「悩みは解決できたかー。理想の自分でいるのか、本当の自分でいるのか、だっけ」
家に帰ると、黒いネコは僕のベッドで体を大の字にして横になっていた。まだ二日しか経っていないけれど、これがだいぶ日常なんだと思えてきた。とはいえ、この生活があと五日続くのか。でも、五日でこのうっとおしいネコが去ると思えば少し楽なのもしれない。
「本当の陽でいてほしいからそっちを選んだ。それで、スタート地点に迎えるためにやり遂げたよ。たしかに、皆の憧れる姿でいることも大事なのかもしれない。でも、それだと窮屈だ。大切な仲間はどんな姿でもきっと受け入れてくれる、そう思ったからね。あとは彼女次第かな。僕はできることをやったつもり」
例外もなくはないと思う。人は皆、大小さまざまな仮面をかぶっていると言われるのだから。でも、陽がかなり無理していたからというのが一番の決め手になったのだろう。
「案外君ってすごいやつなのかもな」
「そうか」
嫌いだったはずの奴に認められると、どこかほんの少しだけその人を認めたくなるようなことがある。今の僕はそうなのかもしれない。
「で、一体どうやったんだ?」
「『まっ、いいか』作戦だよ。意地悪だから詳しくは教えてあげないけどね」
「こっちも聞きたくないからいいよ!」
黒いネコはそう言ってはいたが、ヘソを曲げて不機嫌そうにしていた。でも、僕はこれ以上は教えてあげない。僕らだけがわかっていればいいのだから。でも、白いネコになら後でこっそり教えてあげてもいいかもしれない。そんな時に陽から連絡が来た。
『空斗くん、ありがとう。本当の姿の私を見つけてくれて。
理想の姿を目指すことが間違いだとは思わない。でも、やっぱり本当の姿の方が皆は望んでくれているんだと思えたよ。これからはできるだけ皆にも頼っていくことにするよ。
長文になってごめんね。でも、最後にこれだけは言わせて。
やっぱり私は空斗くんのことが好き。君の彼女になれてよかったです』
これが彼女と交わす最後のメッセージになるかもしれないと思うと、一文字一文字から目を離すのに時間がかかった。でも、ずっと既読のままだと陽に不安を与えてしまう。この後、どんな彼女が現れてもこのことを忘れないように、でもこのことを引きずらないようなメッセージを打ち始めた。
『君の力になれてよかった。きっと力になれることを望んでいたんだと思う。
陽の理想がどうであっても、僕にとっての理想は陽が自分らしく、そして楽しいと思える姿で皆とともに過ごせることだよ。
陽、僕を選んでくれてありがとう』
「僕、決めた。彼女を探すことよりも、その世界の彼女の悩みを解決することを優先するよ。どっちの方が後悔するか、そう考えたんだ。きっと本当の彼女はこの手が覚えているはずだから」
「いいんじゃないか」
「私もいいと思うよ」
黒いネコと白いネコは僕の考えに頷いてくれた。陽との出来事を通して、悩みを解決することが僕にとって使命なのだと気づいた。本当の彼女か否かに関わらずその人の人生を創ってみせる。決して悩んだまま一人にはさせない。大丈夫、彼女もきっと見つけられるはずだ。最終日までに何かに気づくはず。
そして寝る前に僕は天気を確認した。
明日、水曜日の天気は曇り。
晴れの世界、おやすみなさい。
陽、バイバイ。もしくは、今後もよろしくね。
曇りの世界の彼女は一体、どんな人なんだろうか。



