『…そうなの?』
あれ見た手前、にわかには信じ難いな…
という言葉はグッと堪えた(笑)
「俺、理系の方が得意」
『へえ!俺もだよ』
と言うと嬉しそうに、
「数学は負けへんからな」
と呟いた。
『残念、俺もだわ』
「おっ、勝負する?」
と勝負を持ち込まれたが、
次の瞬間、座っている俺に対して上から肩を組まれた感覚があって、
見上げると、その人物がそのまま
「深町のために言っとくわ、やめときな」
と答えた。
「佐藤やん」
「おう」
「え、なんでなん、それは?」
「あー…こいつ、幼馴染に秀才がおって」
「秀才?」
『小学校の時から頭良かったし、今は進学校に通ってる』
「へえ」
「理数は全部教えてもらってるらしいのよ。
その効果もあってか、俺1年の時から1回も勝てたことないから」
「……へえ」
少し考えた素ぶりを見せたあと、
「負けました」
と潔く降伏したフリをしてきた。
『まだ点数出てないのに(笑)』
「佐藤の言うことは信じる」
「うん、いい判断」
『こいつのことは1番信用してはいけない人間だと思うよ?』
「なんでだよ!心外な!」
『でもそんな自信満々なくらい深町も割といいんだ?』
「うん。理数系選択するつもりだし、
他は人生においても使わないだろうから」
んー…一概には言えないだろうが茶々は入れないでおく。
「やから、それ以外は捨ててるようなもん」
あまりにも堂々と言うものだから。
『ふっ』
耐えられなかった。
『ははっ……!』
思わず笑いがこぼれる。
「何?」
深町が怪訝そうな顔をする。
『いや、ごめん。なんか……』
「何がおもろいん」
『だって、堂々と言うから』
「事実やし」
「瀬良が言ってんのは、ドヤ顔でする話じゃないってことだぞ」
「……」
深町が少し黙る。
そして。
「……ふっ」
また笑った。
今度は俺もつられて笑う。
佐藤はまだ何か言ってるようだが、正直入ってこない。
しかも、ここは教室のざわめきの中。
それでも。
たったそれだけのやり取りだった。
なのに。
なぜか、そのときの深町の顔が頭に残った。
普段は何を考えているのか分からない。
誰かと話していても、どこか一歩引いているように見える。
なのに、笑うときだけ。
ほんの少しだけ。
年相応に見えた。
そんなことを考えているとそばからいつの間にか佐藤がいなくなっていたことに気付く。
それを不思議に思っていると、
「瀬良」
『ん?』
「次、移動教室」
『あ、そうだ』
時計を見る。
「遅れるで」
『深町、先行っていいよ』
「……待つ」
『え?』
「一緒に行こう」
それだけ言って、深町は立ち上がった。
慌てて次の授業の準備をする。
『わかった、ちょっと待って』
「急いで」
『はいはい』
二人で教室を出る。
廊下を歩きながら、さっきの会話を思い出す。
――ギャップ、か。
我ながら、変なこと言ったな。
でも。
本当にそう思った。
深町 環という人間は、知れば知るほどよく分からない。
クールで。
口数が少なくて。
なのに、ふいに笑う。
その笑顔が、妙に印象に残る。
それからしばらく。
俺は何度か、深町が笑うところを目で追っていた。
本人には、たぶん気づかれていない。
少なくとも。
このときの俺は、そう思っていた。
次の休み時間。
「なあなあ」
答案をファイルにしまっていると、
深町が後ろの机に肘をついて振り向いて声をかけてきた。
深町の後ろの田中さんは幸いにも他の女子に話しかけに行ってて、居らず、周りには俺たちだけだった。
だから意図的に話しかけてくれて嬉しさを感じつつ、平然と返事した。
『…ん?』
「他の教科はもうちょい高いから」
『…そうなの?』
あれ見た手前、にわかには信じ難いな…
という言葉はグッと堪えた(笑)
「俺、理系の方が得意」
『へえ!俺もだよ』
と言うと嬉しそうに、
「数学は負けへんからな」
と呟いた。
『残念、俺もだわ』
「おっ、勝負する?」
と勝負を持ち込まれたが、
次の瞬間、座っている俺に対して上から肩を組まれた感覚があって、
見上げると、その人物がそのまま
「深町のために言っとくわ、やめときな」
と答えた。
「佐藤やん」
「おう」
「え、なんでなん、それは?」
「あー…こいつ、幼馴染に秀才がおって」
「秀才?」
『小学校の時から頭良かったし、今は進学校に通ってる』
「へえ」
「理数は全部教えてもらってるらしいのよ。
その効果もあってか、俺1年の時から1回も勝てたことないから」
「……へえ」
少し考えた素ぶりを見せたあと、
「負けました」
と潔く降伏したフリをしてきた。
『まだ点数出てないのに(笑)』
「佐藤の言うことは信じる」
「うん、いい判断」
『こいつのことは1番信用してはいけない人間だと思うよ?』
「なんでだよ!心外な!」
『でもそんな自信満々なくらい深町も割といいんだ?』
「うん。理数系選択するつもりだし、
他は人生においても使わないだろうから」
んー…一概には言えないだろうが茶々は入れないでおく。
「やから、それ以外は捨ててるようなもん」
あまりにも堂々と言うものだから。
『ふっ』
耐えられなかった。
『ははっ……!』
思わず笑いがこぼれる。
「何?」
深町が怪訝そうな顔をする。
『いや、ごめん。なんか……』
「何がおもろいん」
『だって、堂々と言うから』
「事実やし」
「瀬良が言ってんのは、ドヤ顔でする話じゃないってことだぞ」
「……」
深町が少し黙る。
そして。
「……ふっ」
また笑った。
今度は俺もつられて笑う。
佐藤はまだ何か言ってるようだが、正直入ってこない。
しかも、ここは教室のざわめきの中。
それでも。
たったそれだけのやり取りだった。
なのに。
なぜか、そのときの深町の顔が頭に残った。
普段は何を考えているのか分からない。
誰かと話していても、どこか一歩引いているように見える。
なのに、笑うときだけ。
ほんの少しだけ。
年相応に見えた。
そんなことを考えているとそばからいつの間にか佐藤がいなくなっていたことに気付く。
それを不思議に思っていると、
「瀬良」
『ん?』
「次、移動教室」
『あ、そうだ』
時計を見る。
「遅れるで」
『深町、先行っていいよ』
「……待つ」
『え?』
「一緒に行こう」
それだけ言って、深町は立ち上がった。
慌てて次の授業の準備をする。
『わかった、ちょっと待って』
「急いで」
『はいはい』
二人で教室を出る。
廊下を歩きながら、さっきの会話を思い出す。
――ギャップ、か。
我ながら、変なこと言ったな。
でも。
本当にそう思った。
深町 環という人間は、知れば知るほどよく分からない。
クールで。
口数が少なくて。
なのに、ふいに笑う。
その笑顔が、妙に印象に残る。
それからしばらく。
俺は何度か、深町が笑うところを目で追っていた。
本人には、たぶん気づかれていない。
少なくとも。
このときの俺は、そう思っていた。
