「んっ…」
その夜も深く重なった唇が静かに離れた後、郁真は名残惜しそうに俺の前髪を指先で優しく梳った。
「なぁ、唯斗」
「っ、はあ…なんだよ」
「明日も一緒に居てくれよ」
「…当たり前だろ。どうせ俺たち、どこにも行けないんだから」
ぶっきらぼうにそっぽを向いて返すと、郁真は愛おしさに耐えかねたようにふっと嬉しそうに目元を緩めた。
暗闇の中で浮かび上がるその笑顔があまりにも綺麗で、俺の胸は張り裂けそうなほど強く締め付けられる。
(好きだなぁ)
この歪んだ世界で、何度目になるか分からない切実な想いを俺はぐっと喉の奥へと飲み込む。
誰も知らない。
明日になれば何事もなかったかのように消えてなくなる。
そう高を括って自分を騙しているからこそ、こうして郁真の隣に平然と居続けることができるのだ。恋人同士の真似事のような甘い蜜に、どっぷりと身を沈め続けることができる。
だけど、部屋の灯りを消して暗い天井を見つめながら、ふと背筋が凍りつくような恐ろしい感覚に襲われた。
最初はあれほど絶望し、恐れていたはずの『終わらない今日』という異常事態に、今や俺は心のどこかで深く安堵してしまっている。
もしも明日、奇跡か気まぐれのように本当にループが解けて『23日』がやってきてしまったら?
この偽りの甘い関係が、あっけなく終わってしまったら?
想像するだけで、腹の底から吐き気が込み上げるほどの凄まじい恐怖が押し寄せてくる。
世界の時間が永遠に止まることよりも、この歪んだ日常が終わってしまうことの方が圧倒的に恐ろしいなんて、どう考えてもまともな人間の思考じゃない。
__本当におかしくなっているのは、俺の方だ。
その事実に、気づいてしまった。
「……おい、寝たか?」
浅い呼吸を繰り返していた俺の隣から、郁真の低く穏やかな声が聞こえた。一瞬息を飲み、平静を装って口を開く。
「…まだ」
「そっか」
良かった、声は震えていない。
そんなことに安堵している隙に、郁真の長い腕が滑るように伸びてきた。そして、俺の身体を強く引き寄せる。
胸に触れる体温があまりにも温かい。振り払って逃げ出したくなるほど恐ろしく心地いいその熱に、俺は抗うすべもなく、すがりつくようにその身を深く委ねた。
頭の片隅で、カンカンと甲高く警報が鳴り響いている。
こんなの、ただの狂った共依存だ。出口のない世界でお互いの温もりだけに縋って壊れていく、最低で最悪な現実逃避。
それなのに、
「…おやすみ、唯斗」
「おやすみ、郁真」
暗闇の中で理性が木端微塵に砕け散る乾いた音が聞こえながらも、俺は最後までこの毒のように甘い蜜から目を背けることができなかった。
その夜も深く重なった唇が静かに離れた後、郁真は名残惜しそうに俺の前髪を指先で優しく梳った。
「なぁ、唯斗」
「っ、はあ…なんだよ」
「明日も一緒に居てくれよ」
「…当たり前だろ。どうせ俺たち、どこにも行けないんだから」
ぶっきらぼうにそっぽを向いて返すと、郁真は愛おしさに耐えかねたようにふっと嬉しそうに目元を緩めた。
暗闇の中で浮かび上がるその笑顔があまりにも綺麗で、俺の胸は張り裂けそうなほど強く締め付けられる。
(好きだなぁ)
この歪んだ世界で、何度目になるか分からない切実な想いを俺はぐっと喉の奥へと飲み込む。
誰も知らない。
明日になれば何事もなかったかのように消えてなくなる。
そう高を括って自分を騙しているからこそ、こうして郁真の隣に平然と居続けることができるのだ。恋人同士の真似事のような甘い蜜に、どっぷりと身を沈め続けることができる。
だけど、部屋の灯りを消して暗い天井を見つめながら、ふと背筋が凍りつくような恐ろしい感覚に襲われた。
最初はあれほど絶望し、恐れていたはずの『終わらない今日』という異常事態に、今や俺は心のどこかで深く安堵してしまっている。
もしも明日、奇跡か気まぐれのように本当にループが解けて『23日』がやってきてしまったら?
この偽りの甘い関係が、あっけなく終わってしまったら?
想像するだけで、腹の底から吐き気が込み上げるほどの凄まじい恐怖が押し寄せてくる。
世界の時間が永遠に止まることよりも、この歪んだ日常が終わってしまうことの方が圧倒的に恐ろしいなんて、どう考えてもまともな人間の思考じゃない。
__本当におかしくなっているのは、俺の方だ。
その事実に、気づいてしまった。
「……おい、寝たか?」
浅い呼吸を繰り返していた俺の隣から、郁真の低く穏やかな声が聞こえた。一瞬息を飲み、平静を装って口を開く。
「…まだ」
「そっか」
良かった、声は震えていない。
そんなことに安堵している隙に、郁真の長い腕が滑るように伸びてきた。そして、俺の身体を強く引き寄せる。
胸に触れる体温があまりにも温かい。振り払って逃げ出したくなるほど恐ろしく心地いいその熱に、俺は抗うすべもなく、すがりつくようにその身を深く委ねた。
頭の片隅で、カンカンと甲高く警報が鳴り響いている。
こんなの、ただの狂った共依存だ。出口のない世界でお互いの温もりだけに縋って壊れていく、最低で最悪な現実逃避。
それなのに、
「…おやすみ、唯斗」
「おやすみ、郁真」
暗闇の中で理性が木端微塵に砕け散る乾いた音が聞こえながらも、俺は最後までこの毒のように甘い蜜から目を背けることができなかった。



