Love After The Loop

 放課後の教室を出るとすっかり日は落ち、街にはポツポツと街灯の温かい明かりが灯り始めていた。
 2人で並んで歩く見慣れたはずのいつもの帰り道。けれど、隣を歩く郁真の体温も繋いだ手の確かな温もりも、昨日までとはどこか違って、胸の奥まで深く暖かく染み込んでいくようだった。

「……そうだ、指輪」

 ふと思い出したように俺が呟くと、郁真は繋いだ手を持ち上げた。街灯の光に透かすように自分の左手を切なく見つめた。

「消えちゃったよな……」

 どれだけ絶望的なループを繰り返しても俺たちの左手人差し指に残り続けていた、あの冷たい銀色のペアリング。
 あれは『22日』という終わらない世界に閉じ込められていた俺たちを繋ぐ証のようなものだった。それが跡形もなく消え去ったということは、本当にあの迷宮から抜け出せたのだと、胸の奥で静かに実感が湧いてくる。
 それと同時に、何とも言えない喪失感を感じてしまう。

「また、買いに行かね?」
「え?」
「今度は薬指に付けるやつ」

 照れくささを隠すように少し早足になりながら言うと、郁真は一瞬だけ呆然と目を見開いた。けれどすぐに大きな歩幅で追いついてくると、繋いだ手にぐっと強く力を込めて噛み締めるような笑顔を見せた。

「…絶対、買いに行こうな」
「うん」

 秋の冷たい夜風がふたりの頬を優しく撫でていく。

「……浮気したら、今度こそループに閉じ込めるからな」

 ふいに思いついた脅しを冗談交じりに投げかけると、郁真が一瞬きょとんとした表情で首を傾げた。
 普通なら意味の分からないおとぎ話のような脅し文句も、絶望的な『22日』を泥臭く乗り越えてきた俺たちにとっては、どんな約束よりも重く切実な誓いの言葉となっていた。

「ははっ、それいいな。じゃあ俺もそうする」

 郁真は握った手に愛おしそうに力を込めながら、噛み締めるように低く呟いた。



 誰も知らない、2人だけの秘密の世界。

  歪んだループを完全に抜け出した俺たちはもう何からも逃げることなく、互いの手を強く繋いだまま、どこまでも続く新しい明日へと歩いていくことだろう。
 
 1歩1歩アスファルトを踏みしめる足音は、もう2度と巻き戻ることのない確かな未来を刻んでいた。