アラサー塾講師の出張メシ 夜のお供はコンビニガチ中華ですけど何か?

 十時の授業終了後に、もう一度前原先生に詳しく聞いておくことにした。

「先生は福岡まで大学に通ってたそうですけど、就職も福岡でとは考えなかったんですか」

「まあ、地元で職が見つかれば一番じゃないですか」

「でも、最初から塾講師をやろうと思ってたわけじゃないんですよね」

「いや、まあ……」と、言葉を濁したかと思うと、質問返しをされてしまった。「新納先生は、どうしてこの仕事を?」

 私の理由ははっきりしている。

「私、朝が弱いんですよ。だから、夜の仕事がいいなって思ってたんです」

「夜の仕事……ですか」

 言い方がまずかったことに気づいて赤面してしまう。

「あ、変な意味じゃなくて、私、百パー下戸なんで、そういう大人のお店では働けないんです」

 言えば言うほど墓穴を掘ってしまう。

 前原先生も耳まで赤くして苦笑している。

「まあ、学習塾は夜の仕事だから、天職ですよね」

 こっちが年上なのに、フォローされてしまった。

 と、前原さんが声のトーンを落とす。

「さっき、中二の生徒に、新しい先生どうだったって聞いたら、『怖そうだけど、教え方がうまい』って言ってましたよ。さすがですね」

 怖そうと印象づけられたのなら狙い通りだ。

 それは前原さんも分かっているようだ。

「本当は優しい先生だよとフォローすべきかもしれないんですけど、少し引き締めてもらいたかったんで、『だろ』って言っておきました」と笑う。

 いい人という仮面をかぶるときもあれば、あえてなまはげになるときもある。

 仮面を使い分ける者同士の奇妙な連帯感のおかげで、それ以上の説明は不要だった。

 そのくらいで相談を切り上げ、残務整理も終わったところで、私は一足早く退勤させてもらった。

「じゃあ、お先に失礼します」

「どうもお疲れ様でした。また明日よろしくお願いします」

 外は真っ暗で、かなり間隔のあいた街灯がかえって暗闇を強調しているかのようで、自然に急ぎ足になってしまう。

 昨日と同じコンビニの明かりが見えたときには、なんだかほっとした。

 お弁当コーナーには、値引きシールの貼られた商品が並んでいる。

 ――やった、ラッキー。

 残り物で、品数は限られるけど、贅沢は言えない。

 それでも、ガチ中華シリーズの花椒麻婆と鶏米飯(ジーミーハン)があったから、大収穫だ。

 今日もそば茶を追加してレジに行ったら、昨日と同じ店員さんだった。

 言葉にはしなかったけど、軽く会釈しあい、温めてもらって店を出た。

 二日連続同じパンツスーツで立ち寄ったせいか、顔を覚えられてしまったらしい。

 でもまあ、他に選択肢がないからお世話になるしかないよね。

 部屋に戻り、動画をお供に早速夕飯を広げる。

 花椒麻婆は口を閉じられないくらい辛くて、鼻水が止まらなくなってしまった。

 八角の香りもしっかりあって、苦手だったのに、なんだか癖になりそう。

 鶏米飯は醤油ベースの鶏肉煮込みが御飯の上にトロッとかけてある。

 豆板醤が入ってるけど、そんなに辛くなくて、むしろほっこりする味。

 花椒麻婆の刺激を和らげてくれてなかなかいいコンビかも。

 ていうか、キミたちむしろ私を沼に引きずり込もうとしてないか。

 それならそれで、こっちからハマりに行ってやろうじゃないの。

 辣子鶏で受けた花椒パンチを今日は完全ガードでリベンジ成功だわ。

 日付が変わる頃に、汗だくになりながらも、辛さを乗り越え完食。

 今日もシャワーが気持ちいいこと。

 髪の毛を乾かし、ベッドに横になった途端、ストンと眠りに落ちてしまった。