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唐津での宿泊先は、塾から歩いて数分の国道沿いにあるビジネスホテルだ。
夜遅くでも近くて安心だし、全国どこでも間取りが同じチェーンホテルだから、狭いけど自分のアパートのようで落ち着く。
あらかじめ送っておいた服をクローゼットにしまってもまだ夕方の四時だった。
五月の日差しはまだ高いっていうか、全然日が傾いていないな。
あ、九州だからか。
標準時子午線よりも西にあるから、時計の時刻よりも遅くなるわけだ。
その分、日の出も遅いんだろうな。
日本を点々としていると、そういう体内時計のズレが意外と大きいのを実感する。
ちょっとした感覚の差に慣れなくて体調不良になる人もいると社内で聞いたことがある。
自分はまだ若いから順応できているのだろうか。
仕事で旅行ができていいねとうらやましがられることもあるけど、誰にでも続けられるってわけでもないのかもしれないな。
ま、今はそんな心配をしてもしょうがないよね。
せっかくなので、ホテルを出て散策してみる。
国道沿いにファミレスがあったけど、十時半がラストオーダーと書いてある。
残念ながら私には縁がないお店のようだ。
校庭の広い中学校からは、部活動の生徒たちのかけ声が響いてくる。
明日、あの中の誰かと塾で会うのかもしれない。
今日のところは不審者と間違われないように通り過ぎる。
やはり南口地域は日本中どこにでもあるロードサイド店が並ぶ住宅街のようで、正直、見るべきものはないらしい。
私は北口側に行ってみることにした。
高架線路をくぐると、急に雰囲気が変わった。
城下町らしい瓦屋根の建物が続く通りに、白壁の土蔵や料亭のような広い庭のある飲食店が並んでいるかと思うと、かわいらしいケーキ屋さんもある。
名物のイカ料理の看板を掲げた店は観光客で賑わっていた。
いろいろ食事処の看板を見かけるけど、お昼御飯が遅かったせいで、いまいち食欲がわかない。
観光案内所が併設されたお土産屋さんがあったので、ちょっとのぞいてみた。
クッキーなどの配り物系お菓子の他に、唐津焼の食器がたくさん並んでいる。
――ああ、そういえば陶芸の産地だっけ。
何人もの地元の作家さんが出品しているようで、まったく味わいが違っておもしろい。
私はいくつか気になった物の写真をスマホで撮って美月に送った。
我が友はこういった陶芸作品が好きで、代金後払いで買ってきてくれと頼まれるのだ。
平日の夕方で仕事中かと思ったけど、いろいろ見て回っている間に返信が来た。
白い釉薬をまとわせた粉引というお皿が気に入ったらしい。
ただ、ここにあるのは小皿や小鉢などの小品ばかりなので、大皿はないか探してほしいという。
《アンガス牛のロースステーキをどーんと乗っけられて付け合わせとライスもワンプレートでいけちゃうようなやつね》
いきなりメシテロメールかい、美月さん。
空腹じゃなくて良かったですよ。
「すみません。こちらの作家さんの作品はこれだけですか?」
「はい」と、申し訳なさそうに店員さんが名刺を渡してくれた。「この作家さんなんですけど、糸島の方に工房があるんですよ。糸島の物産を扱ったお店とか、カフェでも展示販売してるみたいなので、そちらの方ならあるかもしれませんね」
糸島といえば、来るときに電車を乗り換えたところだ。
三十分くらいだから、今度休みの時に行ってみよう。
私は名刺をもらってお店を出た。


