Love After The Loop

 それからというもの、俺たちの閉ざされた日常には誰にも言えない秘密の習慣が1つ増えた。

__眠る前の甘いキス

 最初は、自分の胸の奥に燻る焦燥を紛らわせるための、半ば冗談めいた行為だった。
 勢いに任せた、ほんの一時の衝動だったはずなのに。いつしかそれは、毎晩欠かせないものになっていた。

 狭いシングルベッドに2人で潜り込み、肩と腕を触れ合わせるように身を寄せる。暗闇の中で目を合わせることもなく、ただ当たり前のように唇を重ねる。

 シーツが擦れる微かな音。
 すぐ隣から聞こえる、互いの少し荒い息遣い。
 それだけが、夜の静寂を満たしていた。

 甘かった。でも、苦しいほど切なかった。

 それでも、どうしようもなく心地よかった。

(だって、)

(どうせ、)

 胸の奥では、いつもそうやって自分に言い聞かせていた。どうせ明日になれば、日付は何事もなかったようにリセットされる。また、あの見慣れた『22日』の朝へと強制的に引き戻されるのだ。

 今日交わした体温も、耳元で囁いた言葉も、唇に残った微かな痺れさえも、何もかも。夜が明ければ、全てが泡沫のように消えてしまう。この繰り返す世界の中で、俺たちのことを知る者はいない。

 だから、どこまで線を越えたって構わないはずだった。

 どれだけ郁真に甘えてもどれだけわがままを言っても、欲望のままに相手を求めたとしても。罪悪感に苛まれる理由なんて、最初からどこにもない。

 そうやって自分自身に嘘をつきながら、俺は郁真の首へ腕を回した。

 そして、もう一度唇を重ねる。

 さっきよりも長く。
 さっきよりも深く。

 朝が来れば、すべてが無へと帰ってしまうのだから。

 その圧倒的な虚無と恐怖から逃げるように、俺は郁真の体温へ縋りついた。触れている間だけは、確かにここにいると思えた。

 明日も同じ朝が来る。また『22日』に戻される。
 それでも今だけは、この温もりを失いたくなかった。その度に、胸の奥へ泥のような甘い毒がゆっくりと広がっていく。

「__もっと、」

 永遠に明けることのない『22日』という底なし沼。
 その暗闇の中で、俺たちは互いの手ごと強く握りしめていた。

 明日には消えるから、
 誰にも知られないから、
 何をしてもなかったことになるから、

 そんな言い訳を1つずつ積み重ねながら。

 俺たちは確実に、もう二度と戻れない場所へと堕ちていった。