アラサー塾講師の出張メシ 夜のお供はコンビニガチ中華ですけど何か?

「えっ、なして知り合いとね?」と、松浦さんが前原さんに人差し指を突き出す。

「会社の同僚やけんばい」

「えー、ほんとねぇ?」

 まさか、私、疑われてない?

 久しぶりに帰郷した元カノみたいになってない!?

 ち、ち、ち、違いますって。

 私はただの通りすがり、通り過ぎていくお客さんですから。

 ほら、松尾芭蕉も言ってるでしょ。

《月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり》

 ……って、全然関係ないじゃん。

「あ、あの、私……」

 いかん、全力ツッコミしすぎて息が苦しくなってきた。

 血の気が引いて冷や汗が噴きだし、かろうじて案内板にもたれながらしゃがみ込む。

「大丈夫ですか」

 二人は親切にも私を両側から支えて岩に座らせてくれた。

「落ち着いて。何か飲みますか」

 うわあ、もう、テンパりすぎて介抱されるなんて、めちゃくちゃ格好悪い。

「自分の……飲み物……あります」

 バッグから自分でそば茶を出して一口含む。

「そば茶好きっすね」と、あきれ声の松浦さん。

 ゴホッ、エフッ……。

 むせてしまって、ますます心配される。

 落ち着け、私。

「で、なんで、そっちは知り合いなん?」

 前原さんの疑問に松浦さんは一言で答えた。

「常連さん」

「ああ、そういうことか」

 それで通じちゃうって、『そういうことか』は、こっちのことですよ。

 高校時代から付き合ってるって、お二人のことだったのね。

 まったくもう、そういうことか。

 It's a small world!

 中学で習って以来、使う機会のなかったフレーズを使わせてくださってありがとうございます、ですよ。

「あらためまして、新納史織と申します」

「私、奈緒ね」

「新納さんは、ヘルパー講師で、全国を回ってるんだよ」

 松浦さんの表情が固まる。

「ということは、すぐにいなくなっちゃうってことですか?」

「ええ、欠員が補充されたら、次の勤務地に移ります」

「日本中あっちこっち行くんですか。いいなあ。ずっと唐津のこの人と全然違いますね」

 指をさされた前原さんが頭をかく。

「働き方は人それぞれだから」

「だって、ずっと地元だよ。少しは違う場所で働いてみようとか思わないの?」

「俺は」と、つぶやいたきり、前原さんは黙り込んでしまい、私たちの間を気まずい雰囲気が渦巻く。

 海から風が舞い上がってきて、松浦さんがくんくんと鼻を突き出した。

「なんか、八角の匂いしません?」

 変なことでテンパるけど、空気は読める。

「ああ、さっき下で買ってきたんですよ」と、好機を逃さず私は鞄の中身を見せた。

「山の上でもガチ中華って、よっぽど好きなんすね」

 松浦さんがあきれてるけど、私とガチ中華なんて、お二人に比べたらまだ浅い関係です。

 運命でもなんでもないですよ。

「よかったら味見してみませんか」

 私は胡椒餅と葱油餅、それと煎餅果子をレジャーシートに広げた。

 あらためて見ると、一人で食べるには多すぎる量だ。