その日の放課後。
体育祭が近づいてきたということで、クラスでは看板や応援用のボードを作ることになった。
教室の後ろのロッカーには、大きな段ボールや画用紙、絵の具が並べて置かれている。
「これ、誰が文字書く?」
「深町、字きれいじゃん!」
「え、俺?」
「生徒会やってるし、こういうの得意そう」
「偏見やろ(笑)」
そんなやり取りを聞きながら、俺は机を後ろに寄せていた。
もちろん邪魔したいわけではなかったが、思わず深町に話しかけてしまっている自分がいた。
『深町』
「んー?」
『これどこ置く?』
「それ?窓際でいいんちゃう?」
「了解」
言われた通りに運ぶ。
こういう作業をみんなでするのは、思っていたより楽しかった。
普段あまり話さないやつとも自然に喋れるし、教室の空気もいつもより少し浮ついている。
「瀬良」
『ん?』
「そこ、ちょっと押さえといて」
『ここ?』
「そう、もうちょい右」
『こう?』
「うん、そこそこ」
『……これ、俺が押さえてる意味ある?』
「あるある」
『絶対ないだろ(笑)』
「でも助かってる」
『……ならいいけど』
深町が笑う。
最近、こうやって深町とくだらないやり取りをすることにも、少し慣れてきた。
……いや。
慣れてきた、と思っていた。
そのとき。
深町のスマホが机の上で震えた。
「あ」
深町が画面を見る。
一瞬だけ、その表情が柔らかくなった気がした。
「……ごめん、ちょっと」
『…ん?』
「電話」
そう言って、教室の外へ出ていく。
なんとなく、その背中を目で追った。
数分後。
戻ってきた深町は、スマホをポケットにしまいながら元にいた場所に地べたに座り込んで作業を再開した。
「誰から?」
クラスメイトが何気なく聞く。
「長谷部」
「あー、いつもの?」
「うん」
「いつでも会えんのに仲良いなあ、お前ら(笑)」
「まあ…、長い付き合いやしなぁ…」
そう言って、深町は頭をポリポリ掻きながら笑った。
長い付き合い。
その言葉が、なぜか耳に残った。
昔から一緒にいるからこそ、言葉にしなくても分かることがある。
たぶん、俺が知らない2人だけの話も、きっとたくさんある。
現に一緒に帰った時、ついていけなかったし。
そういうものなのかもしれない。
……そう考えたところで、ふと。
慧の顔が浮かんだ。
俺と慧も、似たようなものなんだろうか。
小学生から一緒にいて。
中学の頃だって、俺が何も言わなくても隣にいてくれた。
学校が違っても、今でも会う。
俺にとっては、それが当たり前だった。
だからこそ、今まで考えたこともなかった。
もし。
深町から見たら?
…いや、深町じゃなくても。
他の人から見たら?
俺と慧も、長谷部と深町みたいに見えているんだろうか。
《昔から一緒にいる、特別な2人》
……なんとなく。
そんなふうに思われていても、おかしくない気がした。
その考えが浮かんだ途端、胸の奥が少しだけざわついた。
深町には長谷部がいる。
俺には、慧がいる。
それだけのことなのに。
なぜか、少しだけ引っかかった。
