*
クラス旗が完成した頃には、外はもう薄暗くなっていた。
「おー、結構いいじゃん!」
佐藤が完成した旗を少し離れたところから眺める。
「でしょ?」
田中さんも満足そうに頷く。
深町も、
「うん、いい感じ」
と笑った。
俺も完成した旗を見る。
みんなで作ったものが形になると、思っていたより達成感があった。
「じゃ、今日はここまでにしよっか」
田中さんの言葉に、みんなが片付けを始める。
俺も筆を洗おうと立ち上がる。
その時、
「瀬良」
『ん?』
「…昨日のこと、ありがとね」
小さな声だった。
一瞬、何のことか分からなかった。
でも、すぐに思い出す。
『……こっちこそ』
「何が?」
『いや……なんでもない』
「ふふ」
田中さんは笑った。
それ以上は何も言わなかった。
俺も何も言わなかった。
でも、昨日より距離が少しだけ近くなった気がした。
*
翌日の体育。
体育祭まで、着々と迫ってきている。
「リレーの走順変更するかも含めてクラスで確認できる最後のチャンスだからな〜」
先生の声に、クラスメイトたちが気を引き締める。
俺は、第一走者の深町からバトンを繋いで走ることになった。
練習とはいえ、身体を伸ばしながらほぐしていると、
「瀬良、緊張してる?」
と深町が隣に来てくれた。
『うん…ちょっと?
まだ練習なのに今から緊張してたらどうなるんだかって感じだけど(笑)』
「瀬良なら大丈夫」
という言葉とともに頭をポン、と頭に手を置かれた。
その手の温かさに種類の違う緊張が押し寄せつつ、
『その自信どこから来んの?』
と手の隙間から深町を見上げながら問いかける。
「なんとなく?」
『適当じゃん』
その返しに深町が笑いながら俺の頭をグシャグシャと撫でた。
乱れた髪のまま、ボッーとその顔を眺めたまま、また少しだけ緊張する。
……いや。
バトン練習くらいで何を緊張してるんだ、俺。
「あ、すごいことになってるな」
『誰かさんがしたんですけど』
とわざとらしく膨れると、「ごめんごめん」と笑いながら直してくれた。
直してくれたり、かと思えば直してくれなかったり。
その度にドキドキして。
振り回されてるわ〜…
走者位置に移動していく後ろ姿を見ながら、
でもそれも悪くないな…
なんて我ながら少し気色悪い考えが浮かんだが、先生の合図で我に返る。
タッタッタッタ…ジャリッ
近づいてくる足音。
「瀬良!」
『はい!』
手を後ろに伸ばす。
でも、少しタイミングがずれた。
「あっ」
バトンが手の甲に当たって、かろうじて落ちなかったものの、ロスが生じた。
とはいえそのまま次の走者の元へ向かった。
無事にバトンを繋ぎ、出番を終えた俺は、
未だレースの結果は決まっていなかったが、走り終えたメンバーが集まっている列へと混じった。
その中に深町の姿を捉えるとすぐに謝った…
が、同時に深町も謝ってくれた。
『「ごめん!」』
『いや、俺が遅かった』
「いや、俺が渡すタイミングが悪いわ」
『そんなことないって』
2人とも引かないところに同時に笑った。
「ふふ、もしできたらさ」
『うん』
何故か声を潜めて俺の耳元へ近寄り、
「バトンだけもう1回あとでやらん?」
と誘われた。
突然の近さに驚きを隠せないまま、
『っつ…いいよ?』
かろうじて許可した。
無意識なんだろうけど、今日は特にいちいち距離が近い…!
心臓に悪いからやめてほしい…!
落ち着かせるために一歩引きながら、それでも手のひらには速い鼓動がはっきりと伝わってきた。
ー…
レースといっても競う相手がいるわけでもなく、俺らのクラスだけだったため、時間が余ったらしい。
各自で練習するように先生から指示があり、
絶好のチャンスだ!と深町とすぐに2人で集まって、授業の時間が終わるまで練習に励むことにした。
少しだけ助走をつけて
2回、3回…と繰り返す度、
バトンが手の中にうまく収まるようになってきた。
「今のいい感じやったな!」
『な!』
深町が振り返って笑った。
さっきより心臓がうるさい。
目が合ったのは、たった数秒。
ただ、バトンを受け取っただけ。
それなのに。
……好きだと自覚すると、こんなことまで特別になるらしい。
「よし、じゃあ皆と合流して練習するか」
『お、おう』
慌てて走り出す。
前を向く。
余計なことを考えないようにする。
ちゃんと、普通に。
今まで通りに。
そう思っているのに。
もう、前と同じではいられないことを。
少しずつ、分かり始めていた。
クラス旗が完成した頃には、外はもう薄暗くなっていた。
「おー、結構いいじゃん!」
佐藤が完成した旗を少し離れたところから眺める。
「でしょ?」
田中さんも満足そうに頷く。
深町も、
「うん、いい感じ」
と笑った。
俺も完成した旗を見る。
みんなで作ったものが形になると、思っていたより達成感があった。
「じゃ、今日はここまでにしよっか」
田中さんの言葉に、みんなが片付けを始める。
俺も筆を洗おうと立ち上がる。
その時、
「瀬良」
『ん?』
「…昨日のこと、ありがとね」
小さな声だった。
一瞬、何のことか分からなかった。
でも、すぐに思い出す。
『……こっちこそ』
「何が?」
『いや……なんでもない』
「ふふ」
田中さんは笑った。
それ以上は何も言わなかった。
俺も何も言わなかった。
でも、昨日より距離が少しだけ近くなった気がした。
*
翌日の体育。
体育祭まで、着々と迫ってきている。
「リレーの走順変更するかも含めてクラスで確認できる最後のチャンスだからな〜」
先生の声に、クラスメイトたちが気を引き締める。
俺は、第一走者の深町からバトンを繋いで走ることになった。
練習とはいえ、身体を伸ばしながらほぐしていると、
「瀬良、緊張してる?」
と深町が隣に来てくれた。
『うん…ちょっと?
まだ練習なのに今から緊張してたらどうなるんだかって感じだけど(笑)』
「瀬良なら大丈夫」
という言葉とともに頭をポン、と頭に手を置かれた。
その手の温かさに種類の違う緊張が押し寄せつつ、
『その自信どこから来んの?』
と手の隙間から深町を見上げながら問いかける。
「なんとなく?」
『適当じゃん』
その返しに深町が笑いながら俺の頭をグシャグシャと撫でた。
乱れた髪のまま、ボッーとその顔を眺めたまま、また少しだけ緊張する。
……いや。
バトン練習くらいで何を緊張してるんだ、俺。
「あ、すごいことになってるな」
『誰かさんがしたんですけど』
とわざとらしく膨れると、「ごめんごめん」と笑いながら直してくれた。
直してくれたり、かと思えば直してくれなかったり。
その度にドキドキして。
振り回されてるわ〜…
走者位置に移動していく後ろ姿を見ながら、
でもそれも悪くないな…
なんて我ながら少し気色悪い考えが浮かんだが、先生の合図で我に返る。
タッタッタッタ…ジャリッ
近づいてくる足音。
「瀬良!」
『はい!』
手を後ろに伸ばす。
でも、少しタイミングがずれた。
「あっ」
バトンが手の甲に当たって、かろうじて落ちなかったものの、ロスが生じた。
とはいえそのまま次の走者の元へ向かった。
無事にバトンを繋ぎ、出番を終えた俺は、
未だレースの結果は決まっていなかったが、走り終えたメンバーが集まっている列へと混じった。
その中に深町の姿を捉えるとすぐに謝った…
が、同時に深町も謝ってくれた。
『「ごめん!」』
『いや、俺が遅かった』
「いや、俺が渡すタイミングが悪いわ」
『そんなことないって』
2人とも引かないところに同時に笑った。
「ふふ、もしできたらさ」
『うん』
何故か声を潜めて俺の耳元へ近寄り、
「バトンだけもう1回あとでやらん?」
と誘われた。
突然の近さに驚きを隠せないまま、
『っつ…いいよ?』
かろうじて許可した。
無意識なんだろうけど、今日は特にいちいち距離が近い…!
心臓に悪いからやめてほしい…!
落ち着かせるために一歩引きながら、それでも手のひらには速い鼓動がはっきりと伝わってきた。
ー…
レースといっても競う相手がいるわけでもなく、俺らのクラスだけだったため、時間が余ったらしい。
各自で練習するように先生から指示があり、
絶好のチャンスだ!と深町とすぐに2人で集まって、授業の時間が終わるまで練習に励むことにした。
少しだけ助走をつけて
2回、3回…と繰り返す度、
バトンが手の中にうまく収まるようになってきた。
「今のいい感じやったな!」
『な!』
深町が振り返って笑った。
さっきより心臓がうるさい。
目が合ったのは、たった数秒。
ただ、バトンを受け取っただけ。
それなのに。
……好きだと自覚すると、こんなことまで特別になるらしい。
「よし、じゃあ皆と合流して練習するか」
『お、おう』
慌てて走り出す。
前を向く。
余計なことを考えないようにする。
ちゃんと、普通に。
今まで通りに。
そう思っているのに。
もう、前と同じではいられないことを。
少しずつ、分かり始めていた。
