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それから一週間ほどで、新しい講師が見つかったと前原さんから知らされた。
「良かったですね」
「十年くらい前にここで働いてた人で、子育てが一段落したからまたやってみたいということらしくて」
そういう例はけっこうある。
家庭の事情でやむなく辞めた人に本部から声をかけるのだ。
たまたまタイミングが合えば、こうしてうまくいくこともある。
ちょうどそのころ、美月からメッセージが来た。
《お皿届いたよ》
粉引の平皿にのっているのは果物とホイップクリーム山盛りパンケーキだった。
「なんね、ステーキじゃなかと!」
怪しい方言が口に出てしまうようになったというのに、新しい赴任地のお知らせが届いた。
《山梨なんですけども、甲府と韮崎を掛け持ちしてもらいたいんです。同じ車に乗っていた講師が二人、交通事故で入院してしまって》
あらあら、大ピンチ。
それじゃあ、早く駆けつけなきゃね。
旅立ちの朝、唐津駅まで二人が見送りに来てくれた。
松浦さんは何度もあくびをしながら開かない目をこすっている。
「寝ててよかったのに」
「すんません、朝はいつもこうなんで」
「無理矢理起こして連れてきたんですよ」と、前原さんが申し訳なさそうに苦笑する。
「飛行機いいですね」と、またあくび。「乗ったことないんすよ」
「旅行で乗ってみるのもいいんじゃないですか?」
「ああ、まあ、そうですね」
錆びついたシャッターみたいな瞼をなんとか引き上げて松浦さんが笑みを浮かべた。
「あの後、山の上で話したんですけど」と、前原さんがそんな彼女を見つめる。「結局、ここで働くのが一番かなって」
「なんか、私もどこでもいいなって」と、松浦さんも薄目のまま顔を見合わせる。「ここでも」
ああ、そうか。
何もないんじゃなくて、全部ありすぎるんだ、ここには。
さようなら、幸せの街、唐津。
二人と別れてホームに上がり、ちょうど来た電車に乗り込む。
発車してすぐに唐津城が正面に見えた。
次第に遠ざかるその姿を目で追っていると、少しだけ胸がチクリとした。
人にも街に恋しない私だけど、なんだか故郷を旅立つ人の気持ちが分かるような気がした。


