キミの1番にはなれないと思ってたけど、

ーー昼休みーー

いつもなら、俺の周りには何人か集まってくれる。

別に、呼んでいるわけじゃない。

たまには静かに食べたい気持ちも、正直ある。

でも、楽しいのは事実なので今更どうこうするつもりはなかった。


「瀬良、今日の数学さ」

「なあ、昨日のドラマ見た?」

「昼から体育だるくね?」

次々と話しかけられて、適当に返しているうちに昼休みが終わる。

今日もそうなると思っていた。


「瀬良、ごめん。俺、委員会あるわ」

佐藤が少し申し訳なさそうにしながら断ってくる。

『…おー、大変だな』

「体育祭の実行委員は目立ちたい、ってだけでやったらマジでダメだわ」

『そりゃそうだろ(笑)、地味に重労働じゃん』

「だよなー、失敗したぁ」

佐藤だけでなく他のクラスメイトも、

「俺も部活、当番」

『放送部か、いってらっしゃい』

「じゃ、またあとで」

気づけば、さっきまでいた連中が一人、また一人といなくなっていた。

別に困るわけじゃない。

むしろ、ちょっと静かでいい。

鞄から弁当を取り出した。


すると、

「瀬良」

上から俺を呼ぶ声がしてパッとその方向を見ると、

『ん?』

深町だった。

「これ」

机の上に、ペットボトルが置かれる。

『……何?』

「飲み物」

『いや、それは見たら分かるけど』

「好きやろ」

一瞬、意味が分からなかった。

ラベルを見る。

俺がいつも買っているミルクティーだった。

『……なんで?』

「よく飲んでるの見るから」

『覚えてたの?』

「うん」

「……」

なんだ、それ。

『深町、記憶力いいな』

「…普通ちゃう?」

『いや、俺だったら覚えてない』

「そう?」

俺もペットボトルを手に取る。

『ありがと』

「ん」


妙に嬉しくてついにペットボトルを見つめていると、

「これ見つけたらさ、」

『…うん?』

「瀬良のこと思い出したんよ。

俺甘いの飲まへんのについ買ってもうてて」

『…おー…思い出してくれて光栄ですわ』

「なんだそれ(笑)」


ちょけずにはいられなかった。

むしろ反応した俺を褒めて欲しいくらい。

思い出した、ってなに?

物を見て人を思い浮かぶ経験がない俺が普通じゃないのか?

これはどう受け止めるべき?


いやー…でも深町のことだからなー、なんも考えてなさそう…

これは深く考えたらダメなやつだな、

と悶々と考えそうになったので誤魔化そうと、ふと斜め前を見る。

あれ、いつもならどこかへ移動して、長谷部と一緒に食べているはずなのに。

何故かまだ教室にいる。


『深町、今日1人?』

「ん」

『長谷部は?』

「体育祭の練習」

『え、昼休みもやってんの?』

「なんか応援団に抜擢されたらしくて」

『へえ…やっぱり人気者は違いますね…』

「なんやそれ(笑)

あ、だから結構この期間中は1人で食べることになりそうで」

『あー』

それだけ聞いて、俺は風呂敷から弁当を出した。

別に、何か話すことがあるわけでもない。

ただ。

いつもならそれぞれ別のところで昼飯を食べているのに、今日はたまたま、2人とも1人だった。



「……ここで食べてもいい?」

深町が自分の席の左隣、つまりは俺の前の席を指した。

『え?』

「いつもここで食べてるやんな?」

『まあ』

「じゃあ、いい?あかん?」

『……あかんくないよ、いいよ』


許可した瞬間、

なんで関西弁(笑)とツッコミながら、

前の席の机を反転させて俺の席と前後ピッタリ机をくっつけた。

椅子が床を擦る音がする。


「なんか、変な感じやな」

『そう?』

「いつもこんな感じで食べてへんし」

『確かに』


それはどっちの意味を指してるんだろうか。

長谷部とは席をくっつけて食べてないのか、

はたまた俺と食べるのが珍しいという意味なのか。

それか、どっちもの意味が含まれているのだろうか。


『……』

それ以降は、会話は続かなかった。

でも、不思議と気まずくはなかった。


そう思いながらふと弁当に視線を移すと、

…なにかが足りない。


『あ』

「なに?」

『箸、忘れた』

「……また?」

『またって言うなよ』

昨日も忘れた。

あれ、でも一緒に食べていなかったのに、なんで俺が忘れてたこと知ってるんだ?

『どうしよ』

ちなみに、昨日は、購買に買いに行ったヤツについでに取ってきてもらった。

…購買に行くにはちょっと遠い。

かといって、素手で食べるわけにもいかない。

でも、仕方ないか、、と席から立とうとしたら

「貸したろか?」

『え?』

貸すってどういうこと?と考えていると、

「予備ある」

そう言って、深町は自分の席に戻って机の中から小さなケースを取り出した。

ティッシュなどの必需品の他に、

いつ使うのか、携帯用の裁縫用具など、

いろいろ入っていて、その中に箸もあり、2膳置いてあった。

『なんで2つ?』

「予備の予備、かな」

『……俺みたいなやつのため?』

「ちゃう」

即答だった。

『じゃあ誰のため?』

「んー…知らん」

『なんだそれ』

そうツッコみながら笑うと、深町もほんの少しだけ口元を緩めた。

「はい」

差し出された箸を受け取る。

『ありがと、明日返すね』

「ん」

また、それだけ。

俺は箸を持ったまま、なんとなく深町を見る。


……こういうところなんだろうな。

大げさに「優しいことをしてあげた」みたいな顔をしない。

困ってると気づいたら、当たり前みたいに手を出す。


しかも。

「また?」って言った。

昨日も忘れたこと、覚えてた。

てか、なんで?話聞かれてたのかな、なんだか恥ずかしいな…

そんなことに気づいてしまってから、妙に箸が使いづらくなった。