そして、すでに何十回目かも分からなくなった何度目かの22日。
俺と郁真は、夕日がぼんやりと差し込む誰もいない教室でぐったりしていた。
「……駄目だ」
「…うん」
「何をしても、結局22日だ」
「…うん」
さすがに心がすり減ってきた。
というより、本当に頭がおかしくなりそうだ。
毎回寸分違わず繰り広げられるクラスメイトのどうでもいい雑談、教員の退屈な講義、遠くから聞こえる部活の掛け声。試験範囲がここだけなら間違いなく学年首位で満点を取れるどころか、教科書の注釈まで暗唱できるレベルだ。
「朝早く来ても、遅刻ギリギリに滑り込んでも、授業サボっても、真面目に受けても」
「うん」
「何1つ変わらない。そんでもって、ループも終わらない」
「…そうだな」
向かいの席で、郁真が力なく呟いて頷く。
そうして、何度夜を迎え、祈るように目を閉じても、翌朝の黒板に刻まれるのは、冷酷なまでに不変の『22日』という文字だった。
最初はあれほど気味が悪かったはずの光景に対しても、いつしか感覚が麻痺してきている。けれど胸の奥には、どうしようもない何かがずっと渦巻いていた。目に見えないそれは日を重ねるたびに少しずつ輪郭を増しており、不愉快さだけを濃くしていく。
慣れたわけじゃない。
ただ、慣れたふりをすることしかできなくなっていたのだ。
「………なあ」
俺はよろよろと顔を上げた。
夕方のオレンジ色の光が眩しくて、わずかに目を細める。こんなに眩しかったっけ。
「明日さ。朝から学校サボって、どっか遠くまで遊びに行かねえ?」
「えっ?」
急な提案に、突っ伏していた郁真が驚いたように顔を持ち上げた。なんだか久々に郁真の顔をまともに見た気がした。あまりにも良い反応に、思わず笑ってしまう。
「たまにはさ、思いっきりリフレッシュしようぜ。このまま真面目にループと戦ってたら、原因が分かる前に俺たちの頭が先に割れる」
「……」
「もし奇跡的にループから抜けて23日になってたら、2人でサボったことを担任に謝ればいい。で、もしまた22日に巻き戻ってたら…まあ、学校サボれて1日遊べたんだから儲けもんだろ」
半分は諦めから出た、タチの悪い冗談だった。
だけどもう半分は、同じ1日を延々と反復させられる不条理に押し潰されそうな俺の切実な本音だった。
俺が努めて軽快に笑ってみせると、郁真はしばらく沈黙していた。
夕日に照らされた瞳をゆらゆらと揺らし、やがて肩の力を抜くようにふっと息を吐き出す。
「分かったよ。気晴らししよう」
「よっしゃ!」
俺は勢いよく椅子から立ち上がった。
途端に固まっていた背骨が鳴ったが、そんなことすらどうでもよかった。
「じゃあ明日、郁真ん家の最寄り駅に9時集合な!」
「どこ行くか決めてなくていいの?」
「電車に乗って、テキトーに着いた駅で降りればいいんだよ。絶対来いよ?ドタキャンすんなよ」
「唯斗こそな」
果てしないループの中で、久しぶりに俺たちは声を合わせて笑った。
たとえ明日目覚めた世界がまた絶望の22日だったとしても、少なくとも明日の1日くらいは抗えない不条理なルールを逆手に取ってやれる。
それは、あまりにも無力な俺たちがこのループに対して突きつけた、ささやかで精一杯の抗いだった。



