キミの1番にはなれないと思ってたけど、



数日後。

昼休み。

俺の席付近に集まってくれたクラスの連中が馬鹿騒ぎしてるのを嗜めながら、パンを貪り食べていた。

ふと前を見ると、女子達が前後の机をくっつけながら話している。

後ろでは誰かがスマホゲームをしている。


いつも通りの昼休み。


ーーキーンコーンカーンコーン……ーー


予鈴のチャイムが鳴って、解散し、各々が次の授業の準備をし始める。

少し予習をしようかと筆箱を開けると、

勢いよく消しゴムが飛び出し、そのまま床に落としてしまった。


『あ、やべ』

拾おうと屈もうとしたが、

席に戻ろうとした深町がちょうど前を通り、

ぶつかるといけないし、

一旦横切ってから屈み直そうと動きを止めた。


すると、

「これ、落ちてた」


…そう言って、差し出してくれたのは、

俺の消しゴムだった。


『……あぁ、ありがとう』


受け取ろうとして、手を伸ばす。

その瞬間。

深町の指先から消しゴムが離れた。

ぽとん。

机の下に落ちる。


「ごめん」

深町が笑う。

『いや、こっちこそまた落としちゃったから』

「いや、俺がちゃんと渡せばよかった」


2人で机の下を覗き込む。

深町が先に拾った。

「はい」

『ごめん、ありがとう』

受け取る。


その瞬間だった。

頭の奥で、何かが弾けた。


――ぽとん。

小さな音。

通路側。

俯いた女子。

その前の席にいた男子。

手を挙げた。

「すみません」

試験官に何かを伝える。

消しゴムを拾ってもらう。

そして、何事もなかったように前を向いた――。



『……あ』

声が漏れた。

それを聞いて深町がこっちを見た。

至近距離のまま、目が合う。


「何?」

『いや……』

目の前にいる。

あの日の、

あの人が。


『……深町ってさ』

「ん?」

『前に、どっかで会ったことない?』


深町は少し考えるように瞬きをした。


「……ないんちゃう?」

『そっか』

「なんで?」

『あー…』

言葉が続かない。

あのときのことを話しても、たぶん深町は覚えていない。


そもそも、あの日の俺だって、名前すら知らなかった。

なのに。

俺は覚えていた。

たった一度見ただけだったのに。


『……気のせいだったわ!』

焦って立ち上がりながらそう言うと、深町は不思議そうな顔をした。


「変なやつ」

『うるさい』

「はいはい」


深町も立ち上がりつつ、下を向いて笑う。

その笑顔を見て。

胸の奥が、少しだけざわついた。


あの日、俺が思ったことを思い出す。

――優しい人だな。


ただ、それだけだったはずなのに。

今は。

もう少し、この人のことを知りたいと思った。

それが何なのか。

このときの俺には、まだ分からなかった。



ただ、気づけば。

俺はそれから、深町の姿を目で追うようになっていた。