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唐津駅の南口に出ると、駅前ロータリー周辺はラーメン屋さんとコンビニくらいしかなくて、四階建ての石造りでやたらと立派な図書館がある以外、まっすぐに伸びた太い道路の先には、住宅街の中にいくつかの雑居ビルや小規模マンションが顔を出しているだけだ。
街路樹の下にある案内図によれば、官公庁や観光名所は北口に集中しているらしい。
唐津城を中心に栄えた城下町をよけて後から鉄道を敷いたのがよく分かる、典型的な地方都市の偏り方だ。
どちらにしろ、観光客どころか、地元の人も歩いていない。
――空が広いなあ。
五月中旬なのに、もう気温は三十度を超えている。
次は北海道だといいな。
そんなことを考えていたら、おなかが鳴った。
そういえば、お昼御飯まだなんだった。
今、午後の一時半。
空港に着いたのがお昼前で、すぐに電車が来ちゃったから食べてる暇がなかったのよね。
ラーメン屋さん、入っちゃおうかな。
食券方式で、券売機の前でメニュー表を見ていたら、高校生男子グループがやってきたので脇によけたら、「すんませんっす」と礼儀正しく坊主頭を下げてくれた。
五人連続躊躇なく『がっつりセット』を購入して御入店。
学校帰りにしては早いからサボりかと思ったら、ちょうど今の時期は定期試験中なんだよね。
――ごめん、おねえさん、業界人で詳しいのに勘違いしそうになっちゃった。
パンツスーツの皺を伸ばして、あらためて券売機に立ち向かう。
さんざん迷ったあげく、決めたのはシンプルなラーメンだった。
――そういうとこだぞ、私。
「ゆで方は?」
カウンター席で食券を出したら質問が返ってきた。
「あ、え?」
バリカタとか、そういうのだっけ?
戸惑っている私にお店のご主人がにこやかに教えてくれた。
「うちは細麺なんで『バリカタ、カタ、普通、やわ』から選べます」
「普通で」
「はいよ」
さっきの高校生はみんなバリカタなんだろうけど、冒険しないのが私。
とはいうものの、カウンター席の隅に座ってスマホを取り出したところで、もう茹で上がったらしくて、湯気の立つどんぶりが運ばれてきた。
早っ!
結局、どれを選んでも同じなんじゃないの?
出てきたのは九州らしい細麺の豚骨ラーメンあっさり系。
ちゃんと白濁しているのに、鶏ガラみたいな軽い香りだ。
同じ九州でも全部が豚骨地域ってわけでもないだろうし、こってり、あっさり、いろいろなんだろうけど、そこまで豚骨が前面に押し出しているわけでもなく、関東生まれの自分もおいしく飲めるスープだった。
これなら朝からでもいけそう……って、夜遅いから朝起きられないのよね。
『普通』でも、麺の歯切れがプツッとはっきりしている。
のりの上に梅干しかと思ったら辛味噌だった。
チャーシューの代わりに豚バラ串が刺さっている。
へえ、おもしろいな。
ジュワッと味が染みてていい感じ。
辛味噌を溶かしてそろそろ味変しようかなと思ったら、さっきの高校生たちが一斉に立ち上がった。
え、もう?
「そっさまっしたー!」
野球の試合でも終わったのかという挨拶に、思わずむせそうになる。
ていうか、餃子とチャーハンもあったのに?
食べるの早すぎでしょ。
定期試験でそんなにエネルギー使ったようにも思えないけど、思春期ってそういうものか。
持て余すくらいの元気があって大変だね。
なんか他人事みたいに受け流しちゃってるけど、あふれるほどの元気をうらやましいと思ったことがないんだよね。
クラスのそういうグループからは距離をおいて生きてきたもんな。
高校を卒業して干支を一回りしたんだから、そんな豚骨スープみたいにギラギラした青春に理解を示してもいいかもしれないんだけど、自分にはそんな思い出を捏造できるような若さはどこにもなかったのよ。
なんだろ。
なんか急におなかいっぱいになっちゃった。
私はとりあえず麺だけかきこんでお店を出た。


