「おーい、今日は雨で外に出れなかったんだぞ。人間はいいよな、傘があって。俺が猫用の傘を買ってもらえたのはだいぶ先に……まあいいや。なんでもいいから話を聞かせてくれよ。暇なんだよ」
黒いネコはだだをこねるように僕の足に抱きつく。都合のいい時にだけ僕を利用するなんてと思いながらも、話して減るものではないと思い今日の彼女の話をすることにした。
「そうだな。雨の世界の彼女――雨月の悩みは、自分がやりたいことに他人を巻き込んでもいいのか否か。雨月、自分から言うのは苦手みたいだからな」
「へー、そうか。俺の場合は全然いいけどな。実際、面白そうだからこうやってあんたの記憶を抜いて遊んだわけだし」
「んー、でも私はためらっちゃうかもな。他人にとってはいい迷惑かもしれないし……」
「考えが割れたな」
黒いネコと白いネコで考えが割れた。どちらの考えも間違ってはいない。理想論と現実をどう穴埋めしていくのかだと思う。ただ、黒いネコがこういう状況を作り出したことを再び思い出して怒りメーターが爆発した僕は黒いネコを追いかけた。一度だけ掴むことができたが、それでもすぐに逃げてしまった。黒いネコのことを考えるのはもうやめた方がいいのかもしれない。
夜、僕はどういう思いで雨月が皆で絵を描きたいのかをもう少し知りたいと思って、雨月に電話をしてみた。数秒間の沈黙が続いた後に突然、雨月の声が吹き込まれた。
『どうしたの、空斗くん』
電話越しではあるけれど、すぐ近くに雨月を感じる。手は届かないけれど、隠れてしまっている月よりも雨月の方がきっと距離は近い。物理的な距離も。心の距離も。
「雨月がどうして皆で絵を描きたいのかをもう少し知りたいと思ってね」
『そうか……。私、やるからには中途半端は嫌なんだ。だから前に副部長に立候補して、この部活で一つでも多くの思い出を作るって心の中で誓ったんだ』
「そうなんだ。ちゃんと理由を明確にできる雨月はきっと強いよ。ありがとう、それだけ聞きたかったんだ」
それだけ聞ければ僕はもう十分だと思った。強い彼女であるならば。
『わかった。明日も雨が降りそうだけど午後から部活頑張るね。でも、私、雨嫌いじゃないんだよね。雨の匂いってなんだか特別なんだよ。……じゃあ、おやすみ』
「うん、おやすみ」
僕はそう言うと静かに電話を切った。明日は電話なんかじゃなくて君と向き合ってこの悩みを解決したい。
そして寝る前に僕は天気を確認した。
明日、土曜日の天気は雨。
雨の世界、おやすみなさい。
また明日もよろしくね。



