私の趣味は、知らない誰かの、墓参り。
春。
春分の日。
お彼岸だというのに。墓地には誰もいない。
私の他は皆。春眠。暁を覚えず。
ただ静かに眠っている墓石が、並んでいる。
一つ。苔の生え方に凹凸があるお墓。
ここにしよう。さて。
知らない誰かのお墓の前。
一度拝んで。掃除を始める。
苔むした墓石の、肌が露わになってくる。
エピタフ。墓碑銘。
墓石にはこう書かれていた。
彼の人生の
6分の1は少年として
12分の1は青年として
7分の1は夫として
あとはまだ、汚れていて、読めない。
だが、彼の人生が、どれくらいかは。
もう。分かる。
6と12と7の最小公倍数。
84。
84歳で、人生の幕を閉じた、彼の一生を書いたものだろう。
いままで掃除した、幾人もの墓石を思い返す。
数式や図形を彫った墓石は、思いの外、あるものだ。
私は掃除を続ける。
墓石の続きに、こう書かれていた。
彼の人生の
6分の1は少年として
12分の1は青年として
7分の1は夫として
3分の1は父として
4分の1は祖父として
42分の1は曽祖父として
そこで。終わり。
おかしい。これは。
墓石の周りを、確認しても。
彼の人生の
6分の1は少年として
12分の1は青年として
7分の1は夫として
3分の1は父として
4分の1は祖父として
42分の1は曽祖父として
とだけ。
これでは、定数項が。
存在、していない。
彼の、仮の人生の長さを、xと置こう。
彼の人生xイコール
少年の6分の1xプラス
青年の12分の1xプラス
夫の7分の1xプラス
父の3分の1xプラス
祖父の4分の1xプラス
曽祖父の42分の1x
導かれる方程式は、
x=(1/6)x+(1/12)x+(1/7)x+(1/3)x+(1/4)x+(1/42)x
xでくくり、
x=(1/6+1/12+1/7+1/3+1/4+1/42)x
分母を84に通分すると、
x=(14+7+12+28+21+2)/84x
かっこの中を足すと、
x=(84/84)x
x=x
解は一意に定まらない。
恒等式。
xの値は、彼の人生の長さは。
84でも、85でも、86でも。
いくらでも、いい。
これは、一体?
「0です」
振り返ると、一人の男がいた。
「0です。それは水子の墓ですから」
男は、少年にも青年にも壮年にも老年にも。
ぼんやりと、見えた。
春。
春分の日。
お彼岸だというのに。墓地には誰もいない。
私の他は皆。春眠。暁を覚えず。
ただ静かに眠っている墓石が、並んでいる。
一つ。苔の生え方に凹凸があるお墓。
ここにしよう。さて。
知らない誰かのお墓の前。
一度拝んで。掃除を始める。
苔むした墓石の、肌が露わになってくる。
エピタフ。墓碑銘。
墓石にはこう書かれていた。
彼の人生の
6分の1は少年として
12分の1は青年として
7分の1は夫として
あとはまだ、汚れていて、読めない。
だが、彼の人生が、どれくらいかは。
もう。分かる。
6と12と7の最小公倍数。
84。
84歳で、人生の幕を閉じた、彼の一生を書いたものだろう。
いままで掃除した、幾人もの墓石を思い返す。
数式や図形を彫った墓石は、思いの外、あるものだ。
私は掃除を続ける。
墓石の続きに、こう書かれていた。
彼の人生の
6分の1は少年として
12分の1は青年として
7分の1は夫として
3分の1は父として
4分の1は祖父として
42分の1は曽祖父として
そこで。終わり。
おかしい。これは。
墓石の周りを、確認しても。
彼の人生の
6分の1は少年として
12分の1は青年として
7分の1は夫として
3分の1は父として
4分の1は祖父として
42分の1は曽祖父として
とだけ。
これでは、定数項が。
存在、していない。
彼の、仮の人生の長さを、xと置こう。
彼の人生xイコール
少年の6分の1xプラス
青年の12分の1xプラス
夫の7分の1xプラス
父の3分の1xプラス
祖父の4分の1xプラス
曽祖父の42分の1x
導かれる方程式は、
x=(1/6)x+(1/12)x+(1/7)x+(1/3)x+(1/4)x+(1/42)x
xでくくり、
x=(1/6+1/12+1/7+1/3+1/4+1/42)x
分母を84に通分すると、
x=(14+7+12+28+21+2)/84x
かっこの中を足すと、
x=(84/84)x
x=x
解は一意に定まらない。
恒等式。
xの値は、彼の人生の長さは。
84でも、85でも、86でも。
いくらでも、いい。
これは、一体?
「0です」
振り返ると、一人の男がいた。
「0です。それは水子の墓ですから」
男は、少年にも青年にも壮年にも老年にも。
ぼんやりと、見えた。


