シャツの中に滑り込んできた冷たい指先が、熱を帯びた肌を這う。
恐怖と頭を殴られたような混乱で、息を呑んだまま固まってしまう。
(目の前にいるのは、いくま、だよな?)
逃げようと動かした身体は郁真の体重に完全に抑え込まれ、動かすことすらできない。じりじりと追い詰められていくような不安に、頭がショートしかける。
(取り返しが、つかなくなる)
そんな予感が脳裏をよぎった瞬間だった。
「っ…!」
突然、郁真の動きがピタリと止まった。
覆い被さっていた身体がわずかに重さを失い、シャツの中に入っていた手がまるで拒絶されたように引き抜かれる。
驚いて見上げると、そこにあったのは、先ほどまでのギラついた執着の色ではなかった。
郁真は歯噛みするような、全てを憎むような、それでいてどうしようもなく悔しそうに顔を歪めていた。
「……くそっ……」
小さく吐き捨てられた声が、震えている。
「いくま……?」
恐怖の余韻に震えながら名前を呼ぶと、郁真はゆっくりと顔を上げた。
その瞳に浮かんでいたのは、怒りでも狂気でもなく、痛々しいほどの絶望だった。悲しげで、苦しげに歪められた表情に、俺は息を呑む。
「……そんなに、怖がらないでよ」
掠れた、乾いた声が落ちる。
「俺は、お前が嫌がるようなことはしたくない。……なのに、どうしてそんなに怯えるんだよ」
「だっ、だって……お前、急に……」
「俺からのこと、そんなに信じられない?」
郁真の言葉に、胸が突かれたように痛んだ。
郁真は震えるで真っ直ぐに俺を見つめる。その目は、ガラス細工のように脆く見えた。
「俺が言う『好き』も、お前に触れたいと思うことも、全部本当だよ。嘘で言ったことなんて、一度もない」
絞り出すような声だった。
「俺の気持ちまで全部幻みたいに片付けるなよ」
苦しげに眉を寄せ、郁真は懇願するように俺を見る。
「……俺からのことを否定するなよ。せめて、言葉は、…言葉だけでも信じてくれよ」
その声の響きに、胸の奥が締め付けられるように熱くなった。
狂気に満ちていると思っていたのは、勘違いだったのかもしれない。そこにあったのは、歪んでいるけれど、あまりにも切実で、純粋すぎるほどの独占欲だったのだろうか。
逃げ出したいと思っていたはずなのに。
目の前で傷ついたように息を殺す郁真を見ていると、恐怖よりも先に、どうしようもない罪悪感が胸を満たしていく。
「……俺は……」
言葉を探そうと口を開けたが、適切な返事なんて見つからなかった。
暗闇の中、2人だけの狭いベッドの上で俺たちはただ息を潜め、行き場を失った熱だけを持て余していた。
恐怖と頭を殴られたような混乱で、息を呑んだまま固まってしまう。
(目の前にいるのは、いくま、だよな?)
逃げようと動かした身体は郁真の体重に完全に抑え込まれ、動かすことすらできない。じりじりと追い詰められていくような不安に、頭がショートしかける。
(取り返しが、つかなくなる)
そんな予感が脳裏をよぎった瞬間だった。
「っ…!」
突然、郁真の動きがピタリと止まった。
覆い被さっていた身体がわずかに重さを失い、シャツの中に入っていた手がまるで拒絶されたように引き抜かれる。
驚いて見上げると、そこにあったのは、先ほどまでのギラついた執着の色ではなかった。
郁真は歯噛みするような、全てを憎むような、それでいてどうしようもなく悔しそうに顔を歪めていた。
「……くそっ……」
小さく吐き捨てられた声が、震えている。
「いくま……?」
恐怖の余韻に震えながら名前を呼ぶと、郁真はゆっくりと顔を上げた。
その瞳に浮かんでいたのは、怒りでも狂気でもなく、痛々しいほどの絶望だった。悲しげで、苦しげに歪められた表情に、俺は息を呑む。
「……そんなに、怖がらないでよ」
掠れた、乾いた声が落ちる。
「俺は、お前が嫌がるようなことはしたくない。……なのに、どうしてそんなに怯えるんだよ」
「だっ、だって……お前、急に……」
「俺からのこと、そんなに信じられない?」
郁真の言葉に、胸が突かれたように痛んだ。
郁真は震えるで真っ直ぐに俺を見つめる。その目は、ガラス細工のように脆く見えた。
「俺が言う『好き』も、お前に触れたいと思うことも、全部本当だよ。嘘で言ったことなんて、一度もない」
絞り出すような声だった。
「俺の気持ちまで全部幻みたいに片付けるなよ」
苦しげに眉を寄せ、郁真は懇願するように俺を見る。
「……俺からのことを否定するなよ。せめて、言葉は、…言葉だけでも信じてくれよ」
その声の響きに、胸の奥が締め付けられるように熱くなった。
狂気に満ちていると思っていたのは、勘違いだったのかもしれない。そこにあったのは、歪んでいるけれど、あまりにも切実で、純粋すぎるほどの独占欲だったのだろうか。
逃げ出したいと思っていたはずなのに。
目の前で傷ついたように息を殺す郁真を見ていると、恐怖よりも先に、どうしようもない罪悪感が胸を満たしていく。
「……俺は……」
言葉を探そうと口を開けたが、適切な返事なんて見つからなかった。
暗闇の中、2人だけの狭いベッドの上で俺たちはただ息を潜め、行き場を失った熱だけを持て余していた。



