アラサー塾講師の出張メシ 夜のお供はコンビニガチ中華ですけど何か?


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 それから一週間ほどで、新しい講師が見つかったと前原さんから知らされた。

「良かったですね」

「十年くらい前にここで働いてた人で、子育てが一段落したからまたやってみたいということらしくて」

 そういう例はけっこうある。

 家庭の事情でやむなく辞めた人に本部から声をかけるのだ。

 たまたまタイミングが合えば、こうしてうまくいくこともある。

 ちょうどそのころ、美月からメッセージが来た。

《お皿届いたよ》

 粉引の平皿にのっているのは果物とホイップクリーム山盛りパンケーキだった。

「なんね、ステーキじゃなかと!」

 怪しい方言が口に出てしまうようになったというのに、新しい赴任地のお知らせが届いた。

《山梨なんですけども、甲府と韮崎を掛け持ちしてもらいたいんです。同じ車に乗っていた講師が二人、交通事故で入院してしまって》

 あらあら、大ピンチ。

 それじゃあ、早く駆けつけなきゃね。

 旅立ちの朝、唐津駅まで二人が見送りに来てくれた。

 松浦さんは何度もあくびをしながら開かない目をこすっている。

「寝ててよかったのに」

「すんません、朝はいつもこうなんで」

「無理矢理起こして連れてきたんですよ」と、前原さんが申し訳なさそうに苦笑する。

「飛行機いいですね」と、またあくび。「乗ったことないんすよ」

「旅行で乗ってみるのもいいんじゃないですか?」

「ああ、まあ、そうですね」

 錆びついたシャッターみたいな瞼をなんとか引き上げて松浦さんが笑みを浮かべた。

「あの後、山の上で話したんですけど」と、前原さんがそんな彼女を見つめる。「結局、ここで働くのが一番かなって」

「なんか、私もどこでもいいなって」と、松浦さんも薄目のまま顔を見合わせる。「ここでも」

 ああ、そうか。

 何もないんじゃなくて、全部ありすぎるんだ、ここには。

 さようなら、幸せの街、唐津。

 二人と別れてホームに上がり、ちょうど来た電車に乗り込む。

 発車してすぐに唐津城が正面に見えた。

 次第に遠ざかるその姿を目で追っていると、少しだけ胸がチクリとした。

 人にも街に恋しない私だけど、なんだか故郷を旅立つ人の気持ちが分かるような気がした。