アラサー塾講師の出張メシ 夜のお供はコンビニガチ中華ですけど何か?

 旧街道をそれて住宅街を抜けると、日差しをよける木陰もない田んぼの一本道に出た。

 舗装された農道の脇に、用水路が流れている。

 魚でもいないかなと思って中をのぞいてみたら、コンクリートの壁にピンク色の卵がびっしりくっついていた。

 ――うわ、何これ?

 涼を感じるつもりが、変な意味で背筋が寒くなってしまった。

 スマホで《田んぼ ピンク色の卵》で検索したら、すぐに分かった。

「へえ、ジャンボタニシの卵なんだ」

 稲を食べてしまう困った外来生物で、卵に触ったりすると痒くなることがあるらしい。

 うん、まあ、見るからに毒々しくて触る気にもならないけど。

 ああ、でも、私自身もここでは外来種みたいな存在なんだよね。

 お互い迷惑かけないように気をつけないとね。

 卵に話しかける自分にどうツッコミを入れていいのか分からない。

 気を取り直してすぐ目の前にそびえる山を目指す。

 登山口から森に入れば涼しくなるかと思ったら、湿気があって、ぬるりとした汗が額から滴となって落ちていく。

 小学生の遠足コースなのに、足がまったく上がらない。

 ハア、フウ、まだジャストサーティーなんですけどね、私。

 森の中の坂をひたすら登り続けてようやく頂上にたどり着いたけど、そこも緑の木々に囲まれてまったく見晴らしはきかなかった。

 せっかく登ってきたのに……と、がっかりしつつさらに先へ進む道をたどると、急に視界が開けた。

 さえぎる木々のない展望台だ。

 ――うわぉ。

 思わず腕を広げてしまう。

 目の前に緑の島が散らばる青い玄界灘が広がり、ちょっとかすんだ唐津の街が「ここだよ」と、私に手を振ってくれているみたいだ。

 ――やっほー、私もここにいるよ。

 なんて、一人ではしゃいでいたら、周辺の風景を解説した写真案内図の陰に人の気配を感じた。

 それも一人ではなく、男女二人で岩に腰掛けて風景を楽しんでいたらしい。

 あらら、先客がいたのね。

 せっかくいい雰囲気のところ、お邪魔しちゃって申し訳ない。

 お昼にちょうどいい時間だし、いい景色を眺めながら胡椒餅を食べようと思ったんだけどな。

 お邪魔なジャンボタニシにならないように、静かに立ち去ろうとしたら、いきなり二人が立ち上がった。

「新納さん?」

 え?

 あれ?

 そこにいるのはロンT姿の前原さんだった。

 そしてその隣にいる人も私を指さした。

「あ、ガチ中華の」

 ……っていうあなたはコンビニの松浦さん。

「あ、ども」「はあ」「ども」

 思わず三人同時に誰にしてるのか分からない会釈を交わしてしまった。