Love After The Loop

 静まり返った部屋の中、郁真の温もりが背中に優しく染み込んでいく。
 腫れ上がったまぶたの赤みも、さっきまで人知れず泣いていた痕跡も、全てが痛いくらいに生々しかった。これ以上、この逃避のための歪んだ時間を続けていてはいけない。そう、はっきりと胸の奥で誓う。

「……なぁ、郁真」

 腕の中にいる郁真の肩を軽く押し、まっすぐに視線を合わせる。

「ループ、抜け出そう」

 ぽつりと落としたその言葉に、郁真はぴくりと動きを止め、怪訝そうに眉をひそめた。

「……抜け出すって、どうやって?」
「ずっと言えなかった仮説がある」
「え」
「でも、その前に言わないといけないことがあるんだ」

 郁真の深い瞳を逃げずに見つめ、俺はこれまでの胸の内に深くしまい込んでいた想いを、1つずつ紐解くように言葉にしていく。

「俺、ずっと前から……ループするよりもずっと前から、郁真のことが好きなんだ」

 伝えた瞬間、郁真の息が詰まったのがはっきりと分かった。
 信じられないものを見るような、それでいて心の底から驚愕したような表情で固まっている。

「ずっと好きだった。だから、お前が軽率に言う『好き』を素直に受け取れなかったんだよ。友達としての冗談だって、いつか終わるものだって、自分で勝手に決めつけて、傷つかないように言い訳をして逃げてた」

 自分の声が微かに震える。
 けれど、今回は絶対に目を逸らすことだけはしなかった。

「怖かったんだ。お前の気持ちもこの歪んだ関係も、全部全部幻なんじゃないかって疑うのが怖くて、現実から目を背けてた。……でも、もうやめる」

 俺は息を整え、あの日の記憶を鮮明に呼び起こす。
 
 全てがループし始める直前の、正真正銘の22日のことを。
 あの帰り道で、郁真が告白してくれた時のことを。

「ループが始まる直前の、あの日の告白を……もう1回してほしい。あの時言えなかった返事を、今度はちゃんと返すから」

 その言葉を聞いた瞬間、郁真の瞳が激しく揺らぎ始めた。

「……っ、そんなので変わると思ってるのかよ」
「思う。ループは、これで終わるはずだ」

 郁真は震える手を伸ばすと、拒絶を一切許さないほどの強い力で、もう一度俺の身体をベッドへと押し倒した。
 マットレスに沈み込む背中。その上で、郁真は全身で覆いかぶさるように俺を見下ろす。彼の手が、先ほどとは違う重く熱を帯びた手つきで俺の火照った頬を包み込んだ。その指先は、焦燥で微かに震えている。

 昨日と同じ情景。
 それでも、今日の郁真はちゃんと本人に見えた。

「本気で言ってるのか…?」

掠れた、震える声が耳元に落ちる。

「唯斗……そんなこと言って、分かってるのかよ。俺がお前をどう思ってるかなんて、今まで散々見ただろ」

 郁真の瞳には、複雑な感情が渦を巻いていた。

「ループを抜け出すためだけの告白なら、俺はしない。永遠に22日を繰り返した方がマシだ」
「俺だって、形だけの告白なんて欲しくねぇよ…!」

 押し殺した声で叫ぶと、俺の胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。
 目の前で葛藤する郁真の頬を、俺は自分から両手で包み込む。すれ違い続けた瞳をまっすぐ見つめ、一語一字に魂を込めるように言葉を紡いだ。

「お前が好きだ。この気持ちは、ループを終わらせるための道具なんかじゃない!」

 その瞬間、郁真の瞳からボロリと大きな涙がこぼれ落ちた。
 息を呑む郁真を逃がさないように手力を込め、俺は語りかける。

「頼むから、もう一度言ってくれ。あの22日の放課後、俺が動揺して逃げ出したせいで立ち消えになった言葉を……今度こそ、ちゃんと俺に受け止めさせてくれ」
「……っ」

 郁真は激しく肩を揺らし、零れ落ちる涙も拭わずに何度も何度も深く頷いた。
 覆いかぶさる身体から伝わってくるのは痛いほどの震えと、ずっと1人で抱え込んできた耐えがたい孤独の体温だった。

「唯斗……ずっと、ずっと好きだった。友達としてじゃなく、世界で1番……お前を愛してる」
「ばか、それは明日言えって」