Love After The Loop

 静かに目が覚めた。
 意識が浮上すると同時に、枕元にあるスマホに手を伸ばして確認する日付は、当然のように『22日』だった。

 何度目かもう数えることもやめた、全く同じ朝の訪れ。
 けれど、昨日の夜の生々しい熱とすれ違いの痛みを引きずったまま迎えた朝の空気は、いつにも増して重い。息が詰まるほど淀んでいた。

「チッ…」

 隣から、喉を押し潰すような苦々しい舌打ちが漏れ聞こえる。
 見れば、郁真がどこか途方に暮れた目で天井を見つめていた。その表情には、昨夜見せたギラついた執着と切なさ、そして自分の愚かな暴走に対する耐えがたい自己嫌悪と気まずさが入り混じっているように見えた。

「……郁真?」

 恐る恐る声をかけるも郁真は乱暴に身体を起こし、苛立ちをぶつけるように頭をガシガシと強く掻きむしった。
 その様子がいつもの温厚な郁真とはかけ離れており、恐怖が募る。チラリとこちらを見た郁真にもそれが伝わってしまったのか、あからさまに嫌な顔をされた。

「今日、学校休むわ」

 投げやりな、けれど俺を遠ざける明確な拒絶を含んだ声だった。
 昨日のあんな密やかなやり取りと互いの根底を揺さぶるような衝突があった直後だ。顔を合わせるのが気まずいのも、1人になって頭を冷やしたいのも痛いほど理解できた。
 でも、今の郁真を1人にするのは得策ではないと本能で感じる。布団をぎゅっと握り、努めて冷静に口を開く。

「じゃ、じゃあ、俺も休むよ」

 俺の言葉を受けた郁真はぴたりと動きを止め、冷気すら孕んだ視線をゆっくりとこちらに向けてきた。

「は? お前は行けよ。…1人にしてくれ」

 その突き放すような冷たい物言いに、胸の奥がチクリと嫌な音を立てて痛む。このまま拒否されたまま離れるのが嫌で、俺はどうにか場を収めようと言葉を絞り出した。

「……昨日のことなら、俺、そんなに気にしてないからさ」

 必死に気まずさを誤魔化そうと、なるべく明るいトーンを作って言ったつもりだった。
 だが、それが間違いだったのだとすぐに思い知らされた。その言葉を聞いた瞬間、郁真の黒い瞳がスッと氷のように冷たく細められたからだ。

「お前さ、本当に何も分かってないな」

 自嘲するような、あきれ返ったような、酷く冷め切った笑みを唇に浮かべる。
 

 それから、

「お前も、ループしてればいいのに」

 まるで独り言のように、そう吐き捨てた。


「……は? なんだよ、それ」

 突然の言葉の意味が理解できず聞き返すも、郁真はそれ以上何も言わない。
 背中を向け、これ以上俺と言葉を交わす気はないという、頑な拒絶の意志を示しされてしまう。

 行き場を失った言葉を喉の奥へ押し戻し、俺は重い足取りで狭いベッドから這い出た。

 制服に着替え、鞄を肩にかけるまでの間、部屋には重苦しい沈黙だけが満ちていた。

「……勝手に出るからな」

 声をかけても返事はない。ただ静かな部屋に、規則的な衣服の擦れる音だけが虚しく響いていた。
外に出ると、まだ朝の冷気が残る誰もいない静かな街並みが広がっていた。鍵は持っていないが、郁真のことだ。きっと閉めるだろう。いつもなら2人で他愛もない会話を交わしながら歩く通学路を、俺はたった1人で歩いていく。

 あいつの残した言葉の意味も、昨夜の指先の熱も、すべてが消化しきれないまま胸の奥に重く溜まっていく。
 俺は背中に引きずり込まれるような違和感を抱えたまま、いつも通りの通学路を、ただ淡々と学校へと向かった。