キミの1番にはなれないと思ってたけど、

ーー放課後ーー

体育祭の準備で、教室には部活がない子達が率先的にまだ何人か残っていた。

「あ、段ボールなくなるかも…」

と田中さんが呟いた。

『俺、貰ってこようか?』

「え、いいの?じゃあ…お言葉に甘えて」

『うん、数多ければ多いだけいいよね?』

「そうね…!多いに越したことないかも」

『わかった、じゃあ行ってきます』

「ありがとう〜」

と何人かの女子の感謝の言葉に見送られながら、調理室へ向かった。

この期間中、ダンボールの管理をここで行なっていて、貰う時は何枚貰ったか、置いてある紙に記さないといけない。


『えっーと…1、2、3…』

取った枚数を数えていると、

「ね、何枚貰うの?」

という声が聞こえ、振り返るとそこには田中さんがいた。

『あれ、来てくれたの』

「そう、そんなひ弱な腕じゃ持てないかと思って?」

『わぁ、信用されてないな〜』

うふふ、と笑う彼女に貰う予定にしてた枚数を伝えると、ダンボールを持ちやすいように紐でまとめながら、

「……ねえ、瀬良」

呼びかけられ、

『ん?』

横でしゃがんでいた彼女を見ると、神妙な顔つきでこちらを見ていて、目が合った。


「ちょっと聞いていい?」

いつもはハキハキ話すはずの田中さんの声が、少しだけ小さかった。

その様子から只事ではないことは悟った。


『…どうしたの?』

「……いや」

一瞬、田中さんが言葉を止める。

『え、なんでも聞いて?』

「本当?」

『うん』

「じゃあ…勘違いだったらごめん」

『勘違い?』

「最近さ」

『うん』

「深町くんのこと……なんか、気にしてない?」

『…………』

心臓が跳ねた。

『……なんで?』

それしか言えなかった。

田中さんは少しニヤッと笑う。

「やっぱり、そうなんだ」

『いやっ…、まだ何も言ってないけど』

「うん。でも、今の反応で分かった」

『……』

何も言い返せない。


その反応に困ったのか、

「…いや、ごめん!やっぱり忘れて」

『いや……』

誤魔化すのも変な気がしたし、自分の気持ちにも嘘つきたくなかった。

「……好きなんだと思う」

『……そっか』

田中さんは驚いた顔をするでもなく、納得するようにただ頷いた。

「ねぇねぇ、いつから?」

『分かんない』

「えー、そこ分かんないの?」

『自分でも気づいてなかったから』

「じゃあ、最近?」

『気付いたのはほんと2日前とか?』

「ホヤホヤじゃん!」

その表現、使い方合ってんのか?と思いつつ、一応言わないでおいた。

なるほどねえ…だから最近わかりやすかったのか(笑)と田中さんは少し楽しそうに笑った。

その顔を見て、ようやく少し緊張が解ける。


『……笑わんの?』

「なんで笑うの?」

『いや…まぁ…男同士だしさ、』

その後に言葉を続けようとしたが、

「思うわけないじゃん!」

少し怒ったように、遮られた。

「逆にそんなこと思う、って思われたのが心外なんだけど」

と言う彼女を見て、この人は信頼できるかもしれない。

直感でそう思った。


「だって、好きな人できたんでしょ?」

『……うん』

「いいじゃん」

あまりにも普通に言われて、拍子抜けする。

「それで?」

『…それで?』

「深町くんのどこが好きなの?」

『…………』

改めて聞かれると、難しい。

「そうだな……」

少し考えてから、口にする。

『俺のこと、ちゃんと見てくれるところ、とか』

「……ああ」

田中さんが、何か納得したように頷いた。

「それは…好きになるかも」

『…田中さんってさ、恋愛相談乗るの慣れてる?』

「え?」

『なんか、普通に聞くから』

「あー、恋バナは好きだよ」

『まぁ…確かによくしてるもんね』

「うん。あ、でもあくまで聞く専門だよ?人の聞くの楽しいじゃん」

田中さんはあっけらかんと笑った。


「でもね」

『うん』

「私さ、多分、好きって感情がよく分かんないのよ」

『……え?』

「いわゆる、アセクシャルってやつだと思うんだけど」

あまりにもさらっと言われて、一瞬だけ言葉に詰まった。

『……あ、そうなの?』

「うん」

彼女の表情からは何も読み取れなかったが、意を決して伝えてくれたのかもしれない。

そう思うと、真摯に受け止めることに徹した。

『そっか』

「…え、ねぇ、それだけ?」

『え、何か言ったほうが良かった?』

「いや、別に(笑)」

田中さんが笑う。

「なーんか、瀬良ならそんな感じだと思った〜」

『なにそれ』

「いやなんとなく?」

『…期待通りなの、それは』

「うん、めっちゃ」

また笑う。

変に気を遣われたわけでもない。

こっちも、何か特別なことを言わなきゃいけない気もしなかった。

ただ、そうなんだ、と受け止める。

それだけだった。

「……ちなみにさ」

『ん?』

「こういうの、自分から言ったの、初めてかも」

『そうなの?』

「うん」

なんで俺だったのか、そう聞こうとしたが野暮に感じて聞くのをやめた。

だけど。

田中さんは少しだけ考えるようにしてから、

「なんか、瀬良には言っても大丈夫そうだったから」

俺に疑問にまるで答えるように、そう言った。

『……なんで?』

「さあ?」

田中さんは肩をすくめる。

「でも、今みたいに普通に返してくれたから、やっぱ言ってよかったかも」

『そっか』

「うん」

何気なく窓の外を見る。

もう、暗くなってきていた。


『これ教室置いたら一旦今日の作業は終わりにして帰ろっか』

「うん」

そんなやりとりをして、調理室を出た。

ーー帰り道ーー

教室に残っていた全員で帰って、分かれ道で1人なってふと田中さんとの会話を思い返していた。

俺はなんとなく思っていた。

田中さんとは、これからもう少し話すようになるかもしれない。

そんな気がした。