Love After The Loop

 風呂を済ませ、2人で並んで歯を磨き終える頃には、壁掛け時計の針はすでに夜の11時を回っていた。

「ふぁ…。じゃあ、そろそろ寝るか」

 郁真が目をこすりながら、欠伸を噛み殺す。

「うん」

 促されるまま、郁真の部屋へと案内される。そして次の瞬間、俺は扉の前で完全に固まった。
 6畳ほどの部屋の中央に鎮座していたのは、綺麗に整えられた1台のベッド。それも、どう見てもごく普通のシングルサイズだ。

「…おい」
「ん?」
「ベッド、1個しかないんだけど」
「そうだな」
「『そうだな』じゃねぇよ。俺、どこで寝るんだよ」

 郁真はきょとんとした顔をしたあと、俺とベッドを交互に見た。

「? 一緒に寝ると思ってたんだけど」
「はい?」

 しばらくの間、俺たちは無言で見つめ合った。やがて、先に口を開いたのは俺だった。

「…はぁ。俺、ソファーで寝るよ。悪いけど、リビングのソファー貸してくれ」
「いや、絶対風邪引くから駄目」
「大丈夫だって」
「なんでだよ!一緒に寝るぐらいいいだろ!」

(っ、なんだよ。一緒に寝るぐらいって、)

 思わず言葉に詰まる。
 沈黙の末、郁真は俯いたまま、ぽつりと口を開いた。

「…なんだよ。そんなに嫌なのかよ」

 やけにしょんぼりとした声だった。
 それを聞いた途端、何も言えなくなる。

「…マジで言ってる?」
「マジだよ」
「……分かったって」

 不毛な押し問答の末、俺たちは妙な妥協点に辿り着くことになった。

__狭いシングルベッドに、高校生の男2人。

 電気を消し、掛け布団の中へ潜り込む。そして、想像以上の狭さに、思わず息が詰まりそうになった。

「近いな」
「仕方ないだろ。風邪ひくよりマシ」

 腕と腕がぴったりと触れ合っている。肩と肩が押し付け合い、寝返りを打つ余地すらない。

 暗闇の中では、意識してしまうなんてレベルをとうに超えていた。
 隣にいる郁真の存在が、全身で感じ取れる。

「…これ、寝られるか?」
「正直、無理かも」
「……やっぱり、」
「駄目」
「…」
「勝手に行くなって。唯斗は今日、ここで寝るんだよ」

(なんだ、これ)

 ずっと好きだった奴と、1つのベッドで添い寝している。

 本来なら、パニックになって心臓が破裂しそうな状況だ。
 それなのに、頭の片隅にはどうしてもタイムループのことがチラついて離れない。

 それでも意識してしまうのは、耳元で聞こえる郁真の規則的な衣擦れの音。
 そしてすぐ隣から伝わってくる、少しだけ早い呼吸。

 それが気になって、さっきから心臓は弾けそうだった。

 暗闇の中、布団の中でそっと触れ合う左手。指先に触れたのは、あの指輪だった。
 人差し指にはめられた指輪がひんやりとした感触を残しながら、皮膚を通してじんわりと体温を伝えてくる。

 今夜、本当に眠れるのかどうかは分からなかった。

 けれど左手に伝わる、冷たくて温かな不思議な指輪の感触。
 そして、すぐ隣にいる郁真の確かな体温。

 その2つを感じながら、俺の意識はゆっくりと深い闇の中へと溶けていった。