「なあ、唯斗」
「ん?」
テレビを見たまま、郁真の言葉に耳を傾ける。
「最近さ」
「うん」
「ここにいるの、慣れたよな」
「…まあな」
俺は狭いソファーの上で腕を組み、ぐるりと部屋を見渡した。
部屋の景色もすでに見慣れたものとなっていた。もはや、自分の家の方が記憶が朧げなまである。もう何日家に帰っていないことだろうか。それでも、世界にとってはたった1日…いや、1日未満のことには違いなかった。
「もう勝手知ったる我が家って感じ」
「俺の家なんだけど」
「細かいこと言うなよ」
「いや、居主としては結構大事だろ」
郁真が呆れたように笑う。俺もつられて小さく笑う。
それから、2人で静かにテレビの画面を眺めた。何も起きない、どこにでもあるなんでもない時間。
いつの間にか身体を起こした郁真が小さく笑う。その笑い声が心地よかった。
「……好きだな」
だからこそ、この言葉が不意に暗闇の中へポツリと落ちてきた時、俺は一瞬だけその意味を理解できなかった。
完全に気を抜いていた俺は、一瞬幻聴でも聞こえたのかと思った。
「え?」
思わず隣を見る。
しかし郁真は視線をテレビに向けたまま、まるで天気の話でもするかのように言った。
__好き
久しぶりに聞いた。
郁真の口からその言葉を聞くのは、ループが始まってから本当に久しぶりのことだった。
「……久々だな、それ」
静かな部屋に、俺の引きつった笑い声が落ちる。言うつもりもなかったし、聞き流すつもりだった。
でも、堪えきれないままに変な言葉が部屋に落ちた。
「何が?」
「お前が俺に『好き』って言うの」
「あー……」
郁真はどこか照れくさそうに、少しだけ困ったように笑った。
「そうだな」
「最近、全然言わなかったじゃん」
「うん」
「どうしたんだよ、急に」
「……なんか」
郁真がふと首を巡らせ、俺を真っ直ぐに見つめた。
「言いたくなっちゃったんだよ」
胸の奥が、甘くくすぐったい感覚でジワリと痺れた。
昔なら、郁真から『好き』と言われる度に、嬉しさと同時に心が引きちぎれるほど苦しくなったことだろう。
郁真にとっては、ただの気置けない友達としての『好き』。
でも俺は、決してそうじゃない切実な『好き』だと思いたかった。
同じたった2文字の言葉なのに、背負わせている意味の重さだけが残酷に違っていた。
苦しい。
ただその感情に、吐きそうになっていたことだろう。
……でも今は、ほんの少しだけ違う気がしていた。
俺たちは今、毎日のように同じ屋根の下で一緒に過ごしている。何度も、何百回も同じ1日を繰り返し重なり合って、世界中で誰にも理解されない孤独な時間を2人だけで分け合っている。
同じ理不尽な恐怖を感じて。
同じくだらないことで笑い合って。
同じ夜の暗闇を過ごして。
そんな愛おしい日々の中で、俺は密かに少しずつ思うようになっていた。
(もしかしたら、郁真の言う『好き』は軽いものじゃないのかもしれない)
願望や先入観を取り払って見えてきたのは、純粋な郁真の好意。
それが恋愛感情であろうとなかろうと、自分に向けられている感情には変わりないと思えるようになっていた。
だから、
「……そっか」
俺は、平静を装って笑ってみせた。
「じゃあ、俺も」
「……ぇ」
「俺も好き」
「ん?」
テレビを見たまま、郁真の言葉に耳を傾ける。
「最近さ」
「うん」
「ここにいるの、慣れたよな」
「…まあな」
俺は狭いソファーの上で腕を組み、ぐるりと部屋を見渡した。
部屋の景色もすでに見慣れたものとなっていた。もはや、自分の家の方が記憶が朧げなまである。もう何日家に帰っていないことだろうか。それでも、世界にとってはたった1日…いや、1日未満のことには違いなかった。
「もう勝手知ったる我が家って感じ」
「俺の家なんだけど」
「細かいこと言うなよ」
「いや、居主としては結構大事だろ」
郁真が呆れたように笑う。俺もつられて小さく笑う。
それから、2人で静かにテレビの画面を眺めた。何も起きない、どこにでもあるなんでもない時間。
いつの間にか身体を起こした郁真が小さく笑う。その笑い声が心地よかった。
「……好きだな」
だからこそ、この言葉が不意に暗闇の中へポツリと落ちてきた時、俺は一瞬だけその意味を理解できなかった。
完全に気を抜いていた俺は、一瞬幻聴でも聞こえたのかと思った。
「え?」
思わず隣を見る。
しかし郁真は視線をテレビに向けたまま、まるで天気の話でもするかのように言った。
__好き
久しぶりに聞いた。
郁真の口からその言葉を聞くのは、ループが始まってから本当に久しぶりのことだった。
「……久々だな、それ」
静かな部屋に、俺の引きつった笑い声が落ちる。言うつもりもなかったし、聞き流すつもりだった。
でも、堪えきれないままに変な言葉が部屋に落ちた。
「何が?」
「お前が俺に『好き』って言うの」
「あー……」
郁真はどこか照れくさそうに、少しだけ困ったように笑った。
「そうだな」
「最近、全然言わなかったじゃん」
「うん」
「どうしたんだよ、急に」
「……なんか」
郁真がふと首を巡らせ、俺を真っ直ぐに見つめた。
「言いたくなっちゃったんだよ」
胸の奥が、甘くくすぐったい感覚でジワリと痺れた。
昔なら、郁真から『好き』と言われる度に、嬉しさと同時に心が引きちぎれるほど苦しくなったことだろう。
郁真にとっては、ただの気置けない友達としての『好き』。
でも俺は、決してそうじゃない切実な『好き』だと思いたかった。
同じたった2文字の言葉なのに、背負わせている意味の重さだけが残酷に違っていた。
苦しい。
ただその感情に、吐きそうになっていたことだろう。
……でも今は、ほんの少しだけ違う気がしていた。
俺たちは今、毎日のように同じ屋根の下で一緒に過ごしている。何度も、何百回も同じ1日を繰り返し重なり合って、世界中で誰にも理解されない孤独な時間を2人だけで分け合っている。
同じ理不尽な恐怖を感じて。
同じくだらないことで笑い合って。
同じ夜の暗闇を過ごして。
そんな愛おしい日々の中で、俺は密かに少しずつ思うようになっていた。
(もしかしたら、郁真の言う『好き』は軽いものじゃないのかもしれない)
願望や先入観を取り払って見えてきたのは、純粋な郁真の好意。
それが恋愛感情であろうとなかろうと、自分に向けられている感情には変わりないと思えるようになっていた。
だから、
「……そっか」
俺は、平静を装って笑ってみせた。
「じゃあ、俺も」
「……ぇ」
「俺も好き」



