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翌日、朝はホテルの無料朝食。
ビジネスホテルもチェーンごとに特色を打ち出しているけど、今私が滞在しているところはシンプルにおにぎりかパンかの二択。
ただ、スムージーとヨーグルトがあるのはむしろ高ポイント。
だって、一人暮らしの女性で毎朝スムージーなんて、意識高すぎじゃない?
美月に話したら、『あんたには似合わないわよ』って絶対笑われるから内緒。
そもそも、仕事があると、寝るのが二時くらいになるから朝はかなり遅めに起きる。
朝食サービスが終わってることもあるのよね。
仕方がないとはいえ、ホント、世間とは大きく時間のずれた職業だなと思う。
お昼に、昨日せっかく見つけたんだからと、ホテル近くのファミレスへ行き、日替わりランチで食事を済ませ、出勤。
ここの唐津教室は集団授業形式だけど、クラスの人数は十人以下の少人数だから、計算練習などでつまずいていそうなところはその場で個別に対応もできる。
今日の私の担当は夕方五時の小学四年生の算数と、七時からの中二数学、八時からの中三入試理社、夜九時からの高校生大学受験対策だ。
「四年生になるとね、割り算の筆算とか、何回も計算してやっと答えが出るのが当たり前になるから、しっかり練習しておかないと、すぐに分からなくなっちゃうからね」
小学三年生まではかけ算九九がクリアできていれば大抵の問題はできてしまうので、あまり先生の話を聞かなくなっている生徒が出てくる。
そういうちょっとした油断で遅れが出ると一気においていかれてしまう。
それで四年生になった途端に困って相談に来る親が多くなる。
「今までは私が宿題を見てたんですけど、急に反抗期みたいにやだって言い出して」
自分が分からない姿を親に見られて怒られたくないのだ。
だけど、まだこの歳だと親以外の大人には素直だから、塾でちゃんとやらせてできることを実感させると、どんどん前向きに取り組むようになる。
毎年繰り返されることだから、私たちは慣れたもので、生徒からは信頼されるし、親からは感謝されて、口コミで生徒を紹介してもらえて、ま、チョロいもんですよ。
ちょっと困ったのが、中二クラス。
前の担当者があまり管理できていなかったらしく、全員遅刻はしてくるし、私語も多くて集中できていない。
もちろん、基礎力がないから連立方程式どころか、一次方程式の解き方も怪しい。
私の場合、こういうときの対応は決まっている。
「遅刻するならお金を払っている親に許可をもらってきなさい。おしゃべりしたいなら塾じゃなくておしゃれカフェの方が映えるでしょ」
内心は弱気なおねえさんのくせに、強めに言って不機嫌な怖いおばさんと思わせて、生徒が見た目とのギャップに戸惑っているうちに、こちらの土俵に引き込んでしまえば勝ち。
意外なくらい素直に話を聞くようになる。
だからといって、教室運営に失敗した前任者を責めるつもりはない。
長期と短期では接し方が変わるのは当然だし、ここでお客さんなのは、生徒ではなく、通りすがりの私の方だから、甘えているのは自分だって自覚もある。
どうせ一ヶ月だから、『そういえばそんな先生いたね』と、忘れられるくらいの関係性が適切だと思っている。
そして高校生クラスの大学受験対策は、生徒が目指す進路希望に関して、やはり地元の価値観がピンとこなくて曖昧な受け答えになってしまった。
「やっぱ、東京の大学受けたいですよ。選択肢が多いじゃないですか。ただ、俺長男なんで、親が渋ってるんですよ」
「俺、やりたい学部がこの辺にないから、東京の私立って決めてます」
「私も社会人になったら働いて返せばいいと思うんで、奨学金使って東京で一人暮らししようと思ってます」
地元で就職を考えている人も一人もいないのが意外だった。


