ふと、感覚が浮上して目が覚めた。
部屋の中はしんと静まり返り、足元の窓から差し込む薄っすらとした街灯の光以外は真っ暗だった。
枕元のスマホを手にとり、画面を点ける。
__22日 午前0時02分
同時に隣で衣擦れの音がして、郁真も身体を起こすのが気配で分かった。
「…唯斗?」
「悪い、起こしたか?」
「大丈夫。今、何時…?」
「0時過ぎ」
郁真も自分のスマホを手に取り、画面の明かりが暗闇の中で2人の顔を青白く浮かび上がらせた。顔を顰めながら画面を見つめる郁真の横顔を、そっと見つめた。
「…………22日だ」
郁真の言葉に何も返せない。
何度も、何度も画面の数字を確認する。
午前0時。時間だけは確実に刻まれ、昨日から今日へと進んだ。なのに、日付の数字だけがどうしても変わらない。23日へ進んでくれない。
(やっぱり、駄目だったか)
「……これって」
郁真が掠れた声で呟いた。
「ループする『時間』が、ついに分かったんじゃないか?」
「え…?」
「俺たち、今までずっと朝起きた後に黒板とかスマホを見て確認してただろ」
その言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。
毎朝、目が覚めると世界が巻き戻っている。
__スマホに突きつけられる『22日』
__教室の黒板に書かれた『22日』
俺たちはこれまで、その「起きた後の結果」だけを見て絶望し、1日を何度も繰り返してきた。
「つまり…」
「日付が変わる0時になった瞬間に、世界は22日へ巻き戻されてるんだ」
郁真が画面を凝視したまま、自分を納得させるように何度も頷く。
「でも俺たちはこうして同じ家の、同じベッドの上にいる。俺たちだけは、ループの特異点として認められたんだよ」
「確かに…本当に21日から続くなら、俺がここにいるのはおかしいもんな」
「世界的に見れば、唯斗が俺の家に瞬間移動してこないと説明がつかない」
俺は深く息を呑んだ。
確実に、このループが綻び始めている。
スマホのデジタル時計の数字だけが、静かに刻まれていく。
0時03分
0時04分
0時05分
確実に時間は未来へ向かって流れている。
けれど、日付だけは『22日』のまま。
「……なんか、気味が悪いな」
思わず本音が口から漏れ出た。
「でも、壊せる兆しが見えた」
隣で郁真がスマホを強く握り直した。目を見開き、口角を上げながら明らかに興奮を隠しきれない様子で口を開いた。場違いにもその表情にどきりとしてしまう。
でも、そうだ。その通りだ。
今までは朝に目が覚めて、ただ一方的に戻された事実を突きつけられるだけだった。
ここまで来たら、詳細まで明らかにしたい。
今できることを、少しでも。
「……だったら」
俺もスマホを握りしめ、郁真の目を見つめた。
「次の0時は、その瞬間までずっと起きてようぜ。もう一度、このループが起きる瞬間を2人で監視するんだ。もしかしたら、また0時に巻き戻るかもしれない。でも、その瞬間に何かが起きている可能性だってあるだろ」
2人で深く頷き合う。
不安が完全に消えたわけじゃない。怖くないと言えば嘘になる。
それでも、ただ流されるままだった昨日までと違って、俺たちは初めて確信をもって自分たちの足でループの法則へ1歩踏み込んだのだ。
そして何より。
すぐ隣には同じ恐怖と希望を分かち合える郁真がいる。
「なあ、郁真」
「ん?」
「…指輪」
「うん?」
「これ……やっぱり、消えずに残ってるな」
布団から左手を出し、見せる。
暗闇の中で、人差し指にはめた鈍い銀色のリングが、スマホの青白い光を反射して静かに煌めいた。
郁真も自分の左手を持ち上げ、指輪を見つめる。
「……これで少しは、前に進めたかな」
液晶画面を見つめたまま、呟く。
「うん」
郁真が隣で力強く答えた。
「多分、このループが始まってから1番前進してる」
俺たちは肩を寄せ合い、並んでスマホの画面を見つめ続けた。
午前0時。
本来ならただ1日が終わり、新しい明日が始まるだけの当たり前の時間。
けれど今の俺たちにとっては、この歪んだ世界がもう一度22日に戻されるのか、それとも明日へと進めるのかを決める大切な境界線になっていた。
部屋の中はしんと静まり返り、足元の窓から差し込む薄っすらとした街灯の光以外は真っ暗だった。
枕元のスマホを手にとり、画面を点ける。
__22日 午前0時02分
同時に隣で衣擦れの音がして、郁真も身体を起こすのが気配で分かった。
「…唯斗?」
「悪い、起こしたか?」
「大丈夫。今、何時…?」
「0時過ぎ」
郁真も自分のスマホを手に取り、画面の明かりが暗闇の中で2人の顔を青白く浮かび上がらせた。顔を顰めながら画面を見つめる郁真の横顔を、そっと見つめた。
「…………22日だ」
郁真の言葉に何も返せない。
何度も、何度も画面の数字を確認する。
午前0時。時間だけは確実に刻まれ、昨日から今日へと進んだ。なのに、日付の数字だけがどうしても変わらない。23日へ進んでくれない。
(やっぱり、駄目だったか)
「……これって」
郁真が掠れた声で呟いた。
「ループする『時間』が、ついに分かったんじゃないか?」
「え…?」
「俺たち、今までずっと朝起きた後に黒板とかスマホを見て確認してただろ」
その言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。
毎朝、目が覚めると世界が巻き戻っている。
__スマホに突きつけられる『22日』
__教室の黒板に書かれた『22日』
俺たちはこれまで、その「起きた後の結果」だけを見て絶望し、1日を何度も繰り返してきた。
「つまり…」
「日付が変わる0時になった瞬間に、世界は22日へ巻き戻されてるんだ」
郁真が画面を凝視したまま、自分を納得させるように何度も頷く。
「でも俺たちはこうして同じ家の、同じベッドの上にいる。俺たちだけは、ループの特異点として認められたんだよ」
「確かに…本当に21日から続くなら、俺がここにいるのはおかしいもんな」
「世界的に見れば、唯斗が俺の家に瞬間移動してこないと説明がつかない」
俺は深く息を呑んだ。
確実に、このループが綻び始めている。
スマホのデジタル時計の数字だけが、静かに刻まれていく。
0時03分
0時04分
0時05分
確実に時間は未来へ向かって流れている。
けれど、日付だけは『22日』のまま。
「……なんか、気味が悪いな」
思わず本音が口から漏れ出た。
「でも、壊せる兆しが見えた」
隣で郁真がスマホを強く握り直した。目を見開き、口角を上げながら明らかに興奮を隠しきれない様子で口を開いた。場違いにもその表情にどきりとしてしまう。
でも、そうだ。その通りだ。
今までは朝に目が覚めて、ただ一方的に戻された事実を突きつけられるだけだった。
ここまで来たら、詳細まで明らかにしたい。
今できることを、少しでも。
「……だったら」
俺もスマホを握りしめ、郁真の目を見つめた。
「次の0時は、その瞬間までずっと起きてようぜ。もう一度、このループが起きる瞬間を2人で監視するんだ。もしかしたら、また0時に巻き戻るかもしれない。でも、その瞬間に何かが起きている可能性だってあるだろ」
2人で深く頷き合う。
不安が完全に消えたわけじゃない。怖くないと言えば嘘になる。
それでも、ただ流されるままだった昨日までと違って、俺たちは初めて確信をもって自分たちの足でループの法則へ1歩踏み込んだのだ。
そして何より。
すぐ隣には同じ恐怖と希望を分かち合える郁真がいる。
「なあ、郁真」
「ん?」
「…指輪」
「うん?」
「これ……やっぱり、消えずに残ってるな」
布団から左手を出し、見せる。
暗闇の中で、人差し指にはめた鈍い銀色のリングが、スマホの青白い光を反射して静かに煌めいた。
郁真も自分の左手を持ち上げ、指輪を見つめる。
「……これで少しは、前に進めたかな」
液晶画面を見つめたまま、呟く。
「うん」
郁真が隣で力強く答えた。
「多分、このループが始まってから1番前進してる」
俺たちは肩を寄せ合い、並んでスマホの画面を見つめ続けた。
午前0時。
本来ならただ1日が終わり、新しい明日が始まるだけの当たり前の時間。
けれど今の俺たちにとっては、この歪んだ世界がもう一度22日に戻されるのか、それとも明日へと進めるのかを決める大切な境界線になっていた。



