昼休み。
人目を避けるように鍵の開いていた空き教室へ移動した俺たちは、机に突っ伏して頭を抱えていた。
「午前中の授業内容も、先生に当てられる順番も全部一緒。挙げ句の果てには誰も『2度目の22日』だってことをに気づいてない…!マジでどういうことなんだよ!!」
「まあまあ。叫んだって状況が変わるわけじゃないんだから落ち着きなよ」
「……なんでお前はそんなに冷静でいられるんだよ」
呑気に購買の焼きそばパンを齧っている郁真をジロリと睨みつけると、いつもの笑みが返ってきた。
「俺だって驚いてるし、内心めちゃくちゃ戸惑ってるよ。でもさ、目の前で自分以上に取り乱してる奴がいると、人間って不思議と落ち着くもんなんだよな」
「……よし、分かった。郁真、今から俺以上に取り乱せ」
「んな無茶言わないでよ」
自分でも分かるほど取り乱している俺を横目に、郁真は満足そうに焼きそばパンを食べ終えると席を立った。
そのまま教壇へ歩み寄り、黒板の前でカツカツとチョークを走らせ始める。
程なくして、カンッ、とひときわ大きな音が響いた。
「はい、唯斗。これ読んで」
顔を上げると、チョークを手にした郁真がこちらを振り返っていた。黒板には整った文字で大きく言葉が躍っている。
「『タイムリープ』…?」
「はい、よくできました」
郁真は『タイムリープ』という文字の下に、慣れた手つきで2本の太い線を引いた。さながら教師のような立ち振る舞いに顔を顰めれば、彼は照れたように笑った。
「簡単に言えば、時間を飛び越える現象のことだよ。ほら、聞いたことぐらいはあるでしょ」
「…SF映画とかでよくある、アレか?」
「そうそう。例えば、今日が22日だとするだろ?」
郁真は黒板の左側に『22日』、その隣に『23日』と書き並べた。
「普通なら、22日の夜が明ければ自然と23日になる。でも、タイムリープが起きると、」
郁真は『23日』を大きな円で囲むと、そこから『22日』へ向かって逆行する矢印を描き足した。
「こうやって、時間が巻き戻る」
「…じゃあ、俺たちは23日に行きかけたのに、22日に連れ戻されたってことか?」
「多分ね」
郁真は曖昧ながらも冷静に頷く。
「ただし、俺たちは前回の22日の出来事をちゃんと覚えている。少なくとも『一度過ごした記憶』を維持したまま戻ってきた」
「なのに、世界そのものは何事もなかったかのように22日の朝にリセットされている……。じゃあ、他の奴らは?」
「覚えてない。正確には、『22日を2回過ごしている』っていう認識自体が存在しないんだ。みんなにとっては、これが紛れもない『1回目の22日』だからね」
逆行する矢印の上に、チョークで簡単な棒人間が2人分描き加えられる。
「俺たち2人だけが、タイムリープに巻き込まれている。…そう考えるのが一番辻褄が合う」
「じゃあ…明日になれば、」
俺は喉の渇きを感じながら、恐る恐る言葉を絞り出した。
「明日は、ちゃんと23日になるのか? それとも……もう一回22日が来るのか?」
「それは分からない」
「え?」
「23日を迎えた瞬間に、また22日に巻き戻される可能性だって十分ある」
郁真の声のトーンが、わずかに低く沈んだ。
「最悪の場合、俺たちは永遠に同じ22日を繰り返すことになるのかもしれない」
「それが、タイムループ…」
「そう。終わりは誰にも分からない」
カタン、とチョークが粉を散らして黒板受けに落ちる音だけが、静まり返った空き教室に寂しく響いた。
息の詰まるような沈黙を切り裂くように、昼休みの終わりを告げるキーンコーンカーンコーンという予鈴が鳴り響く。
「まあ、もしかしたら明日になれば、何事もなかったみたいに普通に23日になってる可能性だってある」
「そ、そうだよな!」
お互いに言い聞かせるように、歪な笑顔を交わし合う。
たまたま見せた世界のバグ、あるいは一瞬の悪夢。
「ただの不思議な出来事」として笑い飛ばせるうちに片付いてくれれば、それでいい。
__しかし、俺たちはすぐに思い知ることになる。
そんな楽観的な希望が、恐ろしいほど甘い浅はかな妄想だったということに。
人目を避けるように鍵の開いていた空き教室へ移動した俺たちは、机に突っ伏して頭を抱えていた。
「午前中の授業内容も、先生に当てられる順番も全部一緒。挙げ句の果てには誰も『2度目の22日』だってことをに気づいてない…!マジでどういうことなんだよ!!」
「まあまあ。叫んだって状況が変わるわけじゃないんだから落ち着きなよ」
「……なんでお前はそんなに冷静でいられるんだよ」
呑気に購買の焼きそばパンを齧っている郁真をジロリと睨みつけると、いつもの笑みが返ってきた。
「俺だって驚いてるし、内心めちゃくちゃ戸惑ってるよ。でもさ、目の前で自分以上に取り乱してる奴がいると、人間って不思議と落ち着くもんなんだよな」
「……よし、分かった。郁真、今から俺以上に取り乱せ」
「んな無茶言わないでよ」
自分でも分かるほど取り乱している俺を横目に、郁真は満足そうに焼きそばパンを食べ終えると席を立った。
そのまま教壇へ歩み寄り、黒板の前でカツカツとチョークを走らせ始める。
程なくして、カンッ、とひときわ大きな音が響いた。
「はい、唯斗。これ読んで」
顔を上げると、チョークを手にした郁真がこちらを振り返っていた。黒板には整った文字で大きく言葉が躍っている。
「『タイムリープ』…?」
「はい、よくできました」
郁真は『タイムリープ』という文字の下に、慣れた手つきで2本の太い線を引いた。さながら教師のような立ち振る舞いに顔を顰めれば、彼は照れたように笑った。
「簡単に言えば、時間を飛び越える現象のことだよ。ほら、聞いたことぐらいはあるでしょ」
「…SF映画とかでよくある、アレか?」
「そうそう。例えば、今日が22日だとするだろ?」
郁真は黒板の左側に『22日』、その隣に『23日』と書き並べた。
「普通なら、22日の夜が明ければ自然と23日になる。でも、タイムリープが起きると、」
郁真は『23日』を大きな円で囲むと、そこから『22日』へ向かって逆行する矢印を描き足した。
「こうやって、時間が巻き戻る」
「…じゃあ、俺たちは23日に行きかけたのに、22日に連れ戻されたってことか?」
「多分ね」
郁真は曖昧ながらも冷静に頷く。
「ただし、俺たちは前回の22日の出来事をちゃんと覚えている。少なくとも『一度過ごした記憶』を維持したまま戻ってきた」
「なのに、世界そのものは何事もなかったかのように22日の朝にリセットされている……。じゃあ、他の奴らは?」
「覚えてない。正確には、『22日を2回過ごしている』っていう認識自体が存在しないんだ。みんなにとっては、これが紛れもない『1回目の22日』だからね」
逆行する矢印の上に、チョークで簡単な棒人間が2人分描き加えられる。
「俺たち2人だけが、タイムリープに巻き込まれている。…そう考えるのが一番辻褄が合う」
「じゃあ…明日になれば、」
俺は喉の渇きを感じながら、恐る恐る言葉を絞り出した。
「明日は、ちゃんと23日になるのか? それとも……もう一回22日が来るのか?」
「それは分からない」
「え?」
「23日を迎えた瞬間に、また22日に巻き戻される可能性だって十分ある」
郁真の声のトーンが、わずかに低く沈んだ。
「最悪の場合、俺たちは永遠に同じ22日を繰り返すことになるのかもしれない」
「それが、タイムループ…」
「そう。終わりは誰にも分からない」
カタン、とチョークが粉を散らして黒板受けに落ちる音だけが、静まり返った空き教室に寂しく響いた。
息の詰まるような沈黙を切り裂くように、昼休みの終わりを告げるキーンコーンカーンコーンという予鈴が鳴り響く。
「まあ、もしかしたら明日になれば、何事もなかったみたいに普通に23日になってる可能性だってある」
「そ、そうだよな!」
お互いに言い聞かせるように、歪な笑顔を交わし合う。
たまたま見せた世界のバグ、あるいは一瞬の悪夢。
「ただの不思議な出来事」として笑い飛ばせるうちに片付いてくれれば、それでいい。
__しかし、俺たちはすぐに思い知ることになる。
そんな楽観的な希望が、恐ろしいほど甘い浅はかな妄想だったということに。



