Love After The Loop

 どれだけ叫んだことだろう。
 声を上げてボロボロと涙を流していたはずが、気づけば自分の家へと辿り着いていた。

 玄関のドアを開けると、出迎えた母親が顔を蒼白にして駆け寄ってきた。

「唯斗!? ちょっと、今までどこに行ってたの! 連絡もつかないし……って、どうしたのその顔!?」

 必死に俺の肩を掴み、心配そうに顔を覗き込んでくる母親の声が、どこか遠くの出来事のように頭を通り過ぎていく。日本語のはずなのに、上手く処理できない。

「…ごめん。ちょっと疲れたから、寝る」

 掠れた声でそれだけ告げると、制止する声を振り払うようにして2階の自室へと階段を上った。


 部屋に入り、倒れ込むようにして自分のベッドに横たわる。
 久しぶりに仰ぎ見る自分の部屋の天井。ずっと郁真の家で過ごしていたからか、1人で横たわるベッドはやけに寒々しく、驚くほど広く感じられた。

(こんなに…広かったっけ……)

 いつもなら、すぐ隣に郁真の温もりが、あの規則的な息遣いがあったはずなのに何もない。
 目を閉じれば、溢れ出す涙が意図せず枕を濡らしていく。あいつの『好き』という言葉も、昨夜の甘く激しい体温も、全て俺を置いて消えてしまった。

 暗闇の中、ただじっと時が過ぎるのを耐えていた。


 ふと、枕元で微かにスマホが振動する。

(誰だ、)

 何気なく画面を点ける。
 時計の表示が深夜0時を跨ぎ、本来であれば日付が切り替わった瞬間だった。そこに表示されていた数字を目にした俺は、息を呑んだ。

『23日』

 息が止まる。
 何度も目を擦り、画面を凝視する。いくら見直しても、そこには確かに『23日』と刻まれていた。

「は、?…なん、なんで、るーぷしてない、??」

 心臓が不気味なほど激しく脈打ち始める。
 嫌な予感に襲われ、俺は震える手で自分の左手を持ち上げた。

「……あ」

 人差し指の付け根。
 これまでどれだけタイムループを繰り返しても、決して外れることのなかったあのシルバーのペアリングが影も形もなく、綺麗に消え去っていた。


___ループが終わった。


 あれほど渇望し、抜け出したいと願っていた『23日』の明日が、この最悪のタイミングでついにやってきてしまったのだ。
 けれど、胸を占める解放感なんかじゃなかった。郁真は俺の隣を消えたまま。22日の本当の告白も、あの言葉の真意も、何1つ受け取れていない。

 世界が動き出したというのに俺たちの止まっていた時間は、何1つとして解決していないままだった。