「おはよう」
「……」
「郁真?」
声をかけても、返事がない。
いつもならどんな状況でも俺が声をかけた瞬間に、へらへらした笑顔で「おはよ~」と手を振ってくる郁真が、今日は自分のデスクに突っ伏したままピクリとも動かないのだ。
(…昨日のこと、そんなに重く受け止めてんのか?)
気まずさが胸の奥をチクリと刺す。けれど同時に、小さな反発心も沸き上がった。
(いやいや、本気で怒りたいのはこっちだっつーの。ずっと好きでいた相手から、あんな本気か嘘かも分からない紛らわしい告白されて…。それを真に受けて振り回される身にもなってみろってんだ)
胸の中に渦巻くもやもやを誤魔化すように、俺はわざと乱暴な手つきで郁真の肩を叩いた。
「おい、聞こえてんだろ。お・は・よ・う!」
「……」
「…んだよ。昨日のこと、まだ根に持ってんのか? ……悪かったって。俺もちょっと言いすぎた」
「ごめん」と素直に頭を下げかけた、その時だった。
弾かれたような勢いで、郁真が勢いよく顔を上げる。あまりの凄まじい反応に「うおっ!?」と情けない声を漏らして足をすくませる。だが郁真は俺の驚きなど目に入っていない様子で、血の気がすっかり引いた青ざめた顔のまま俺を見つめてきた。
「何だよ…。今日のお前、マジで変だぞ」
「い、いま……」
「へ?」
「今……なんて言った……?」
掠れ、震える声。
なんだというのだ。そんなに俺からの謝罪の言葉を聞きたかったのだろうか。
「っ、だから!昨日は強く言いすぎて悪かったって言ったんだよ!ほらこれ。結局、昨日帰り際にコンビニ寄れなかっただろ? だからその……詫びっていうかさ」
俺は照れくささと気まずさを隠すように、カバンから郁真の好物である新作のお菓子を取り出して机に叩きつけるように置いた。しかし、郁真はそのパッケージを見つめたまま、まるで時間が止まってしまったかのようにピキリと固まってしまった。
「おい……大丈夫か? マジでどうしたんだよ。熱でもあんのか?」
「…お菓子」
「お、おう。昨日お前が『食べたい』って騒いでた新作、これだろ?」
「……昨日のこと、覚えてるのか?」
脈絡のなさすぎる質問に、俺は困惑して首を傾げる。
「…忘れてほしいなら、忘れたフリくらいしてやるけど」
「そうじゃなくて! 記憶として……昨日、俺たちが過ごした昨日のことを明確に覚えてるのかって聞いてんだよ!」
郁真らしくなく身を乗り出し、俺の胸ぐらを掴みかねない勢いで詰め寄ってくる。そのあまりの鬼迫に圧倒されながら、俺は困惑のままコクコクと頷くことしかできなかった。
「お、覚えてる、けど。それが一体、何なんだよ」
「…………もしかして、お前……まだ気づいてないのか?」
「何がだよ」
郁真は絶望に満ちた顔でポケットを探ると、激しく震える手で自身のスマートフォンを取り出した。そして、その画面を俺の目の前に押し付けてきた。だが、点灯した画面に映る壁紙もデジタル時計も、見慣れたいつもの画面だ。特に不審なアプリが起動しているようにも見えない。
(っていうか……なんでこんなに手が震えてんだよ。寒くもないのに)
怪訝そうに眉を顰めて固まる俺に痺れを切らしたのか、郁真が擦れた低音で呟いた。
「日付……見ろよ」
画面の上部に刻まれた文字に視線を落とす。そこには__『22日』と表示されていた。
……ん? 22日?
「は? あれ…今日って、23日じゃないのか……?」
「……」
俺の素朴な疑問に対し、郁真は何も答えない。
ただ重苦しい沈黙を守り、哀絶な眼差しで俺を見つめ返してくるだけだ。
「あ、なんだ。分かったぞ…!スマホのカレンダー設定を手動で弄るタチの悪いドッキリだろ? 驚かそうとして失敗したからって、そんな顔すんなよ」
「……じゃあ、自分のスマホ確認してみろよ」
どこか冷めた郁真の声に促されるまま、俺はポケットから自分のスマートフォンを取り出し、画面をタップした。 バックライトが灯り、液晶に浮かび上がった日付。そこにもはっきりと『22日』と表示されていた。
おかしい。
いくら郁真が器用だとしても、俺のパスコードを破って勝手に内部設定を書き換えるなんて不可能なはずだ。
「は……? どういう、こと……?」
冷や汗が背中を伝う。頭の中が急激に混乱し、現実感を失っていく。俺は助けを求めるように、慌ただしく教室を見回した。
誰でもいい。この不気味な違和感を打ち消してくれる、そんな誰かの声が必要だった。
「……」
「郁真?」
声をかけても、返事がない。
いつもならどんな状況でも俺が声をかけた瞬間に、へらへらした笑顔で「おはよ~」と手を振ってくる郁真が、今日は自分のデスクに突っ伏したままピクリとも動かないのだ。
(…昨日のこと、そんなに重く受け止めてんのか?)
気まずさが胸の奥をチクリと刺す。けれど同時に、小さな反発心も沸き上がった。
(いやいや、本気で怒りたいのはこっちだっつーの。ずっと好きでいた相手から、あんな本気か嘘かも分からない紛らわしい告白されて…。それを真に受けて振り回される身にもなってみろってんだ)
胸の中に渦巻くもやもやを誤魔化すように、俺はわざと乱暴な手つきで郁真の肩を叩いた。
「おい、聞こえてんだろ。お・は・よ・う!」
「……」
「…んだよ。昨日のこと、まだ根に持ってんのか? ……悪かったって。俺もちょっと言いすぎた」
「ごめん」と素直に頭を下げかけた、その時だった。
弾かれたような勢いで、郁真が勢いよく顔を上げる。あまりの凄まじい反応に「うおっ!?」と情けない声を漏らして足をすくませる。だが郁真は俺の驚きなど目に入っていない様子で、血の気がすっかり引いた青ざめた顔のまま俺を見つめてきた。
「何だよ…。今日のお前、マジで変だぞ」
「い、いま……」
「へ?」
「今……なんて言った……?」
掠れ、震える声。
なんだというのだ。そんなに俺からの謝罪の言葉を聞きたかったのだろうか。
「っ、だから!昨日は強く言いすぎて悪かったって言ったんだよ!ほらこれ。結局、昨日帰り際にコンビニ寄れなかっただろ? だからその……詫びっていうかさ」
俺は照れくささと気まずさを隠すように、カバンから郁真の好物である新作のお菓子を取り出して机に叩きつけるように置いた。しかし、郁真はそのパッケージを見つめたまま、まるで時間が止まってしまったかのようにピキリと固まってしまった。
「おい……大丈夫か? マジでどうしたんだよ。熱でもあんのか?」
「…お菓子」
「お、おう。昨日お前が『食べたい』って騒いでた新作、これだろ?」
「……昨日のこと、覚えてるのか?」
脈絡のなさすぎる質問に、俺は困惑して首を傾げる。
「…忘れてほしいなら、忘れたフリくらいしてやるけど」
「そうじゃなくて! 記憶として……昨日、俺たちが過ごした昨日のことを明確に覚えてるのかって聞いてんだよ!」
郁真らしくなく身を乗り出し、俺の胸ぐらを掴みかねない勢いで詰め寄ってくる。そのあまりの鬼迫に圧倒されながら、俺は困惑のままコクコクと頷くことしかできなかった。
「お、覚えてる、けど。それが一体、何なんだよ」
「…………もしかして、お前……まだ気づいてないのか?」
「何がだよ」
郁真は絶望に満ちた顔でポケットを探ると、激しく震える手で自身のスマートフォンを取り出した。そして、その画面を俺の目の前に押し付けてきた。だが、点灯した画面に映る壁紙もデジタル時計も、見慣れたいつもの画面だ。特に不審なアプリが起動しているようにも見えない。
(っていうか……なんでこんなに手が震えてんだよ。寒くもないのに)
怪訝そうに眉を顰めて固まる俺に痺れを切らしたのか、郁真が擦れた低音で呟いた。
「日付……見ろよ」
画面の上部に刻まれた文字に視線を落とす。そこには__『22日』と表示されていた。
……ん? 22日?
「は? あれ…今日って、23日じゃないのか……?」
「……」
俺の素朴な疑問に対し、郁真は何も答えない。
ただ重苦しい沈黙を守り、哀絶な眼差しで俺を見つめ返してくるだけだ。
「あ、なんだ。分かったぞ…!スマホのカレンダー設定を手動で弄るタチの悪いドッキリだろ? 驚かそうとして失敗したからって、そんな顔すんなよ」
「……じゃあ、自分のスマホ確認してみろよ」
どこか冷めた郁真の声に促されるまま、俺はポケットから自分のスマートフォンを取り出し、画面をタップした。 バックライトが灯り、液晶に浮かび上がった日付。そこにもはっきりと『22日』と表示されていた。
おかしい。
いくら郁真が器用だとしても、俺のパスコードを破って勝手に内部設定を書き換えるなんて不可能なはずだ。
「は……? どういう、こと……?」
冷や汗が背中を伝う。頭の中が急激に混乱し、現実感を失っていく。俺は助けを求めるように、慌ただしく教室を見回した。
誰でもいい。この不気味な違和感を打ち消してくれる、そんな誰かの声が必要だった。



